作品タイトル不明
341 防衛態勢 2
『そこの鳥さん、ちょっとお話を聞いて欲しいんだけど……』
『人間が喋る? そんな馬鹿な!!』
いや、またコレかい……。
* *
『ちょっと、そこの猫さん。いい儲け話があるんだけど……』
『キェェェェェェアァァァァァァ喋ッタァァァァァァァ!!』
……もう、ええっちゅーねん!
まあ、既に2回……、いや、昔のを合わせると、もっとか……、とにかく何度も繰り返した説明を、もう1回繰り返すだけの、簡単なお仕事だ。
いや、猫を相手にするのは初めてだけど、ほら、もこもこのふわふわとか、ベッドの中に頭から飛び込んできて、布団の中でくるくるっと回ってから私の首の横にちょこんと頭を出してキラキラする瞳で見詰めてくるとか、もう、サイコーじゃん!
はぁはぁ……。
* *
斯くして、私達(私、レイコ、ファルセット)は、宿を引き払って借家へと移動することになった。
借りた名義人が恭ちゃんだけど、まぁ、細かいことは気にしない!
商人が王都滞在用に借りたけれどまだ使っていない借家を、お金を払って使わせてもらっているとでも言えばいいか。
ま、そもそも、そんなことを気にしたり聞いてきたりする人はいないか。
借り主の名義なんか、不動産屋くらいしか知らないだろうし。
「……というわけで、ここが新居となりま〜す!」
レイコは勿論この物件のことは知っているので、ファルセットに対しての説明だ。
動物さんチームは、数日後に、少しずつやって来る予定である。
大量の動物達をぞろぞろと引き連れてやって来るわけにはいかないし、いきなりドン、というのも色々と支障がありそうなので……。
「ここは恭ちゃんのお店じゃなくてただの住居だから、部屋数には余裕があるよ。
だから、ひとり一部屋、つまり4人全員が個室だね」
うむ、これで私とレイコが同室、ファルセットだけがひとり別の部屋、という状況は解消された。
ひと安心だ。
……というか、ファルセットは私があの『女神カオル』だと思って仕えに来たらしいのだけど、私と同格、つまり他の世界から来た女神が他にふたりもいると知って、どう思っているのだろうか。
レイコと恭ちゃんを、私と同格として扱うのか、それとも違いをつけるのか。
フランセットや『女神の眼』、マリアル、その他『女神カオル真教』の連中は、別に私が女神だと思っているから狂信者になったわけじゃないらしいのだ。昔、みんなが言っていたことや、経典として残されている記録によると……。
相手が女神であれば狂信者になるというならば、私がこの世界に来る前に、既にセレスの熱狂的な信者になっていてもおかしくはないだろう。
でも、セレスに対してはごく普通の信徒だったのに、連中が私に対する狂信者になっちゃったのは……、まぁ、私に救われた、と思っちゃったからなんだろうなぁ……。
ならば、私と、私の友人であるふたり……2柱の女神に対しては、どうなのか。
そのあたりを、ファルセット本人にズバリ聞いてみたところ……。
「全てを捧げお仕えするのは、カオル様に対してです。そしてレイコ様とキョウコ様は、カオル様の大切な御友人、そして異世界の女神として、命を捧げお仕えいたします。……カオル様の次に」
ということらしい。
いや、デリケートな質問を直球で投げちゃったけど、これはハッキリとさせとかなきゃならない 問題(コト) だからねぇ。
以後の4人(恭ちゃんを含む)の関係や、指示、命令等を出した時に優先順位を誤られると、困ったことになるからね。
……で、結局、普段はファルセットも含めて4人みんなが対等に、同格の職場の同僚みたいな感じで暮らして、いざという時には女神と守護騎士という立場で命令を、ということになった。
実は、ファルセットが『そんな、 畏(おそ) れ多い!』とか言うんじゃないかと思っていたのだけど、そんなことはなかった。
あまりにもあっさりと了承するものだから、聞いてみたところ……。
「私達が、真祖様から何度『栄光の日々』の話を聞かされていると思っておられるのですか!
各エピソードを、それぞれ数十回ずつ、何度も何度も何度も……。
本当に、 惚(ぼ) けたんじゃないかと思うくらい、同じ話を何度も……。
もう、殆ど暗記しちゃいましたよっ!
なので、カオル様が普通に話すことを好まれるとか、時には怒鳴りつけて叱責して差し上げないと調子に乗るだとか、みんな知っていますよ!」
……って言われた。
何じゃ、そりゃあああああ〜〜!!
そして、その時を境に、ファルセットは私達と普通に喋るようになった。
いや、そりゃ女学生同士みたいなわけにはいかないけれど、昔のフランセットみたいな感じで。
勿論、他の者がいる時には、雇われ護衛と雇い主、という関係に見えるような喋り方をするけれど、ま、若い女性同士だから、少々タメ口だったりしても、そうおかしくはないだろう。
* *
引っ越し……というか、入居から、数日が経過した。
借家には家具がなかったけれど、私のアイテムボックスには色々と入っているから、問題なかった。
何せ、この世界に来てすぐに手に入れた、あの男爵家からの徴発品であるベッドさえまだ持っているのだ。その後入手した家具とかも、買い換えて不要になったものとかも、全部捨てずにアイテムボックスの中に入れているのだ。『リトルシルバー』の前身である孤児院を買った時に残されていたベッドとかも、全部入ってる。子供達には、ふかふかのいいベッドを買ってあげたからね。
……いや、街や国の経済を回すために、ちゃんと買い物をしてお金は使ってるよ。
ただ、古くなったものを捨てずに持ち続けているだけだ。
そして、持っていた古い家具はあくまでも一時凌ぎ用であって、恭ちゃんが来れば、全部買い直す予定だ。
ここの持ち主がいないのに大量の家具を買い込むのはちょっと目立つかな、と思っただけだ。
それに、家具はみんなで選びたい。恭ちゃんも一緒にね。
そして今日は、第一陣がやって来る日だ。
……何の?
勿論、ふわふわのもこもこ!
警備犬、諜報猫、警戒監視鳥達の第1シフトメンバーがやって来るのである!!
状況説明のためにボスがみんなを集めてくれた時に会っただけの者が大半で、一部、怪我や病気の治癒のためにもう一度会った者がいる。
シフト割は各種族のボス達に任せたから、今日来るのがどの個体なのかは知らないけれど、説明会の時にノミ・ダニ・シラミ避けのポーションを飲ませているし、レイコが洗浄魔法で洗ったから、みんなふわふわのもこもこ、もふもふなのだ!
……やってきた連中、また汚れてた……。
そりゃ、屋外で暮らしてて、地面に座ったり寝転んだりするから、当然か……。
これから、当番でうちに来る度にレイコに洗浄魔法を掛けさせよう。
そして多分、またノミとかも付いているのだろうな……。
あ、いや、ノミ取りポーションは効果が持続するか。
日本で売ってたフィラリアの薬は、予防薬じゃなくて『駆除薬』だから定期的に飲ませなきゃなんないけど、神様工房の薬なら、そんなの関係ねぇ!
ノミもダニもシラミも寄生虫も、予防効果と駆除効果が持続するのだ!
よし、犬と猫と鳥、とりあえず1頭と1匹と1羽ずつ、今日の癒し要員として、家に入るのだだだ!!