軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

344 防衛態勢 5

『女神の眼』は、私がいなくなった後は、薬種屋、薬種問屋、総合薬品店、そして宗派の立ち上げ、併設した土産物屋から何でも屋へと 変遷(へんせん) を続けたらしいけれど、その母体は、創設期の任務を忘れてはいなかったらしい。

……『女神の眼』の創設理由。その、存在意義。

それは、女神による、理不尽な苦しみを受けている心正しき者達を救う活動のために情報を集め、そして女神を利用しようとして 集(たか) る悪人共から女神をお守りすること。

いくら営業形態が変わろうとも、それは活動費を稼ぐための手段であり、外面だけに過ぎない。

その本質は、最初から全く変わることがない。

全ては、女神のために。

……なので当然、『女神の眼』は上層部の直轄組織として、諜報部門を持っているらしい。

何が『当然』なのか知らないけれど……。

とにかく、『女神の眼』は、今私が必要としている能力を持っている、ということだ。

エミールが派遣してきたのが、ただの薬種の販売員、なんてはずがないからね。

なので……。

「私が欲しいのは、『女神の眼』が発足した時の任務である、情報収集よ。

護衛の方は、充分……いささか過剰戦力……なので、必要ない。

求めるのは、平民の、心正しき者で怪我や病気で苦しんでいる者の情報。

そして、もし余力があるなら、貴族や王族で怪我や病気の者の情報。善人か悪党かの正確な情報と、 使える者かどうか(・・・・・・・・) が判断できる情報を」

「「はっ!」」

あれ、ひとり、返事がないぞ。

……あ、『口』か……。

「情報操作や世論誘導は、情報が漏れたり、貴族連中がおかしなことを考えたりした時にね」

「……はっ!」

うん、これでOKだ。

何か、3人共、感動したみたいな様子で、ぷるぷる震えてるなぁ……。

まぁ、崇拝する女神様から使命を、それも『女神の眼』の存在意義たる原初の任務を与えられたんだ、敬虔な信者であれば、そりゃ感無量になって当然か……。

* *

「ふぅむ、みつか……自由巫女殿が、護衛をお雇いになったか。

共に若い女性で、腕が立つ、と。

よしよし、安全要素が増えるのは良いことだ。これで、馬鹿なチンピラやならず者が突っ掛かったり、情報に疎い間抜けな下っ端商人がちょっかいを出すこともないであろう。

うむ。

うむうむうむ……」

『影』からの報告に、心の底から安堵の溜息を漏らす国王。

「そして、家をお借りになりました」

「よし! 宿屋で他の客や事情を知らぬ貴族や商人に押し掛けられて絡まれることもなくなるな!

よしよし、よしよし……。

宿屋の隣に作った仮設の警備隊詰所を撤収して、その借家の近くに新たな詰所を作れ。

今度は長期間使うことになるかもしれぬから、それなりの建物を選ぶようにな。そこに詰めてもらう近衛兵達には、できる限り快適に過ごせるよう配慮してやってくれ」

「はい、承知いたしました。……それと、他国のエージェントらしきグループが、2組接触……」

「よしよし……、って、何じゃ、そりゃあああああ〜〜!!」

一番重要なことを最後に報告した『影』を怒鳴りつける、国王。

……気持ちは分かる。

おそらく『影』は、これを最初に報告すると、他の報告を聞いてもらえないとでも考えたのであろう。……その考えも、理解できる。

「その2組のことを詳しく調査しろ! 予算と特別手当を増額するから、担当する『影』の人数を増やせ!

我が国の、……いや、大陸の未来が懸かっておるのだ、お前達『影』の全力を挙げて事に当たるのだ!

行け!!」

「はっ!」

予算と手当の増額。

この様子だと、大抵のことは経費で落とせそうである。

調査対象が高級レストランに入ったから、とか、情報収集のために酒場に、とか……。

勿論、不正行為や虚偽の申告をするつもりはないが、そういう店に出入りするなら、酒や料理は頼まなければならない。任務遂行のために。

(よし、少しはいい目を見させてもらうか。勿論、真面目に、しっかりと任務を遂行するのに必要な範囲で……)

諜報組織のエージェント、結構いい性格をしているようであった。

……但し、仕事の手を抜くつもりは皆無のようであるが……。

* *

「来たよ~」

「来たか~」

恭ちゃんが、王都に到着。

お店の方は、新店長とふたりの従業員に任せ、週に1回、商品の補充に行けばいいらしい。

そして、商工ギルドとハンターギルド支部にお願いして、お店がトラブルに巻き込まれた時は助けてもらえるよう根回し済みらしい。勿論、ハンターギルド支部の方には、そのための供託金を納めているそうな。

何かあってハンターが仕事をすれば、そこから報酬が支払われる。何もなければ、契約解除時に返金される。……勿論、ギルドの取り分である手数料は、しっかりと引かれるらしいが……。

また、孤児院も万一の時には助力してくれるらしい。

自分のところの子供がふたり働いているし、将来も子供達を雇ってくれるかもしれない。

そして、あの店で孤児がちゃんと働くことの実績を積めば、他の商店でも……。

そりゃ、命を張ってでも店を護ってくれそうだ。

新店長も、孤児院出身らしいし。

でも……。

「商品の補充、面倒じゃない? 恭ちゃんの母艦なら、 転送(Beam up) とかできるんじゃないの?」

「あ〜〜」

私の質問に、顔を歪める恭ちゃん。

「商品だけ送るってわけにはいかないよね。だから、私も一緒に行くことになるわけだけど……。

転送って、そこにある物質を量子レベルにまで分解して転送ビームに乗せてエネルギー波として運び、目的地で再構成するわけよね?」

「うん、多分……」

「それって、分解された時に死んでない?」

「え……」

恭ちゃんから、とんでもない爆弾発言が!

「だって、分解されちゃうんだよ? いくら後で再構成されるって言っても、そんなの、『あなたのクローンを作って記憶もコピーしましたから、ここにいるオリジナルのあなたは消去しても問題ありませんよね?』って言われるのと同じだよ。

それに、肉体と記憶はコピーできても、魂とか意識体とかはコピーできてるの? まだ科学的に解明されていないそういうのがコピーされていなきゃ、再構成された肉体は、ただ以前の記憶を元にして動いているだけの肉袋なんじゃないの? 魂のない、抜け殻の肉ロボットなんじゃあ……」

「え……」

怖い話になってしまった……。

「確かに、地球の 管理者(かみさま) が言ってたね、『魂と意識体を保護した』とか何とか……」

レイコも、そんなことを言い出した。

え、何ソレ、怖い……。

「あ、じゃあ、『どこにでも戸口』方式なら? アレは身体を分解したりするわけじゃなくて、空間を歪ませるとか異次元を経由するとかで、単に移動経路を短縮するだけだから……」

「それは、前に言ったでしょ。女神様が、時空間や次元を歪ませたり穴を開けたりすると『歪み』を誘発する原因となるから、そういう魔法は駄目、って言ってたって……。

魔法じゃなく科学的な方法でも、却下されると思うよ。『禁則事項です』とか言って……」

あ〜、確かに言ってたな、そんなコト……。

ま、既にチートは充分あるんだ、少しくらいは不便なことがあってもいいだろう。

私達には、時間はたっぷりあるんだ。無理に時間の短縮に努めなきゃならないってわけじゃない。

面倒さや不便さを楽しむのもまた、いいもんだよ、うん!

……って、そんなワケねぇよ!

面倒なことは、面倒だよっ!!