軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

332 奴らが来る 4

ファルセットは、あの領主から『御使い様』の今の名前と容姿を聞いていたし、 真祖様(フランセット) から、御使い様が名を偽ったり神力で顔の造りや髪と瞳の色を変えたりするのは日常茶飯事だと聞いていた。

……そして何と、『御使い様』のトレードマーク、その最大の特徴である、目付きの悪さを誤魔化すことすらあったと……。

なので、状況から考えても、このエディスと名乗る自由巫女の少女が『御使い、カオル様』が変装した姿であるということを、カケラも疑っていなかった。

そしてこの依頼が、自分のために用意されたものであるということも……。

なので……。

『このハンターの女は、私に与えられた神命を邪魔する、敵だ!』

ファルセットがそう考えるのは、無理のないことであった。

そしてまさかこのタイミングで、こんな『 レイコ(キャン) 以外の者はまず受けられないであろう、無理筋の依頼』を受けようとする者が現れるなどとは思いもしていなかった、カオルとレイコ。

「そもそも、あなた、ハンターなのですか?

その恰好。どう見ても、どこかの騎士さんじゃないですか。それに、この依頼を受けられるだけの力があるのですか?」

そう。キャンが指摘する通り、長旅のため動きやすく実用的な服装をしてはいるが、ファルセットは、明らかにハンターらしくない立派な服装で、 高価(たか) そうな武器防具を身に着けていた。

ハンターギルドでの依頼受注は、ハンター登録している者にしかできない。

なので、当然のことながらそこを突いたレイコであるが……。

「確かに私は騎士ではあるが、他国での行動の自由や、出入国、領境越え、城郭都市への出入りなどで面倒がない上にお金を取られずに済むとか、懐が寒くなった時に小遣い銭稼ぎができるとか、色々と便利なので、ハンター登録をしているぞ。

あまりランクを上げると色々と面倒なので、Bランクで止めているが……」

「「「「「「えええええええええ!!」」」」」」

レイコとカオルだけでなく、居合わせたハンター達やギルド職員からも、驚愕の声が上がった。

「ほら」

そう言って、首に掛けているハンター 登録証(タグ) を左手で服の内側から取り出して、差し出す少女。

右手は、カオルの依頼票を掴んだままである。絶対に放さない、という、強い意志を込めて。

「……本当に、Bランクの 登録証(タグ) だ……」

目を丸くしてそう呟く、キャン。

「さて、これで私がハンター資格を持っているということ、そしてBランクであり、充分に受注条件を満たしているということが証明できましたよね? じゃあ、次はあなたが、条件を満たすだけの実力があることを証明していただけますか?

あなたもBランク? それとももっと上、AランクかSランクですか?」

「ぐっ……」

やられた。

相手の揚げ足を取ったつもりが、見事に 躱(かわ) されて、逆に反撃された。

こうなっては、もう、訓練場で模擬戦をして、というくらいしか手段が残されていない。

油断しなければ、負けることはない。

そう思うレイコであるが、不安要素がある。

……先程の、依頼票に手を伸ばした時の、あの速さ。

もしそれが、身体能力の全てにおいて反映されているのであれば……。

レイコは、ただ身体強化をしているだけであり、戦闘技術に関しては素人同然である。

確かに、転生に備えて、前世である程度の武道は 嗜(たしな) んだ。しかし、それはあくまでも武『道』であり、実戦における戦闘術である『武術』とは違う。

それに、別に武道に人生を捧げていたわけではない。週に2回、道場に通っていた程度である。

それで、身体能力に大きな差がない、専業の対人戦闘専門家と戦う?

いくら魔法が使えても、見物人達に悟られないように使うとなれば、制約が大きい。

もし、僅かな遅れ、僅かなミスを衝かれたり、思わぬ技を出されたりすれば……。

下手(へた) を打って、カオルの護衛役を、正体も分からない少女に奪われるわけにはいかない。

「…………」

返答に 窮(きゅう) する、レイコ。

「どうしました? 何か、答えられない理由でもあるのですか?」

「ぐうっ……」

万事休す。

少女に返答できず、レイコが困っていると……。

「……そこまで!」

カオル……エディスが、介入した。

このままだとどんどん状況が悪化しそうであったし、現状では、キャンの方がやや劣勢になりつつあったため、このままではマズいと判断したのであろう。

「私が、その依頼の依頼主です。

状況は、全て見させていただきました。あとは、ここで部屋をお借りして、3人で御相談いたしましょう」

「あ、私も立ち会わせていただきます!」

そこで、受付嬢が口を挟んだ。

「いくら依頼主様でも、ギルドを介した依頼である以上は、規則に反した勝手な真似をしていただくわけには参りません。

……具体的に申しますと、受注者ふたりに依頼料の値下げ合戦をさせるとか、受注者にとって不利な条件を示して、それを受ける者を選ぶとか、そういったことですね。

本当は『早い者勝ち』が原則であり、依頼主がどうしてもこの者は嫌だ、と言われた時にのみ次の者が受注できるのですが、そういうことはあまりありません。

……そして申し訳ないのですが、今回、私共にもおふたりのどちらが先に依頼票を掴まれたのか、判別ができませんでした。ですので、どちらの方に交渉の優先権があるのか……。

とにかく、異例のことですので、交渉には私も立ち会わせていただきます」

仕事の仲介役としては、尤もな言い分である。

ギルドにとって、信用と利益は、何よりも大事なことなのだから。

しかし、何らかの理由を付けてキャンを選ぼうとしていたカオルにとっては、あまり歓迎できることではない。

確かに、カオルが依頼主であるから、自分が好きな方を選べば良い、と言えばそれまでではある。こういうものには、相性の良し悪しというものがあるのだから……。

だが、依頼主があまり受注者の選り好みをしないようにと、『早い者勝ち』というルールが設けられているのである。なのでキャンを選ぶのであれば、キャンの方が早かったということを立証するか、謎の少女が明らかにこの依頼には不適であるという理由を挙げなければならない。

そして現状においては、少なくともBランクの実力はあると証明した少女の方が、Cランクでしかないキャンより圧倒的に有利な状況である。

(困った……。どうやって、キャンを選ぶ理由をギルド職員に納得させられるか。

そして何よりも、なぜかこの依頼に異常なまでの執着を見せるこの少女に、どうやって自分が排除されることを納得させられるか……)

受付嬢に案内されて打ち合わせ用の個室へと向かいながら、カオルは必死に考えていた。