作品タイトル不明
331 奴らが来る 3
護衛依頼を出すため、ハンターギルドにやってきた。
朝2の鐘(午前9時頃) を過ぎた時間帯だというのに、むさいおっさんからまだ未成年の子供まで、様々な連中がたむろしている。
普通のハンターは、朝イチの、当日分の依頼票が貼り出されるのを待ち受けて、争うように……、じゃなくて、実際に争って、いい依頼を奪い取り、さっさと仕事に出ているらしい。
なのでこんな時間にギルドでたむろしているのは、そんなにガツガツしなくても困らない、余裕のある連中、常時依頼をこなすから依頼の奪い合いをする必要がない連中、人気のない雑用依頼を受ける駆け出し、文字が読めないハンターのために依頼票を読んでやったり自分で選んでやって小銭を稼ぐ子供達、とかである。
小銭とはいっても、そのハンターに合った依頼を選ぶ能力がある子供は、結構稼ぐらしい。
そういう者は、依頼票を全部代読させる必要がなく、頼んだハンターの能力を推定し、丁度良さそうなものを数件選んで提示するという、かなり高度な能力を要求されるのだから、それも当然のことだ。
そしてそういう子供は、将来ハンターになった時に、長生きする。なのでハンター達も、可愛がり、贔屓にしてやるらしい。
で、まあ、そこそこのハンターがいるわけであるが、別に『げへへ、ここはお子様が来るようなところじゃねぇぜ!』とかいって絡まれるようなことはなかった。
……まぁ、服装から考えて、私は明らかにハンター志望者には見えないから、当たり前か。
この世界のハンターパーティは、治癒魔法使いの聖職者をメンバーに加えたりはしないからねぇ。
ということは、私は明らかに 依頼者(クライアント) 側だ。
自分達に依頼を出してくれる、顧客。お得意先。……しかも、12~13歳に見える少女。
さすがに、そんなのに手出しすれば、他のハンターやギルド職員達が黙ってはいないだろう。
それに、私はここの連中のストライクゾーンからは、少し……、かなり……、大幅に外れている。
……うるせぇよ、クソがっ!!
「すみません、この依頼をお願いしたいのですが……」
「あ、ハイ、確認させていただきます」
受付嬢が、私が差し出した用紙に目を通し、……少し困ったような顔をした。
うん、そうなるだろうとは思っていたよ。
「……あの、この条件では、受けてくれる者がなかなか見つからないかと……。
報酬額とか待遇とかには問題ないのですが、この条件に合って、この御依頼を受けられるだけの能力を持ったハンターというのは、ちょっと……」
「え……」
そして、私が困ったような顔をしていると……。
「おいおい、そいつぁ聞き捨てならねぇな! この王都のハンターギルドで、依頼の内容に釣り合った報酬額を出そうっていうのに、それをこなせる者がいねぇだと? そりゃ、俺達を無能呼ばわりするってぇことか? そいつぁ、いくら美人受付嬢の言葉でも、聞き流せねぇぜ!
Bランクのこの俺にもその依頼が受けられねぇと判断した、その理由を聞かせてもらおうか!」
……たむろしていたハンターのうちのひとりが、そんなことを言い出した。
まだ依頼ボードに貼り出されていないどころか、受け付けられてすらいない依頼について横から口出しするのは、明らかにルール違反である。
しかし、その男は、別に絡もうとしているわけではない。ちゃんとした報酬額を提示している依頼人に、『ここの者にはそれを受けられるだけの能力がない』と言われては、面白くないのは当然だろう。それも、自分の腕に自信があり、それなりの矜持がある者は。
なので、受付嬢はそれに対し、叱りつけることはなかった。
他にも、その男性に同意して頷く者が何人かいる。
しかし……。
「受注者の条件その1。一緒に夜営するので、女性であること」
受付嬢が依頼書の条件欄の1行目を読み上げると、男性は顔を赤くして 俯(うつむ) き、すごすごと引き下がった。
同意して頷いていた連中は、顔を逸らして知らん振りをしている。
……薄情な奴らである。
その後、受注者がいなくても受付料金は発生しますよ、と念を押されて、何とか依頼を受け付けてもらえた。
そして、依頼ボードに貼り出されたのは……。
護衛依頼
依頼内容:自由巫女(12歳)の密着護衛
期 間 :依頼者、受注者のいずれかが終了を希望するまで
場 所 :王都の宿を拠点として、周辺の町村、及びその移動経路(森へ入ることあり)
休養日等:なし(依頼者が休養する日は一緒に休むが、それも護衛任務中とみなす)
依頼料 :1日当たり小金貨3枚
食事と宿泊費は雇用主が負担。宿では同室とする
受注者の条件
その1:一緒に夜営するので、女性であること
なるべく依頼者と年齢が近い者。できれば15~18歳くらいが望ましい
その2:被雇用者数は1名
その3:オークやオーガ数頭、タチの悪い男性ハンターやチンピラ数人を倒せること
その4:貴族家の領兵、金持ちが雇った傭兵等を倒せること
そして、貼り出されたその依頼カードを見たハンター達は……。
「「「「「「無理だあああああ!!」」」」」」
「女のソロで、若くて、依頼者を護りながら数頭のオークやオーガを倒せるヤツ?」
「ひとりで数人の兵士や傭兵、ごろつきハンターを倒せるヤツ?」
「依頼人を人質にされることなく護りながら?」
「「「「「「絶対に、無理だあああっ!!」」」」」」
親切な者が、きょとんとしている字が読めない者達のために依頼票を読み上げてやったが、皆の意見に同意する者の人数が増えただけであった。
* *
その後、女性ハンターが何人かその依頼票をじっくりと読んでいたが、皆、首を振りながら依頼ボードから離れていった。
ソロではないものの、条件が良ければ一時的にパーティから分離して、とか考えたのかもしれないが、その『求められる戦闘力』が到底クリアできそうにないと考えたのであろう。
依頼ボードの前には、私の依頼票が貼られる前から、レイコ……キャンがスタンバっていた。
もし誰かがカオルの依頼票に手を伸ばそうとすれば、その瞬間、身体強化魔法によって常人を遥かに越える反射速度を身に付けたキャンが先に奪い取れるようにと……。
勿論、他のハンターがいきなり、 渾身(こんしん) の力を振り絞った速さで依頼票を奪い取ろうとする確率は非常に低く、キャンは不自然に見えないタイミングで、ごく自然にゆっくりと依頼票を剥がし、受注する予定であった。
なのでそれは、あくまでも万一に備えての、『念の為の、安全策』に過ぎなかった。
カオルとレイコは、慎重派なのである。
そろそろいいかな、と、カオル達の 目論見(もくろみ) 通り、誰も受注しようとはしない依頼票にキャンが手を伸ばし……。
ばっ!
しゅばっ!
がしっ!!
ぎりぎりぎり……。
何と、カオル達が『そんなことは、まずないだろう』と思っていた事態。
ひとりの少女が、渾身の力を振り絞った全力で依頼票を 獲(と) りにきた。
そしてその少女は、万一の事態に備えて、いつでもそれを上回る速さで依頼票を剥がし取れるよう待機していたレイコ……キャンと、ほぼ同時に依頼票を掴んだ。
身体強化魔法を使っているレイコと、速度的に対等。
……あり得ない。
いくらレイコが普通の速度で動作を始めたとはいえ、動き始めたのは先なのである。
そして、割り込みの発生を認識した時点で、魔法により強化した身体……動体視力も、反射速度も……の全力をもって動いたレイコと、ほぼ同時に依頼票を掴む。
……到底、普通の人間にできることではなかった。
「放しなさい! これは、私が受注する依頼です!」
怒鳴る、少女。
「いえ、それは私の台詞です。私の方が先に依頼票を掴みました。受注は、早い者勝ちです」
そして、それを否定するキャン。
「いや、私の方が僅かに早く掴みました。これは、私が受けるべき依頼です!」
しかし、 退(ひ) く様子のない少女。
「「ぐぎぎぎぎぎぎ……」」
この依頼は、絶対に他の者の手に渡すわけにはいかない。
そう思い、決して退かない、ふたりの少女。
ひとりは、勿論、出来レースでこの依頼を受けるはずであった、レイコ。
そして、もうひとりは……。
更なる情報を求めて。そしてギルドマスターに挨拶して、以後色々と便宜を図ってもらえるようにと、ハンターギルドにやってきたファルセット。
そして出会った、『12歳前後に見える自由巫女からの護衛依頼』による騒ぎ。
今、このタイミングでの、護衛を求める12歳前後の自由巫女。
そして、その求める護衛というのが、ひとりでオークやオーガ、ごろつきハンターや兵士、傭兵共をなぎ倒せるソロの女性。
これはもう、 自分(ファルセット) が来ることを見通しておられた女神様が、『お前がこの護衛依頼を受けるのです』と言われているに違いない。
いや、それ以外の何物でもない、と思い込むのは当然のことであった。
……今、『女神カオル真教』の関係者で、カオルに同格の仲間がいることを知っている者は誰もいないのだから……。