作品タイトル不明
330 奴らが来る 2
「では、これにて契約成立、ということですね」
「はい。以後、よろしくお願いいたします」
* *
「よし、これで居住区付きの店舗は確保できた。あとは本隊が売り物を積んだ荷馬車と共に到着するのを待つだけか……。
で、あっちの方はどんな様子だ?」
「はい、入港したのは軍艦3隻、商船3隻です。
商船の連中は、うちと同じく、貸し店舗を借りるつもりのようですね。
軍艦の方は、親善訪問という名目ですけど、 もし何かあれば(・・・・・・・) 、 艦(フネ) を 空(カラ) にしてでも全力出撃するつもりでしょうね。そして勿論、店を借りて居座った、商船の連中も……。
妖怪一派も、貸し店舗を借りて拠点にするつもりのようです」
「アリゴ帝国海軍と、帝国商業ギルド・海運ギルドの混成部隊。レイフェル伯爵家。そしてドリヴェル子爵家だからなぁ……。
何かあった場合には、 相手(てき) か自分達、どちらかが殲滅するまで戦うか……。
ま、それは『 女神の眼(うち) 』も同じなんだけどな……」
エミール以下の『女神の眼』長老会からこの派遣チームの全てを託された男は、そう言うと、にやりと笑った。
普通、部隊の3分の1が損耗すれば、再編成しない限り『ひとつの戦闘集団』としての機能の維持ができなくなる。いわゆる、『全滅』である。
部隊の50パーセントが損耗した場合、再編成すら不可能な状態となる。……『壊滅』である。
そして100パーセントが損耗、つまり戦闘能力がある将官、士官、兵士がひとりも残っていない状態が、『殲滅』である。
普通、そんなことになることはない。小さな島での戦いだとか、味方の何倍もの大兵力による包囲殲滅戦でもない限り……。
そしてその場合でも、普通はひとり残らず死ぬ前に、降伏するであろう。
もし指揮官が降伏を拒んだ場合は、次席指揮官の手によって排除されて……。
殲滅。
それは、普通の戦いや、まともな神経を持った指揮官に 率(ひき) いられての戦いであれば、滅多に起こるようなことではなかった。
そして勿論、狂信者に率いられた、狂信者の集団による戦いは、普通の戦いでも、まともな神経を持った指揮官に率いられての戦いでもない。
……そう。殲滅戦となる資格が充分にある戦いであった。
「……いや、そんなことにはならんか。
その前に、女神の 鉄槌(てっつい) が下される……」
皆が74年間待ち続けたという、悲願。
それを果たすべく派遣されたチームの指揮官。
その栄誉を噛みしめ、そして、その任務を果たすためであれば、文字通り、命も惜しまない。
その男は、幸せそうに微笑むのであった……。
* *
「お待たせ。王都のハンターギルドに活動拠点変更届けを出してきたわ。
何だか、すごく歓迎してもらえてね。ギルドマスターの部屋に呼ばれて、挨拶されたわよ」
遂に、レイコが王都へやってきた。
……正確には、『Cランクハンター、キャン』が、だけど。
そして、ふたりとも『モブバージョン』に変装して、街の食堂で食事中。
程良い広さ、程良い混み具合で、店員からも他の客からも注意を引くことのない、割と美味しいお店をチョイス。
勿論、レイコが遮音魔法を張っているから、盗み聞きされる心配はない。
店員から話し掛けられても聞こえないから、それには注意していなきゃならないけどね。
「へえ……。
でも、普通はCランクハンターが拠点を移した程度で、わざわざギルドマスターが挨拶したりはしないんじゃないの?」
「うん。何でも、前の街のギルドマスターが、手紙で私のことをよろしく頼みます、って伝えてくれたらしいのよ」
「おお、自分の街を出る新米に対して、そこまでの心遣いを……。良いギルドマスターさんだ!」
恭ちゃんの街の商工ギルドのマスターさん、副マスターさんと言い、みんな、いい人達に恵まれたなぁ……。
ターヴォラスの人達も、みんな孤児や余所者である私達にも親切で優しかったし……。
この国には、御恩返しをしなきゃなぁ……。
ちょっと早めに、『ごく弱い治癒の力』を提供したり、ちょっと便利な恭ちゃんの母艦製の製品を出回らせたりしてもいいかな……。
この世界の植物から作れる薬とかを、恭ちゃんの母艦で開発させるのもいいかも。それなら、この世界の薬師に作り方を教えられるし……。
最初のうちは、あまり急激に噂が広まらないように、女神の加護の力に見せかけた治癒ポーションの使用はごく一部の場合に限定しなきゃならないけれど、ある程度の自衛の態勢が整えば、少し手を広げるか……。
貴族に絡まれたら、『王都での祈祷系治癒は神殿の方々が仕切っておられます。自由巫女 如(ごと) きがしゃしゃり出るわけには……』と、しおらしい顔をして言ってやればいいか。
「恭ちゃんは、あの街のお店を引き払うと取引先に申し訳ないし、何より、せっかく自立の道を手に入れたと思い喜んでいる孤児の子供達に申し訳がないからと、あそこはそのまま営業を継続して支店扱い、王都に本店を作る、って言ってたからなぁ。
あっちを本店、王都のを支店にした方が貴族とかからのゴリ押しを『ここはただの支店なので、本店の許可がないと……』と 躱(かわ) しやすいけれど、もしそう言われて貴族があの街の方へと押し掛けたら、恭ちゃん不在の向こうの店で、孤児達が大変なことになっちゃうからねぇ……。
そういうのは、恭ちゃんがいるところで捌かなきゃね。
王都での貸し店舗捜しも含め、こっちで本格的に活動を始めるには、もう少しかかりそうかな」
「そんなことだと思った……」
私の説明に、知ってた、と言わんばかりのレイコ。
ま、分かるよねぇ、それくらいのことは。
何せ、長い付き合いだ。
……あ、レイコと恭ちゃんの付き合いは、私よりずっと長いのか。私が死んだ後の、地球で。
うむむむむ……。
「とにかく、私は宿屋を転々としながら、野良巫女の活動継続。レイコは……」
「同じく、宿屋を転々としながら、ハンター活動を継続。
そして、狩る獲物の難度を上げていき、偉い人達に興味を持たれたり、指名依頼が入ったりするようになる。
郊外に借りている家は、恭子がサラエットとして借りた物件だから、私達が今の時点で堂々と使うのはマズい。あそこは、恭ちゃんが来た時にしか使えない。
エディスとキャンとしての私達がサラエットとしての恭子と お友達になる(・・・・・・) までは、別の姿で、『サラエットのお友達』として訪問するしかないわよ」
「う〜ん、やっぱりそうかぁ……。ちょっと失敗したなぁ……。
でも、まぁ、仕方ないか。あの時は、あの事件があんなにあっさりと終わるなんて思わなかったし、あの時点で王都に物件を確保してもそうおかしくなかったのは、3人のうちではサラエットだけだったし……。
郊外だから、家賃はそう高くない。数カ月くらい遊ばせておいても、大した損失じゃないか。
じゃあ、早めに『エディスとキャンの出会いイベント』をこなそうか。
商人のサラエットとは、買い物に行けば知り合いになれるから簡単だよね。珍しい商品を見て、意気投合、とか……。
だから、サラエットが登場する前に、新進気鋭の若手ハンターと、売り出し中の新米野良巫女の出会いといきますか!
出会いの切っ掛けは、当然、私が出した依頼に新人ハンターが食い付く、という形かな。
……でも、野良巫女がハンターに依頼を出すことって、あまりないよねぇ……。
炊き出しに使う肉は、ハンターギルドが卸している肉屋で買えばいいんだから。
依頼した獲物が確実に狩れる保障はないし、依頼料と買い取り代金で、肉屋で買うより高くつくというのに、わざわざ自分でハンターに依頼する者はいないよねぇ。
……何か、いい依頼を考えよう」
そして、ふたりで知恵を絞って……。
「「……護衛だ!!」」
ハモった。
そう、護衛であれば、長時間一緒にいるから年齢が近い少女達がすぐに仲良くなってもおかしくない。
そして、戦闘力が皆無に見える私が、何らかの理由で護衛を雇うのはごく自然のことだし、12~13歳に見える私が、護衛は若い女性に、と考えるのも、ごく普通のことだ。
ひとりで野外行動……夜営を含む……をする少女の密着護衛に男性ハンターを護衛に雇うということの方が、遥かに違和感があるだろう。
15~18歳くらいのソロの女性Cランクハンター、それも対魔物戦、対人戦の両方に自信があり、数頭のオークやオーガに襲われたり、悪質な男性ハンター数人に絡まれたりしても大丈夫、という条件で受注できる者は、そうはいないだろう。
「よし、 トモダ(Operation) チ作戦(Tomodachi) 、開始!!」