作品タイトル不明
329 奴らが来る 1
「何ですと! 御使い様はすでにここを立たれたと?」
とある田舎領の領主邸で、まだ14~15歳くらいに見える少女が領主に面会していた。
そして、一介の旅の剣士にしか見えないその少女は、領主と話しているというのに 物怖(ものお) じした様子もなく、落ち着き、堂々とした態度であった。
まるで、自分が領主と対等の立場であるかの如く。
……そして、まるで実際には見た目よりも年齢が高いかの如く……。
脳筋、ファルセット。
カオルとレイコがかなりの日数をかけて移動した距離を、驚くべき短期間で駆け抜けてきたようである。
カオル達は馬車であり、ファルセットは単騎の騎乗者であるという大きな違いがある上、カオル達は物見遊山の観光旅行で、あちこちで数日間の滞在を繰り返していたが、ファルセットは目的地目指して一目散。ほんの数回、馬を休めるために1日だけの休養を取った程度である。
それも、シルバー種の名馬、フラットであるから何とか耐えられたという強行軍であった。
普通の馬であれば、最初の数日で潰れている。
「うむ。王都へ向かうと言われていた。
しかし、そなたが来てくれたことは、決して無駄足ではない。
タルトス伯爵は陛下にお知らせしたので処分されることと思うが、御使い様に目を付けた者は、他にもいるだろう。……そして、これからどんどん増えていくことだろう……。
それが、畏怖と敬意を以て接し、自分達にもほんの少しばかり女神の御慈悲のひとしずくを、というのならば問題ないが、タルトス伯爵のように、御使い様を偽物か勘違いしている 道化(どうけ) だと思い利用することしか考えず、酷い扱いをすれば……」
「……国が、いや、この大陸が滅ぶ……」
当事者である真祖から直接聞いたのである。何度も、何度も、繰り返し……。
なので、 フランの子孫達(エインヘリヤル) は、女神や御使い様絡みのトラブルについては、他の者達よりも遥かに強い危機感を抱いている。
「……頼む! 王都へと向かい、御使い様を……、いや、 この大陸を守ってくれ(・・・・・・・・・・) !!」
「もとより、そのつもりです。それが、我らエインヘリヤルの存在意義であり、本来の任務。
それに、真祖様からもそのように命を受けております 故(ゆえ) ……」
「おお! 頼んだぞ、エインヘリヤル、ファルセット! この大陸の命運は、そなたの双肩にかかっている。この国を、……この大陸を頼む!!」
「お任せあれ!」
そして、14~15歳くらい……に見える少女は、愛馬に跨がって出発した。
この国の、王都へと向かって……。
* *
「移住の許可が取れました。
さすがに、国からの信用が厚い我々『女神の眼』からの、この大陸が海に沈んでもいいのか、という警告が効いたようですね」
「……お前、それは『警告』ではなく、殆ど『 恫喝(どうかつ) 』だろうが……。
まあ、いい。話が早く進むなら、それに越したことはないからな。
カオル様語録、第2章第3項の6……」
「「お金とコネと権力と脅しのタネは、使ってナンボ!!」」
「よし、店舗の確保と定期的な輸送ルート確立のための先行チームを直ちに派遣!
それと併行して、本体チームの出撃準備! 急げ! 美味しいところを脳筋や妖怪ババアの子孫達に 掻(か) っ 攫(さら) われるな!」
「はいっ!!」
* *
「出撃準備、完了しました!」
「うむ。私に代わって、カオル様にしっかりと御恩返しをするのですよ。
犬軍と鳥軍の者達に簡単な指示を伝えるための動作を教えましたが、念の為、紙に書いておきました。持って行きなさい。
向こうに着いた後は、無事接触できれば、カオル様が通訳してくださるでしょう。
……レイフェル伯爵家精鋭チーム、犬軍精鋭部隊、鳥軍精鋭部隊、出撃!!」
「はっ!」
『わん!』
『カア!』
* *
『出航よ〜い!』
舫(もや) いを解かれた船が、次々と桟橋を離れ出港していく。
軍艦3隻、民間の商船3隻の、官民合同の船団である。
一応、護送船団のようではあるが、軍艦はただ商船の護衛のためだけに随伴しているわけではなく、自身もまた任務を受けて目的地へと向かうため、やはり『護送船団』ではなく、ただの『船団』と呼ぶ方が適切かもしれない。
……とにかく、6隻の帆船……造船技術が飛躍的な進歩を遂げた、あの『アリゴ帝国、奇跡の 大躍進(だいやくしん) 』が始まった時から、78年に亘る進歩を 遂(と) げた船……の一斉出港の様子は、なかなかの壮観であった。
そして、杖をつき、看護人に支えられてそれを見送る、ひとりの老人。
「おお……、アリゴ帝国の子供達が 征(ゆ) く……。
我らに代わっての女神カオル様への御恩返し、しかと頼んだぞ……」
そして同時刻。
海岸で。
海に面した高台で。
アリゴ帝国の各地において、旅立つ船団を見詰め、涙する大勢の老人達がいた……。
* *
「よし、出るか!」
精算を済ませたカオルは、そう言って大きな伸びをしてから、宿を出た。
それを聞いていた宿の者も、宿屋番の隠れ護衛……神官事件の後、配置された。勿論、カオルにはその存在を知られてはいない……も、それはただ単に『宿から出て、街をうろつくぞ』という意味であろうと思っていた。
しかしカオルが口にしたその言葉は、『王都から』という文字が省略された台詞であった。
『金策と休息』という名目で立ち寄った王都に、何もせずに長期間滞在するというのは明らかに不自然である。
なので、一旦王都から出て周辺で野良巫女としての活動を行い、 活動(ACTIVITY) 拠点(BASE) を王都にする。
そうすれば、基点である王都にしょっちゅう滞在することになり、王都で名が売れるし、上層部との接触の機会もあるだろう、と考えてのことである。
……今度はまともな人達と、と……。
(あ、私にとって王都は『いつでも立ち去れる、一時的な滞在地』だから、 基地(BASE) じゃなくて、 駐屯地(C A M P) になるのかな?
私の 基地(BASE) は、『リトルシルバー』か。
……いや、そんなの、どうでもいいか。『ベースキャンプ』という言葉もあるし。
とにかく、王都周辺の村や街で活動して、時々王都の宿屋……最初のうちは一軒に固定せず、色々な宿に泊まってみる……に宿泊。そして名を売りながら、レイコと恭ちゃんの王都進出を待つか。
その後、 野良巫女(せいじょ) エディス、上級ハンターキャン、新進気鋭の美少女商人サラエットが たまたま(・・・・) 王都で知り合い、親交を深め、仲良し三人組で力を合わせて成り上がるのだ。
よしよし、後ろ盾獲得作戦、いよいよ本格稼働開始だ!)
* *
「えええ、王都を出た? カオルさま……、いやいや、御つか……自由巫女エディス様が?」
『エインヘリヤル』の名は、大陸中に轟いている。この名を詐称した者は問答無用で縛り首になるため、偽物が現れることは、まずない。
そして、その名を名乗った者には、かなりの便宜が図られる。
金銭面だとか、豪華な食事とかではない。
真祖様は、質実剛健を 是(ぜ) とするお方であり、贅沢というものには全く興味がなかったからである。
……勿論、求めれば、いくらでも与えられるが。
図られる便宜とは、情報の提供、そして武器の供与である。
なので、脳筋ファルセットが求めた情報は、商業ギルドにおいて簡単に得られた。
勿論、その情報を得た代わりに、エインヘリヤルであるファルセットが王都に現れたという情報もまた、王宮、神殿、そして各ギルドへと伝えられた。
斯くして、鬼神フランの子孫である『脳筋ファルセット』が一番乗りで王都へと到着した。
そして街道上では『女神の眼』と妖怪ババアの子孫達が。
海上では追い風を受けた6隻の帆船が。
それぞれ目的地を目指して、全速力で進みつつあった……。