軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

328 神 殿 4

「えええ! 御つか……自由巫女様が、警備隊本部へ行かれて、捕らえられた連中にお会いになっただと! ……そして、連中に暴言を吐かれたああぁ?

馬鹿者、なぜそんなことを許した! 連中に、巫女様に無礼な真似をすれば打ち首だと脅しておかなかったのか!!」

「……いえ、まさか巫女様が自ら連中に会いに行かれるなどとは、思いもせず……」

「……確かに、現行犯で捕らえられた犯人に、被害者の女性が会いに行くなどとは誰も思わぬか。

これについては、仕方ないか……。警備隊関係者への処罰の必要はない。

くそ、後手に回りっぱなしか……。

しかし、臨時警備隊詰所の設置が間に合ったことだけは、重畳であった……。

そちらの準備関係者には、褒美を取らせよう。

あと、臨時出向となった近衛兵達への特別手当も、少し色を付けてやろう。ぎりぎりで神官共の暴挙を阻止できたのは、大手柄だからな……」

「はっ!」

報告に来た警備隊からの連絡員が、感謝の念を込めて頭を下げた。

おそらくこの者も、その 臨時出向した近衛兵(・・・・・・・・・) とやらのひとりなのであろう。

秘密の拡散防止、そして優れた剣技と判断力を持った優秀な者を大急ぎで揃えるにはそういう手段しかなかったのであろうが、国王のその判断は見事にその成果を見せたのである。

それは、そう指示した国王自身にとっても、嬉しく誇らしいことであったに違いない。

* *

(しかし、強硬派の方は、どうしてあんなに強気だったのかなぁ。何か、警備隊の人達に対しても偉そうな態度だったし……。

もしかすると、神殿の勢力はかなりの権限を持っていて、警備隊に対しても圧力が掛けられるとかかな?

でも、この件に関してはきちんと対処してくれているよねぇ。

被害者が野良巫女……、自由巫女だからかな? それとも、私が未成年の少女に見えるからかな?

ま、どっちにしても、ありがたいことだ。この程度の文明レベルの国としちゃあ、抜群の治安維持力だよ。見直したぞ!)

カオルは、王都では神殿の勢力が強いと聞いた時点で、警備隊は神殿側の味方をするのでは、と考えていた。

何しろ、警備隊は支配者側の組織であるし、神殿勢力が政権と繋がっているというのは『あるある話』である上、仮にも神殿は『実在する女神、セレスティーヌとの仲介者』という立場なのである。権力者が懇意にしていても、文句を言われる筋合いはない。

……逆に、信心深い良き王族、良き貴族、というわけである。

だから、宿に押し入られた時、ああいう騒ぎにしたわけである。

押し入ったのが神官であっても、これは神殿としての正しい行いではなく、ただの少女の部屋への押し入りと誘拐未遂であり、神官による犯罪行為である、という大々的なアピール。

警備隊によって揉み消されないようにとの、宿や周辺の人達への大声での状況説明。

(警備隊には、状況を停止させて、神官達が私を無理矢理連れて行こうとするのを一時的に阻止し、追い払ってもらえれば充分で、後のことはあまり期待していなかったんだよねぇ。捕らえられた神官達も、どうせすぐに無罪放免だろうと思って……。

なのに、驚いたことに、神殿の者達を敵に回してでも庶民の味方をしてくれるとは……。

こりゃ、いつか警備隊に恩返ししなきゃならないよね……)

* *

「な、ななな……」

釈放されて戻ってきたふたりの神官からの報告に、言葉を詰まらせる大司教。

ルエダ聖国の一件で『教皇』という名が極悪人の代名詞となってしまい、地に落ちた。

それに、各国の神殿がそれぞれ勝手に自国で教皇を擁立した場合、争いが起きて大問題になるため、各国はそれぞれ教皇及びその候補者であり教皇の相談役である枢機卿の役職は空席とし、国の神殿における最高位者を『大司教』としているのである。

なので、現在この国における神殿の最高位者であるのが、この大司教なのであるが……。

「陛下からの、殆ど脅迫か 恫喝(どうかつ) に近い呼び出しに私自らが急ぎ 参内(さんだい) し、心臓が止まるかと思うような話を聞かされて死ぬ思いをし、ようやく戻ってきて最初に聞かされた話が、これですか……。

ええい、殺せ!!」

「だ、大司教様……」

……無理もない。

大司教は、73年前の、あの大事件のすぐ後に生まれた世代である。

なのであの事件をリアルタイムで見聞きしたわけではないが、事件を直接体験した世代の者達から、二度とあのような事件が起きないようにと幼児の頃から口を酸っぱくして言い聞かせられた世代なのである。

そしてそれは、少年から青年へと成長し、そして見習い神官となってからも、ずっと続いた。

慈愛の大聖女、御使いカオル様。

時々大災害を予告して人々をお助けくださるが、たまに自ら大陸を海に沈めて滅ぼす女神、セレスティーヌ様。

そして、女神の暴虐に敢然と立ち向かい、大陸をお救いくださった、大陸の守護者、絶対英雄、鬼神フラン様……。

まだ、生き証人がゴロゴロいた時代である。体験談を聞く相手には不自由しなかった。

そしてまだ若い頃に、既に50歳を過ぎておられる筈なのに20代のように若々しいお姿のフラン様のお姿を見たことがある大司教は、心の底から心酔した。

女神の恐ろしさも、その女神を 諌(いさ) める御使い様と大陸の守護者のありがたさも、骨身に染みて理解した。

……そして今。

当時のことを知る者達が殆ど死に絶え、事件のことは図書館の埃まみれの資料の中に埋もれ……。

しかし、あれ程の大事件である。

いくら遠い地、この大陸の反対側での出来事だとはいえ。

いくらここへ伝わるまでに尾ひれが付いて大袈裟なホラ話のようになっているとはいえ。

きちんとした、正式な文書や報告書として伝えられたものもあるのである。

なのに、まさか神殿の中でまで、若い者達が女神絡みのことをこれほどまでに軽視するとは。

あまりのことに、一瞬 自棄(ヤケ) になりかけた大司教であるが……。

「……すまぬ。自分がどうなろうと、民草を護るのが聖職者の務めであったな……。

ふたりとも、よくやってくれた。

強硬派のふたりを止められなかったのは残念であるが、その後は、あのふたりの言動をカバーし、神殿側には御使い様を敬う者達もいるということをお分かりいただけたことは、そなた達の功績である。

そなた達に御慈悲を賜ったということがその印であり、我らが決して敵ではないということを認識していただけたということだ。

そして同時に、神殿には そうではない者達(・・・・・・・・) もいる、と御理解いただいたということであるから、今後、接触できるのは我々『御加護を賜った少女を護る派』だけであり、利用しようとする連中は遠ざけられるであろう。

神殿側全体としては大失点であったが、それだけは手柄であるな……。

よし、御使い……、いや、巫女殿に顔を覚えていただき、『味方である』と認識していただいたそなた達ふたり、これからも巫女殿との折衝係として、頼むぞ!」

「「ははっ!!」」

自分達に与えられた光栄な、そしてあまりにも重責である任務に、嬉しくはあるものの少し顔を蒼くして退出する、ふたりの神官であった……。

「……前の御使い様である、大聖女カオル様は、ルエダ聖国の件もであるが、それ以前から神殿とは少し疎遠にされていたと聞いている……。正式文書としては残っておらぬが……。

あまり御使い様として騒がれるのはお好きではなく、ひとりの聖職者として静かに暮らすことを望まれていたのであろうか……。

此度(こたび) の少女は、女神の御加護を戴いているとのことであるが、まだそれを正式に確認したわけではない。

それに、明らかな奇跡、人の身では為し得ないことを行われたカオル様とは違い、ごくささやかな、普通の医師や薬師にもできる程度のことを為せるというのは、『奇跡』と言ってよいものかどうか……。

もし本当に弱い御加護があった場合、聖女に認定するのは問題ないであろう。私財による孤児や貧民への救済活動も合わせれば、文句を言う者はいないであろう。……利用価値が上がるからと、強硬派の者達も賛成するであろうからな。

しかし、大聖女にするには、それでは少し弱いか……。

まぁ、今はそんなことを考えていても仕方ない。全ては、直接お会いして、色々と確かめてからの話だ。

願わくば、女神の御加護を授かりし巫女エディス様が神殿の穏健派と仲良くしてくださり、……そして、あまり目付きが悪くありませんように……」

そして大司教は、祈りの間へと向かうのであった……。