作品タイトル不明
327 神 殿 3
「……というようなことが、あったぞな……」
『コイツ、やりやがった……』
『ぶあっはっはァ!』
呆れるレイコと、爆笑する恭ちゃん。
「いや、神殿に目を付けられたり、ちょっかいを出されたりすると面倒じゃん」
『……などと、思い切り神殿の注目とヘイトを集める行為をやらかした犯人が、ワケの分からない供述をしており……』
『ぶあっはっはァ!』
一段落したので、宿の自室からふたりに連絡して事の次第を説明したところ、散々な言われようだった。
恭ちゃんなんか、笑いすぎて話に参加できていない。
『カオル、やり過ぎ!
やってきた神官達も、別にカオルを捕らえようとか考えていたわけじゃないんでしょう?
それを、未成年者誘拐未遂犯に仕立て上げちゃって……。
妻子持ちの、ただの信仰心篤き宗教関係者が、上司の命令で来ただけかもしれないでしょ。
それも、女神の加護持ちを神殿に案内するという、本人にとっては神官として正しい行いであり、野良巫女にとっても光栄なことで、相手にも喜ばれると信じてのことかも……』
あ、そういう考え方もあるか。でも……。
「だって、宿の人に『長旅で疲れ果てて寝込んでる』って伝えてもらったんだよ。
なのに宿の人達の制止を振り切って無理矢理押し入ってきたんだよ、体調を崩している女の子がひとりで寝ている、って言われた部屋に、声も掛けずに……。
それって、相手に対する敬意も何もない、ただの自分勝手な強要でしょう?
そんな連中に、何か配慮してあげる必要とか、あるの?」
『あ、そういう経緯なら、自業自得よね。このまま放置でいいんじゃない?』
『いえ、それでも、それだけで信じている宗教を破門になったり犯罪者になったりするのは、ちょっと気の毒でしょう?
せめて、数日間牢に入れられる程度で、犯罪奴隷とかにはならないようにしてあげるべきでは?』
……恭ちゃんとレイコの意見が、かなり違う。
う〜ん、どうしようかなぁ……。
こういう時、恭ちゃんは厳罰主義だけど、レイコは『やったことに釣り合う処罰を』という主義なんだよね。それと、悪意の有無、っていうのも重視するんだ。
でも恭ちゃんは、悪意があろうがなかろうが、やったことの『事実』を重視する。悪気があろうがなかろうが、やっちゃったことには責任を取らせる、って考え方なんだ。
そして、『え、悪意がなくやったわけ? 悪意がないのにこんなことをやっちゃうということは、それが全然悪いことじゃないと思っているわけだよね? ということは、全く反省していないし、次もまた悪気なく平気でやっちゃうってコトだよね? そして、悪意がなくてコレなら、悪意があればとんでもないことをしでかすってことだよね』と責め立てて、厳罰が 下(くだ) るように場の雰囲気を誘導する。
そして私は、相手が与えようとした被害の大小と、再犯の確率を重視する。
相手がナイフを構えて突っ込んできたとしたら、それが刺さって殺されたか、何とか 躱(かわ) して生き延びられたかは、結果論でしかない。相手の意図と行為は、どちらも同じだ。
だから、躱せて無傷だったとしても、相手には厳罰を与えるべきだと思うんだよね。
軽い罪にして釈放したら、絶対にまた襲い掛かってくるし。
だから、相手が 与えた(・・・) ではなく、 与えようとした(・・・・・・・) 被害と、またやらかすかどうかを重視するわけだ。
その、日本ではちょっと認められそうにない私の考え方でも、 ここ(・・) でなら、通すことができる。被害者が私の場合には、ね。
そして、今回の場合は……。
「う〜ん、無理矢理連れて行く、という以外の暴力を振るうつもりはなかったかもしれないし、上司の命令で来ただけだろうし……。それだけであまり気の毒なことになるのは、ちょっと可哀想かも……。
またやらかすかどうかは上司の命令の有無によるし、もし今回の実行犯が拒否しても、上司は別の者に命令するだけだろうからなぁ……。
悪いのは上司であって、あの連中じゃないか……」
うん、そういうことだよねぇ……。
悪いヤツが数人含まれているからといって、その組織に所属する者全てが悪党だというわけじゃない。世界征服を企む、悪の秘密結社とかじゃない限り……。
だから、神殿の神官達の中には、純粋な信仰心を持った 敬虔(けいけん) な信徒もいるだろう。
昔、完全に腐りきっていたのは、総本山であるルエダ聖国だ。
その他の国にある神殿は、宗教的にはルエダ聖国の教皇をトップとしていたけれど、だからといって戦争の時にはルエダ聖国の味方をする、というようなものじゃなかった。
あくまでも、各国の神殿はセレスティーヌを信仰し、そしてそれぞれの国の味方だ。
別に、ただの人間である教皇に盲目的に従うというような関係じゃなかった。
それに、あの講和会議に顕現したセレスは、各国の代表者達に『ルエダと完全に手を切るならば、引き続き自分の名前を使ってもいい』と言った。
……つまり、あの件は全てルエダ聖国のせいであり、 汝(なんじ) ら罪なし、とのお墨付きを与えたわけだ。以後、ルエダ聖国に一切関わらないならば、という条件付きで……。
だから、ルエダ聖国の残党によって私が消滅した時も、セレスは各国の神官達には何もしなかった。
それはつまり、今の神殿勢力はルエダ聖国の上層部が犯した罪とは一切関わりない、ということだ。
女神自ら、それを示したわけだから……。
あの時、この大陸中の宗教関係者達は、皆、悔い改めたはずだ。
時の流れは、それを再び曇らせてはいるけれど……。
「分かった。明日、警備隊本部に行って、捕らえられている連中に、私にどんな用があって、どうしようとしていたかを聞いてくる。それによって、『体調不良で伏せっていたため会うのをお断りしましたが、そういうことであれば……』とか何とか言って、減刑のお願いをする流れに持っていくよ……」
『うん、妥当な判断ね』
『え〜……』
賛成するレイコと、不満そうな声を漏らす恭ちゃん。
うん、恭ちゃんは、そういうヤツなんだ……。
悪党には、容赦なし。可愛く微笑んで、とどめを刺す。
それが、見た目は子供、頭脳は 大人気(おとなげ) ない、恭ちゃんなんだよなぁ……。
「ふざけたことを言ってくれた場合は、ちゃんと『厳正な処罰をお願いします』って言っておくよ」
『うん、まぁ、それなら……』
恭ちゃんも、それで妥協してくれたようだ。
それじゃ、そういうことで……。
* *
「おお、御使い様! 誤解が解けたのですね! こちらがお迎えに行くところを、わざわざ足をお運びいただき、申し訳ありません……」
「この、小娘が! 神殿からの召喚を 拒(こば) むとは、何たる無礼! さっさと非を詫びて、警備隊の者共に自分が悪かったと説明するのだ!」
警備隊本部に顔を出して連中に面会させてもらったところ、4人組の神官達は、謝罪の言葉を口にする温厚そうなふたりと、偉そうに罵倒してくる強面のふたりに分かれた。
あ~……。
「じゃ、こっちの人達は釈放、こっちの人達は厳罰、ということでお願いします」
警備隊の人に、そう伝えたところ……。
「「えええええ!!」」
何だか、驚いているらしき 強面(こわもて) のふたりの神官。
……いや、そうなるのは当たり前だろう。いったい、何を驚いているんだ?
宿の人達を押し退けて無理矢理部屋に押し掛けたのは、多分偉そうなふたりが強行したのだろうな。
温厚そうなふたりは、それを止めきれなかったのか……。
着替え中の私に驚いて言い訳をしていたのは、温厚な方の人だったよね、確か……。
だから、この人達はそう悪い人達じゃないかも、と思っていたのだけど、悪い人じゃなけりゃ、無理矢理押し掛けたりはしないか。女性が伏せっている部屋へ……。
態度が悪い方は、勝手にドアを開けたら女性が着替え中だったから、驚いて声が出なかっただけかな。
まぁ、神殿内にも派閥や権力争いはあるよね。
女神の加護持ち(わたし) を迎えに行くのに、自分の派閥の者を使いたいのは当然だろうから、複数の派閥の者達の混成チームとなったわけか。
私を丁重に迎える派と、偽の自称・加護持ちをいいように利用しようとか考えている、敬意の 欠片(かけら) も抱いていない連中の……。
「主犯は、そっちのふたり。
こっちのふたりは、野良巫女にもちゃんと敬意を払ってくれているみたいだし、そっちのふたりの暴走を止められなかっただけでしょう。
だから、叱責くらいで許してあげて。
主犯のふたりは、……規則に 則(のっと) って、厳正な処罰をお願いします」
「分かりました。どうぞ我らにお任せください!」
案内してくれた警備兵のおじさんが、頷きながらそう約束してくれた。
そして……。
「「おおお、ありがとうございます!!」」
「「そ、そんな! なぜだ! どうして……」」
いや、そこ、疑問に思うようなとこ?