作品タイトル不明
325 神 殿 1
資金調達も、小粒の人造宝石を3個売って、完了。
これで、王都に来た表向きの用件は、無事、ミッション・コンプリート。
あとは、4〜5日のんびりして、お土産を買って帰るか……。
次は、レイコがCランクハンターとしてやって来て、王都支部所属のハンターとして活躍だ。
とりあえずBランクを目指す、ってとこかな。
その時には、借りてる家を使ってもらおう。
それと併行して、恭ちゃんには 少し不思議で珍しい(・・・・・・・・・) 商品を王都向けに売ってもらおう。
* *
欲深い宝飾店のせいで危機に陥りかけたこの大陸であるが、私の大活躍のおかげで、その危機は回避された。
……私が、この国を。この大陸を護ったのだ!!
ふふ。
ふふふふふ……。
しかし、心配なのは、神殿のことである。
先代の御使い様は、神殿とはあまり良好な関係ではなかったと言われている。
それは、皆に広く認識されている。
……『神殿関係者以外の、皆』には。
それも当然であろう。
先代の御使い様は、あまり御自分が目立つことをお好みではなかったらしい。
そして神殿の者達は、御使い様を担ぎ上げて利用し、人気取り、喜捨の金額の増加、そして自分達の出世や栄華を目論んでいたらしいのだ、信じがたいことに……。
なので御使い様がそれらの者達から距離を取ろうとされたのは、当然のことであろう。
しかし、神殿自身は都合の悪いことは後世に伝えようとはせず、そして当然ながら若き神官候補達への教育でも、それについては触れられていない。
なので、王侯貴族や一般民衆が知っていることでも、神官達は知らない、ということがいくつかあり、先代の御使い様と神殿との距離感もまた、そのうちのひとつなのである。
神殿の者達は、一部の者を除き、自分達が御使い様に距離を置かれていたことを知らないし、自分達が無条件で受け入れられるものと信じて疑わないのである。
今回の御使い様がどうお考えなのかは分からぬが、野良巫女をされているということから、 自(おの) ずと答えは見えておるよのぅ……。
そもそも、女神セレスティーヌと直接会話できる御使い様が、なぜ神殿の者達の話を聞いたり 指図(さしず) されたりせねばならぬのか!
人間達が勝手に決めた教皇とか枢機卿とかいう肩書きが、女神が御自分で選ばれた 愛(いと) し子より格上で、偉そうに命令することができるとでも?
なので、今回の御使い様が神殿所属ではなく、女神とその眷属以外の何者の 命(めい) も聞く必要のない自由なお立場である『自由巫女』、通称『野良巫女』として活動されているのは、至極当然のことであろう。
御使い様が下手に神殿に取り込まれたりすれば、神殿側が慢心して 政(まつりごと) やら民草の生活やらに無用な口出しをしたり、喜捨の強要を始めたりしかねない。
なので、御使い様のことは神殿側には伝えていないのであるが、……長い間隠し通すのは無理であろうなぁ……。
貴族の中には、信心深い……と言えば聞こえは良いが、国政や民草の幸せよりも宗教を優先したり、神殿から色々と便宜を図ってもらえることと引き換えに情報を流したりする者もいる。
それが悪いことだとは思っておらず、女神のために尽くした見返りとして与えられる祝福だなどと思っているらしいのだから、タチが悪い。
まだ、賄賂を貰って情報を売っている、と自覚している悪党の方が、数百倍マシである。
それに、御使い様がそのお力を示されたという、あの地方領。
そこには、一般の住民、ハンター、商人達がおり、その中には口の軽い者、他国の者、そして情報が金になるということを知っている者達がいる。
……情報が広まるのは、防ぎようがないであろう。
そしてそれが、真に正しい情報であればともかく、不確かなもの……、たとえば、『怪我人や病人を治せる』という情報だけで、『下手に手出しすると、大陸の危機を招く』という肝心の部分が抜けているだとか、思いのままに 操(あやつ) れる馬鹿な小娘だとかいう噂であった場合。
……大陸が、海に沈む。
いや、御使い様が生きておられるのだから、それはないか。
そんなことをすれば、御使い様とその大切な人々も死んでしまう。
いくら大雑把で考えの足りない女神セレスティーヌ様であっても、さすがにそんなことは……。
いや、御使い様とその周囲の人々だけを他の大陸へと運び、この大陸を……。
いや。
いやいやいやいや!!
そのようなことは、決してあってはならぬ!
この私が、宰相として。
いや、この大陸に生きる者のひとりとして、必ずや阻止してみせる!
私が、この命を捧げ、鬼神フラン様のあとに続くのだ!!
* *
「お客様にお会いしたいという方が来られているのですが……」
宿の 女将(おかみ) さんがそう伝えに来てくれたけれど、今の私に会いに来るような者に、心当たりはない。
そりゃ、ターヴォラス商会の王都支店とか、例の治療院関係とかに知り合いはいるけれど、その連中は私が今、王都にいることは知らないし、この宿にいることも知らないはずだし……。
「誰ですか、その、私に会いたいと言っている人は?」
「神殿の、神官様達です」
「あ~……」
どこで聞きつけてきた?
そして、どういう話を聞いてきたんだ?
まぁ、歪みまくった上に尾ひれが付いた、トンデモ話だろうけど……。
ショボい加護に過ぎなくても聖女とかに祭り上げて利用するつもりなのか、道具としていいように利用して使い潰すつもりなのか……。
でも、神殿勢力といえば、私にはあのルエダの連中しか思い浮かばない。
……つまり、嫌悪感が先に立って、関わりたくないってことだ。
いや、中には、純粋にセレスを 崇(あが) めて人々を救いたいって考えている神官とかもいるとは思うよ? 清貧な生活をしている神官とか、貧民区で炊きだしや支援活動をしている人達もいるし……。
でも、そういう人達は、王都に来て1日しか経っていない野良巫女のところに数人で徒党を組んで押し掛けてきたりはしないと思う。
女将さん、さっき神官様 達(・) って言ったよね。小娘ひとりと話をするのに、どうして大勢で押し掛ける必要があるって言うんだよ。
そんなの、無理 強(じ) いや拉致のためとしか思えないよ!
「私、王都の神官に知り合いはいません。
それに、見ての通り、私は野良巫女ですよ? 神殿の連中には良く思われていません。
どうせ、難癖をつけてお金を巻き上げようとか、どこかに連れ込んで、とかいう魂胆に違いありませんよ。
旅の疲れで寝込んでいる、ということでお願いします」
「はい、分かりました!」
宿泊客に会わせろ、と言ってねじ込んでくる客には、慣れているのだろう。
そして、相手がいくら権力者であっても、ある程度は宿泊客を守ってくれるのであろう。
……いい宿だ。
まあ、さすがに相手が警吏であったり王宮の騎士であったりした場合は無理だろうけど、神官を蹴ってくれるというだけで、充分誠意があり頼りになる宿だ。
……お風呂もあるし。
さすがに、女性ひとりでの宿泊だから、雑魚寝や相部屋が当然の安宿は勿論、普通の宿も避けて、少しランクの高い宿にしたんだよね。別にお金に不自由しているわけじゃないから。
そして、それが正解だったというわけだ。
ある程度の安全と安心は、お金で買えるんだよねぇ……。
……とか考えていたら、階下で何やら騒ぎが……。
タイミング的に、 件(くだん) の神官連中がゴネているのだろうなぁ……。
でも、わざわざそんなところに私が顔を出す必要はないよね。
そんなことをすると、ますます 大事(おおごと) になっちゃうだろうし。
ここは、こういうのには手慣れているであろう宿の人に任せよう。
宗教関連はタチが悪いからねぇ。特に、狂信者とか……。
いや、教祖様どころか、狂信者持ちの 信仰の対象者(めがみさま) 本人が言うのだから、説得力は充分だろう!