作品タイトル不明
324 王都進出 7
宿を取って、ひと休み。
王都に確保している借家は、今は使えない。
王宮からの帰りに尾行が付いている可能性があるから、私が王都に家を借りているなんて矛盾が露見するのはマズいからね。
今は、休養と資金調達のために王都に立ち寄っただけの、ただの野良巫女の振りをしなきゃね。
……あ、資金調達の実績を作るために、宝石をいくつか売るか……。
まだ現金は充分あるけれど、設定はきちんと守らなきゃなぁ。
王宮に呼ばれて王様に会ったけれど、ただの野良巫女に対する激励くらいで、大したことはなかった。
私を無理矢理王宮に連れ込んだ連中の件の謝罪代わりに、『王様と会って、話をした』っていう箔付けをしてくれたのだろうな、多分。
普通、野良巫女にとってそんな機会なんかあるもんじゃないだろうから。
……いい王様だなぁ……。
ここは 第一シーズン(アイテムボックス前) に私が色々とやらかした場所からは大陸を横断しての反対側だし、あれから74年も経っているんだ。
テレビや新聞があるわけでなし、噂が大陸を横断するまでには完全に変容して全くの別物になっているだろうし、当時の記録文書とかは倉庫の奥で埃を被って埋もれているだろう。
それに、当時正確な情報を知る立場であった大人で、今現在生きていたり、元気に出歩いている者なんか、殆どいないだろうし。
それに、超弱小宗派である『女神カオル真教』以外の宗派では私は人間だということになってるし、この世界には写真はない。
なので私が昔のままの姿で生きているなんて考える者はいないし、私の顔は、超美化されて殆ど原形を留めていない絵しか残っていないのだ。
……あの、カオルン 硬貨(コイン) に彫られているようなやつね。
あれじゃあ、誰も私だとは気付かないよ!
それに、現代日本において、いくら見た目が多少似ていたからって、街を歩いていたらいきなり『あなた、卑弥呼様ですよね!』なんて話し掛けてくる奴はいないだろう。
この国で、いきなり『あなた、御使いカオル様ですよね!』って話し掛けるということは、それと同じだ。自分の正気を疑われたくなければ、まず、そんなことをする奴はいないだろう。
私を王宮に呼び付けた連中は、多分宰相さんが叱ってくれているだろう。
あと、気を付けなきゃいけないのは、私を手の者に襲わせた、黒幕の貴族だ。
ええと、確か……、そうそう、『タルトス伯爵』だ!
自白剤を使って喋らせたから、間違いない。
これが雇われたチンピラの証言なら、依頼主が名を騙ったという可能性もあるけれど、子飼いの領兵の自白だから、間違いない。
領主さんが『必ず処分する』って言ってたけど、別にタルトス伯爵はあの領主さんの部下ってわけじゃないからなぁ……。
逆に、向こうの方が国での立場が上で、どうにもならないってこともあり得る。
そもそも、たかが野良巫女ひとりのために、貴族が他の貴族家に全面戦争を仕掛けるか?
ちょっと、望み薄だよなぁ……。
あの場で私の機嫌を取るためだけの、リップサービスだと考えて良さそうだ。
さすがに王都だと、大人数での襲撃とかはできないだろう。
宿屋で寝込みを襲うか、夜道で裏路地に引きずり込むか、それとも貴族として正面からのゴリ押しで来るか……。
まぁ、私を殺すために奇襲するわけじゃないだろうから、あまり心配はしていないけどね。
明日は、宝石を売りに行こう。
王都に来た理由を『休養と資金調達』って説明したから、怪しまれないためにはその両方をこなしておかなきゃね。
それに、王都だと宝石を買い取ってくれる店が多いし、買い取り価格も地方都市より期待できるだろう。
うむうむ……。
* *
「しっしっ! ここは貧乏人が来るような店じゃないんだ。うろつかれると店のイメージが悪くなるから、近付くな!」
「残飯が欲しいなら、裏口へ回れ!」
うひゃ〜、態度 悪(わり) ぃ!
別に、 托鉢(たくはつ) に来たわけじゃないっつーの!
いくら平民だからって、そして野良巫女は貧乏なのが相場だとはいえ、一応は聖職者だぞ?
しかも、建前上のボスは、あのセレスってことになってるんだぞ?
宝石を売ろうと思って宝飾店を回れば、これだ。
地方都市では、ここまで酷くは……、って、そうか!
地方では、金目当ての神殿関係者はかなり嫌われていて、格安で葬儀の祈りや祭事での祝詞、病気退散の祈りとかをやってくれる野良巫女は重宝されてる。
それに対して、王都は神殿勢力が強くて、野良巫女はぞんざいに扱われてるんだ……。
それに、今の私の服は、地方巡回用の、俗に言うところの『野良巫女服』だ。安くて丈夫なやつ。
よし、宿に戻って着替えよう!
* *
「う〜ん、これは金貨8枚と小金貨3枚。こっちのは、金貨7枚ですね……」
「あ、そうですか。お邪魔しました〜!」
「え? あ、いや、ちょっと! ちょっと待って!!」
金持ちっぽい服に着替えたら、ちゃんと相手をしてくれるようにはなった。
しかし、見た目と年齢、そして宝石を買うならともかく売るとなると、完全に足元を見られて、馬鹿安価格を提示された。
なので、さっさと離脱。
舐めた査定をしてくれたところは、相手にしないよ。
その2倍の価格なら私もうんと言ったし、それでもお店はかなりの儲けが出ただろう。
まぁ、私が相場も知らない馬鹿じゃないと分かれば、それなりの値を付けてくれたかもしれない。
でも、客を見た目で舐めて掛かり常識外れの買い取り価格を提示するような不誠実な店は、相手にしない。たとえ、後で他店より良い値を付けてきたとしても、だ。
だから、最初の価格提示で一発アウト。
後ろから、大慌てで引き留めようとする声が聞こえるけれど、スルーだ、スルー!
ま、個人の店なんだから、どんな値を付けようが、店主の自由だ。半分公的な組織である商業ギルドとは違うのだから。
そして、私が宝石をどの店に売り、どの店に売らないかを決めるのも、私の自由だ。
商業ギルドへ売りに行くのは、あまり気が進まない。前回で、充分 懲(こ) りたよ。
おそらく、王都の商業ギルドならばまともな値を付けてくれるだろうとは思うけれど、商業ギルドで売れば情報が漏れるのはほぼ確実だろうし、色々と面倒なことになりそうな気がするからね。
なので、普通の商店で少しだけ 捌(さば) きたい。
資金の調達をしたという既成事実だけ作れればいいんだ。
……但し、私が馬鹿でカモだとは思われず、悪党に利することのないようにして、ね。
よし、次行こ、次!
* *
「金貨11枚でございますね」
「金貨8枚と小金貨5枚ですね」
「勉強させていただきまして、金貨9枚と小金貨5枚に、更に銀貨6枚!」
うがああぁ〜〜!!
世間知らずの子供だと思って、どいつもこいつも……。
「次が駄目だったら、こちらにも考えがあるぞ……」
そして、とりあえず最後の店にするつもりで向かった店は……。
「買い取りを御希望ですか? では、奥でお話を伺いましょう」
うん、いい服に着替えて神具のアクセサリーを着けてからは、一応、話は聞いてもらえるようになったんだよねぇ。
そして、奥に通されて……。
「主任、旦那様がお呼びです」
何か、女性店員が私の相手をしてくれている人を呼びに来た。
「今、お客様を御案内しているんだ。少しお待ちいただくよう伝えてくれ」
「いえ、どうしても今すぐに、ということです。大急ぎで。
少し聞きたいことがあるだけだそうで、すぐ済むとのことです。最優先、との御指示で……」
「何、最優先だと!
……まことに申し訳ありませんが、少しお待ちください。
おい、すぐにお茶と茶菓子をお出しして!」
まぁ、商売人には、突発的な急ぎの用件ができることもあるだろう。
それも、商店主からの急用とあらば、仕方ない。私も、勤め人の苦労くらい知っている。
なので、お気になさらず、と言って軽く手を振っておいた。
……そして数分後。
戻ってきた主任さんは、何だか少し顔色が悪い。
あまり良い話じゃなかったのかな。
まぁ、私には関係のないことなので、どうしようもない。
とにかく、宝石を手渡し、鑑定してもらったところ……。
「……金貨24枚と小金貨4枚。こちらは、金貨21枚と小金貨2……、いや、3枚ですね……」
おお! こちらの予想価格からプラマイ小金貨数枚の範囲内!
勿論、お店の利益も勘案しての予想価格なので、お店の小売価格よりはかなり安いけれど。
「売った!!」
よしよし、王都でも、良心的なお店、ゲットだぜ!
* *
「……というわけで、裏口から飛び込んで大急ぎで店主を呼び、店主から担当者に『損をする価格にはしなくていいから、誠実な、良心的な価格で買い取れ。王命である!』と伝えてもらい、無事、切り抜けました。
いやぁ、隠れ護衛から『宝飾店がことごとく不誠実な査定をするため、資金調達を図っておられる巫女様が御立腹。次が駄目だったらこちらにも考えがあるぞ、と 呟(つぶや) かれた』との報告を受けた時には、どうしようかと思いましたぞ……。
あんなに本気で走ったのは、何十年振りですかな……」
「御苦労であった、宰相。次の即応待機当番閣僚は、財務大臣であったな。今日はもう帰り、ゆっくり休んでくれ」
「ははっ、ありがたきお言葉!
では、久し振りに孫の顔を見て参ります」
「うむ。子供達のためにも、決してこの大陸を海に沈めたりはさせぬぞ!」
「はっ!」