軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

318 王都進出 1

翌日、『灼熱の戦乙女』との契約を解除し、宿を引き払った。

護衛料は、昨夜の活躍を考慮して、かなり色を付けておいた。

そしてハンターギルド、商業ギルド、オーリス商会のダルセンさん達に挨拶をして、町を出た。

行き先は勿論、……適当に、そのあたりの森へ。

そしてふたりで、狩りをした。

私も一応、何かの時に備えて、レイコのコーチで少し狩りの練習をしておこうと思ったのだ。

……というか、異世界に来てホーンラビット狩りを経験しないというのは、ないよねぇ……。

これは、ただの時間潰しだ。

昨夜のうちに恭ちゃんに連絡して、今夜搭載艇で迎えに来てもらうよう頼んでおいたので、それまでの待ち時間なのだ。

* *

「何ソレ、酷い!」

予想通り、恭ちゃん、激おこ。

今回、恭ちゃんは自分のお店、トレーダー商店にいた。

本拠地(リトルシルバー) には常に大人を、という縛りは、子供達が生活に慣れ、町にはリトルシルバーの関係者に手を出す者はチンピラやゴロツキ共を含め誰もいなくなったこと、そしてハンターギルドや商業ギルド、一般の町の人達だけでなく、領主様やその配下である領軍や警備隊の皆さんまでもが子供達のことを気に掛けてくださっているため、もう大した危険はないだろうと考えて、解除した。

ムーノさんのところ、ターヴォラス商会の人達も、時々様子を見に行ってくれているし……。

なのでここ数日は、リトルシルバーでの仕事は子供達だけで回しているのだ。

そして今、恭ちゃんのお店の2階で、今回のことを報告しているわけなんだけど……、案の定、怒られた。

まぁ、当たり前だよねぇ。

……私でも怒るよ、そりゃ……。

じゃあ、なぜそれが分かっていながら、恭ちゃんをハブったか?

いや、私もレイコも、無駄に人死にや不幸な人を増やしたくはなかったから……。

やむを得なかったんだよねぇ……。

そして、現状を打破するために……。

「恭ちゃん、そろそろ王都に進出しようと考えているんだけど、どう思う?」

「え? うん、いいと思うよ!」

うん、恭ちゃんが反対するはずがない。

お店関係で、ひとりでの活動が多かったからねぇ、恭ちゃんだけ……。

なので、早く王都進出作戦に移行して、リトルシルバーと王都で、3人一緒に、って考えていたはずだ。

……今まで、ごめん。

「お店の方は、大丈夫?」

「うん、孤児院出の大人を雇っての新しい経営体制で、うまく回ってる。

乗っ取りとかのおかしなことを考えても、私からの商品の供給が止まれば商売は続けられないし、そんなことをすれば、今後誰も孤児院出の者を雇わなくなるからね。強力な抑止効果が働くよ。

だから、何か限度を超えたトラブルが発生しない限り、商品の納入さえ滞らなければ私がいなくても今の体制で大丈夫だと思うよ」

うん、雇った店員達の生活もあるし、今のお店をそう簡単に潰すわけにもいかないよねぇ。

賃貸じゃなく、買い取った、持ち店なんだし……。

恭ちゃんが常駐していなくても、夜中にこっそりと商品の補充をしたり、たまに業務監査や指示を出せば大丈夫みたいだ。

あの町の商業ギルドがすごく協力的らしくて、従業員が問題を起こしたり、他の店からちょっかいを出されたりしないようにと気を配ってくれているらしい。

…… 当たり(・・・) の、いい町を引き当てたみたいだなぁ、恭ちゃん……。

「じゃあ、これからは……」

「リトルシルバーと王都で……」

「「「KKR、2拠点活動開始!!」」」

* *

「エインヘリヤルが出撃しました。 第五世代(ペンタ) の中で最も初代、真祖に近いと言われている、『脳筋ファルセット』が、名馬フラットに跨がって……。

聖剣エクスグラムは、鬼神が手放さなかった模様。

目標は、大陸東岸で存在が確認された、御使い様とのこと……」

情報部門のリーダーからの報告に、思わず椅子から立ち上がった老人。

「ふざけんな! 俺達がこんなに我慢しているというのに、フラン姉ちゃん、抜け駆けかよっ!

情報部門、戦闘部門、開発部門の幹部と、長老会の全員を集めろ、緊急呼集だ!!」

「はっ!」

「……でも、カオルは自分が目立ったり騒ぎになったりするのは嫌がるだろうからなぁ……。

それに、俺達はもう、カオルに守ってもらわなきゃならない弱者じゃない。今はもう、カオルに代わって孤児達を拾い、教育を受けさせて、守ってやる立場だ。

ならば、今の俺達にできることは……」

鬼神フランセットと同じく、実年齢からすると考えられないほど若く見える男……それでも、そこそこの年寄り……が、呟いた。

「 女神の眼(うち) の支店を作り、カオルがやらかした時には『驚異的な効果がある薬の出元はうちの店』という 欺瞞(ぎまん) 情報を流して、攪乱するか?

支店の者達には『1本だけ入荷しましたが、売り切れました。薬は本店から送られてくるだけなので、うちでは何も分かりません』とでも言わせればいいか。

何、大陸を横断してこの国まで調べに来るのは難しいだろうし、来たら来たで、俺がたっぷりと説明してやる。女神カオル真教の全てをな……」

* *

「女神様が御降臨なされたと?」

「はっ! 現地では『御使い様』と呼ばれているようですが、鬼神の反応や様々な状況から見て、我らが信仰する女神の御降臨である確率は、かなり高いものと判断されます」

部下からの報告を受け、ベッドに横たわった老人が、はらはらと涙を 溢(こぼ) した。

「あれはまだ、儂が16の時じゃった……。

行き詰まった我が帝国が賭けに出た、2方面からの奇襲によるバルモア王国侵攻作戦。

当時、まだ下っ端の新兵じゃった儂は……」

年寄りの昔語りが始まってしまった。

こうなると、先が長い……。

「……というわけなのじゃ……」

ようやく、終わったようである。

「海軍の司令長官と、主立った海運会社の商会長達を呼べ。

理由は、大陸東岸への交易航路拡大とでも言え。

……今こそ、我が国の大恩人、女神カオル様に御恩返しをする時ぞ!

ああ、まさか生きている間に、この私に、こんな僥倖が訪れようとは……。

おお、女神よ! おお、おお、おお!!」

しかし老人は、そこで、ふと真顔に戻った。

「……女神は、表立った場所に出ることは嫌がられていたと聞く……。

これは、行動には細心の注意を払い、陰から密かにお守りするべきか……」

* *

「総本山からの連絡便が届きました」

執事からの報告に、怪訝そうな顔をする老女。

「ん? 定期連絡の時期ではないし、荷が届く予定もない……。

臨時便ですか?」

「はい、緊急便です」

「なっ! 読み上げなさい!」

鬼神や『女神の眼』のメンバー達とは違い、『健康』とかいう効果ではなく、『ちょっとした能力の付与』というだけの効果しかないポーションを飲んだだけの少女は、普通に順当な歳の取り方をし、……今では『妖怪』とか『神仙』とか言われるような見た目になっている。

そして視力も衰えてきたため、小さな文字で書かれたものは、執事に読ませているのであった。

総本山から緊急便が来たのは、数カ月前に来た『あの知らせ』を除けば、もう何年も前のことになる。それくらい、滅多に来ることのないものなのである。

なので、今、このタイミングで来たということは、その内容は……。

そして、執事が緊急便の内容を読み上げた。

「発、総本山統括、エミール・ナガセ。宛て、レイフェル女伯爵。

本文、『二度目の休暇に来られた方の居場所を確認。鬼神が抜け駆けをして、若きエインヘリヤルを一騎、派出。我、「眼」、「耳」、「口」を派遣し、当該場所に支店を作らんとす。目立つ行動は慎まれたし』、以上です!」

執事が読み上げた緊急便の内容に、キラキラと瞳を輝かす老女。

まだまだ元気そうではあるが、この世界においては、かなりの高齢である。

しかし、今の彼女の表情は、何歳も若返ったかのように見えた。

「……来た……。

キタキタキタキタキタキタキタキタキタああぁ〜〜!!

女神様、我がレイフェル伯爵家の全力をもって、御恩返しをいたします!

一族の緊急会議を行います。各家の当主を集めなさい!

それと、ドリヴェル子爵家にも知らせを。呼ばないと、後でうるさいでしょうから……」

そして、ピイィ〜、と指笛を鳴らす、老女。

その後すぐに、ドアから部屋に入ってきた犬と、窓から飛び込んできた小鳥。

その双方に指示を出す、老女。

『レイフェル伯爵領軍犬軍大隊、指揮犬呼集!』

【レイフェル伯爵領軍鳥軍大隊、指揮鳥呼集!】

そして、それぞれこくりと頷き、部屋を飛び出す犬と小鳥。

老女が妖怪や神仙呼ばわりされるのは、決して、高齢だけがその理由ではなかった。

「『眼』と『耳』だけでなく、『口』も送るということは、情報収集だけではなく、情報操作や世論誘導も行うつもりだということですか。

そして『目立つ行動は慎まれたし』ということは、 目立たない行動なら(・・・・・・・・・) 、 慎まなくていい(・・・・・・・) 、ということですね……。

さすがエミール、私のことがよく分かっているじゃないですか……。

ふふ。

ふふふ。

ふふふふふふふ……。

まさか、天界や来世ではなく、今世で御恩返しができようとは、何たる僥倖でしょうか!

さすがにこの老体では長旅も 戦(いくさ) 働きもできませんけれど、……私に代わって、我が子孫達が……。

ふふ。ふふふふふふふ……」

老女の嬉しそうな笑い声が続き、それを聞いている執事もまた、嬉しそうな顔をしていた。

貴族家の執事たる者、勿論、お家の歴史には精通しており、また、主人の恩人についても、当然熟知しているのであった。

……というか、そもそも、執事も主人と同じく、『女神カオル真教』の信者なのであった……。