作品タイトル不明
317 黒 幕 2
「……あ、はァ、まぁ、国がちゃんと処罰してくれるなら……。
そして、一族郎党とか、根切りとかはしなくてもいいんじゃないかと……。
処罰するのは犯罪行為に関わった人達だけでいいんじゃないかな〜、と……」
うん、関係のない人まで処罰する必要はないよね。
爵位剥奪で、家族が平民になるくらいは仕方ないけれど、それは爵位を利用して悪事を働いていた父親のせいだから、仕方ないよね。
職権乱用で犯罪行為を行った父親が、職場をクビになっただけ。
なので、父親が得ていた不当な利益や立場は失うけれど、別に家族にまで罪が及ぶことはない。
……ごく普通のことだよね。
「おお、何と慈悲深い! 爵位剥奪、お家お取り潰しとなっても、妻子は妻の実家に戻るという道もありますし、路頭に迷うということはありますまい。
責はタルトス伯爵本人及び犯罪行為に関わった者達だけに限定し、それらの者の家族や一族郎党にはお咎めなしということであれば、王宮での処分決定も早くなるでしょう。
これ以上はないほどの慈悲を賜りながら執拗に無実を主張した場合、一族郎党にも累が及ぶという通常の処分になりかねないため、一族の者や同じ派閥の擁護派の者達も口出しはしますまい。
犯人達も、妻子が罪を免れるならば、処分に不服を言うことはないかと……」
なる程、そういうものか……。
しかし、どうしようかな……。
本来の計画では、
1 相手が、自白ポーションを使っても構わない、明らかな犯罪行為をやらかすのを待つ。
いくら何でも、まだ何もしていない相手にそういうことをするのは気が引けるからね。
……但し、こちらに余裕がない時と、怒っている時、危険回避の時は除く。
2 黒幕を確認する。
3 叩いて砕く。
……鉄の悪魔かっ!
4 同じようなのが湧いて出ないように、あまりあからさまに表に出ないように、『それとなく』事件の情報を流す。『野良巫女に手出しするな』と……。
しかし、1と2は達成したけれど、3と4は領主様に止められた。
そして、王様に報告して、国として正式に処罰する、とか……。
いや、法治国家としては、それが当たり前か。
私がやろうとしていたのは、私的制裁、いわゆるところの、 私刑(リンチ) というやつだ。
法が裁いてくれない時ならばともかく、国がちゃんと裁くというなら、私的制裁の出番じゃない。
それに、国がやってくれたなら、強い抑止効果を生むだろう。
何しろ、一介の野良巫女を守るために、国が貴族を処罰するのだ。
それが他の貴族達に与えるインパクトは大きいだろうし、平民達はその英断を絶賛するだろう。
……あ! もしかすると、王家やまともな貴族達の人心掌握の作戦に利用される?
いや、それは別に悪いことじゃないし、私が狙っていた効果は充分に得られる。それも、これ以上ないくらいに合法的に、円満に……。
これ、もう、私は何もしなくていいんじゃね?
「……では、後のことは全てお任せします。
私は、引き続き巫女としての修行と 施(ほどこ) しを続けるため、旅を再開します」
うん、何もしなくても片付くなら、私に対しての態度が何だかちょっと不審なこの町をさっさと出て、旅を続けよう。
「……え、ちょっと待っ……、いえ、何でもありません……」
(御使い様を引き留めたいという気持ちはあるが、領内に劇薬を抱え込むのは怖い、怖すぎる……。
それに、女神の祝福は、ひとつの領地や一国で独占するものではなく、 遍(あまね) く分け与えられるもの。なので御使い様は、神殿に留まり安楽な生活をすることなく、野良巫女として放浪の旅を続けておられるのであろう……。留まってもらえるわけがないし、それを望むのは、不遜であろう……)
何か言いかけた領主様は、なぜか私に話し掛けるのは思いとどまった様子だ。
ならば、もう立ち去っても構わないだろう。
もう、辺りは完全に暗くなっている。
でも、ここは町の外れとはいえ、一応は町の範囲内だ。魔物が出てくるようなことはない。
それに、数分も歩けば、家が建ち並ぶところに行ける。ひとりで歩いても、別に問題は……、とか考えていたら、『灼熱の戦乙女』のみんなが駆け寄ってきて、護衛位置に着いてくれた。
……そりゃそうか。私が雇っている護衛なんだから、当たり前だ。
町外れの夜道を歩くのに護衛をしなくて、いつ護衛をするのだ、ってヤツだ。
ま、このまま宿に帰る以外に、行動の選択肢はないよねぇ……。
* *
さて、どうするか。
宿に着いて、『灼熱の戦乙女』のみんなと別れ、それぞれの部屋へ。
そして、最初にするのは……。
「出てこい、レイコ!」
「ホホホッ、ホホホホホ〜!」
……うん、お約束の台詞と共に、隠蔽魔法を解除してレイコが姿を現した。
「釣り出しと殲滅はうまくいったけど、後は領主様に掻っ攫われたよ……」
まぁ、レイコも姿を消して見ていたのだから、知ってるか……。
「アダルトウルフガイの前半だけ読まされた、って感じね。そりゃ……」
「「スッキリしないよね〜〜!」」
「……いや、別に、スッキリするために色々と計画したわけじゃないんだけど、……それでも、まぁ……」
「「ムシャクシャするよね〜〜!!」」
うん、こういう点では、レイコと私は意見が合う。
腹が立てば怒るし、不愉快な時はムシャクシャする。
素直に、普通の感情を抱くのだ。
……『 悪意なき悪魔(恭ちゃん) 』とは違うのだよ、『 悪意なき悪魔(恭ちゃん) 』とは!!
今回の件に恭ちゃんを入れなかったのには、それなりの理由があるのだ。
私もレイコも、不必要に被害者が増えることは望んでいなかった。
ただ、それだけのことだ……。
「それに、そろそろ限界が近いよね、誰にもちょっかいを出されずに聖女モドキの活動を続けるの……。
もうかなり噂になってるから、今後、似たようなのが続出するよね。
あからさまなのを全部潰すのも面倒だし、まともな貴族や金持ちが丁重に接してきたら、無茶もできないし……」
「うん。どんどん貴族家を潰して回れば、王様も困るだろうしねぇ……」
そうなのだ。
レイコが言う通り、無駄に貴族家を潰して回りたいわけじゃないんだよ、私達は……。
ならば……。
「そろそろ、行っちゃう?」
「行っちゃおうか?」
うん、潮時かもしれないなぁ。
地方での活動による実績作りと売名行為を終えて、そろそろ王都へと進出する……。
「恭ちゃんの方は、店の名も売れてるし、王都にはターヴォラス商会王都支店と、大店であるホークス商会という協力店がある。
レイコの方は?」
「ランクはCに上がってる。ランク的にはまだまだ『普通のハンター』だけど、ソロで確実に高ランクの魔物を倒し、どんな依頼も確実にこなす少女ハンターとして名が売れてるよ。
拠点の町や周辺地域だけでなく、王都でもある程度は名が知られてるみたい。
……但し、恭子やカオルみたいに貴族や商人、一般の人達への知名度はなく、ハンターギルドの職員やハンター達の間だけでのことだけど……」
それはまぁ、職種的なものだから、仕方ない。
しかし、その気になれば、恭ちゃんの搭載艇で世界中を飛び回り、卑怯武器で狩りまくった高ランクの魔物や、特殊なセンサーで捜し当てて採取した稀少な薬草や鉱石とかを納入すれば、一発で超有名になれるだろう。
……実は、既にそういった品々がかなりの量、アイテムボックスに収納されている。
そうなれば、貴族どころか、王宮からも謁見のお声が掛かる可能性も……。
勿論恭ちゃんも珍しい品をオークションに出して名を売るのは簡単だ。
3人で狩りまくり集めまくった素材だけでなく、母艦の艦内工場で作ったものとか、私の ポーション容器(・・・・・・・) とかもあるし……。
……で、私?
うむむ、実は私が一番難しいんだよなぁ……。
いや、『女神の祝福』としてポーションを出せば一発だよ、そりゃ。
でも、それだと大騒ぎになっちゃうから、今のままの『ほんのちょっぴりしかない御加護』っていう設定のままにすると、そんなにインパクトはない……けど、神殿関係者が 集(たか) って来そうだよなぁ……。
いくら医師や薬師が簡単にそれ以上の治療をしてくれるとはいえ、実際に眼に見える形で『女神の祝福(微)』を賜った少女なんて、寄付集めやら政治的発言やらに利用するための広告塔としては、充分な利用価値があるだろうから……。
……そして今の私達には、それらより大きな問題が控えている。
「今回の件、恭ちゃんに報告しなきゃ、駄目だよねぇ?」
「情報の共有と互いの信頼関係の維持のためには、必須でしょ、勿論……」
「「…………」」
「今回の件でハブったこと、怒られるかな?」
「そりゃ、怒るでしょ。絶対に……。
むしろ、なぜカオルが、ほんの僅かでも『恭子が怒らない』という可能性があるかも、と考えたのか、不思議だよ」
「「………………」」
マズい。
……とてもマズい。
「「どうしよう……」」