軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

316 黒 幕 1

地面に転がった、怪我人の山。

一応、みんな死んじゃいない。さすがに、レイコもそこまで鬼じゃない。

生きてさえいれば、ポーションによって後でどうにでも調整できる。

完全治癒、後遺症が残らないようにするけれど骨折はそのまま、死なない程度に治すだけで後遺症が残ろうがどうしようが知ったこっちゃない、その他諸々……。

上からの命令には逆らえない領軍兵士は同情の余地があるけれど、違法行為なのを承知でギルドを通さない依頼を受けた屑ハンターとゴロツキ連中は、どうでもいいよね。

甘い顔を見せると、どうせまた同じような犯罪行為に荷担するに決まってるからねぇ。

両手の親指でも斬りとばしておけば、剣が握れなくなって、犯罪行為もできなくなるかな。

鍬(くわ) や 鋤(すき) も握れなくなるから農作業とかもできなくなるけど、背中に背負っての荷物運びとか、店番とかはできるだろう。薬草採取とかもね。

真面目そうな兵士には、ゆっくりだけどちゃんと治るように、ちょっとサービスしてやるか……。

勿論、他の者達にはバレないように、こっそりと、だけど……。

ま、その辺は、正直に吐くかどうか、反省しているかどうかによるけどね。

で、それはいいんだけど……。

「「「「「「…………」」」」」」

私を見詰める、地元ハンターや領主軍の皆様。

そして、領主様御本人と、ハンターギルドのギルドマスター。

……うん、さすがに私にも、分かってる。

ギルドの魔物間引き活動が、 たまたま今日だった(・・・・・・・・・) とか、領軍の特別な訓練が、同じく、偶然にも たまたま今日だった(・・・・・・・・・) とかいうのは、ちょ〜っとばかし無理があるんじゃないかな〜、ということは……。

レイコは、既に『悪は滅びた! さらばじゃ!!』とか言って、姿を消している。

……姿を消しただけで、まだそのあたりで様子を窺っているだろうけど……。

そして、私が何か言わないと、この膠着状態が永遠に続きそうな気がする、今日この頃……。

ああ!

あああああああああっ!!

くそっ、詰んだか?

ここで、愛想を振りまくか? デレるか?

……詰んデレ。

って、うるさいわっ!

うむむむむ……。

「み、皆さん、本日はようこそお越しくださいました!」

あああ、何言ってんだ、私いィ!

「「「「「「…………」」」」」」

ほら、場が冷えちゃったじゃないかあァ!

(ぶふっ!)

くそっ、レイコのヤツ、姿を消したまま、噴き出してやがる!!

「どうやら、巫女である私を助けようとした皆さんが怪我をされないようにと、女神が御使い様をお遣わしになられたようです! そう、私ではなく、 私を助けようとした(・・・・・・・・・) 、 皆さんを助けるために(・・・・・・・・・・) !」

「「「「「「えええええええ?」」」」」」

うむ、『私は大したことのない雑魚です』作戦だ。

仮面の天使『なまはげ』様は、取るに足らぬひとりの野良巫女を助けようとしてその身を危険に晒した者達のために顕現されたのである!

そして、転がっている敵兵達のところへ行って、と……。

確か、コイツが指揮官だったよね?

顎を掴んで、口を開かせて、と……。

口の中に、自白ポーション作製! 首を上向かせて、ごっくん、と……。

……あ、少し気道に入ったかな? かなり 咽(む) せてる……。

よし、みんなには気付かれていないな……。

そろそろ効いてきたかな?

「誰の手の者ですか?」

「タルトス伯爵……」

「私をどうするつもりだったのですか?」

「伯爵のところへ連れて行く……。嫌がっても、無理矢理連れて行く……。連れて行けない場合は、平民の小娘如きに伯爵の面子を潰されたことが広まらないように、そして他の貴族に囲われないように、殺す……」

「やっぱりねぇ……」

この遣り取りを聞いていた人達が驚いているけれど、それは、敵の指揮官が喋った内容にか、それともあまりにも簡単に自白したことに対してか……。

まぁ、自白ポーションの効果はしばらく続くし、指揮官があっさり吐いた以上、その部下達もみんな吐くだろう。指揮官が全部喋ったというのに自分が黙秘を続けても何の意味もないし、そんなことをすれば『非協力的。反省の色なし』として、他の者達よりも重い刑罰が与えられることになるだけだ。……そりゃ、正直に吐くだろう。

さて……。

「じゃ、私はやることができたので、この辺で失礼しますね?」

「……待て! 待ってくれええぇ〜〜!!」

何か、帰ろうとしたら、領主様に全力で引き留められた。

「待ってくれ! 黒幕であるタルトス伯爵は、少女の拉致未遂、殺害未遂の犯人として、王宮から捕縛のための警吏を出してもらう! そして国王陛下の御裁可を仰ぎ、必ずやお家お取り潰し、一族郎党皆殺しの根切り処分といたしますので、どうか私共にお任せを!

何卒、何卒、早まったことはああああぁ〜〜!!」

……どういう事態だ、これ?

いや、貴族の犯罪を国が処罰するというのは、別におかしなことじゃない。

特に、現行犯であり、これだけの証人がいるとなると……。

それはいい。それは理解できる。

……でも、どうして領主様がそんなに必死になって私に頭を下げる?

それに、私に対する言葉が、途中から敬語になってなかったか?

どうなってるんだよ、本当に……。

* *

ひとりの老女……ではあるが、実年齢から考えると異常に若々しい、まだ初老くらいにしか見えない女性が、一段高くなった席から、跪いた14~15歳くらいに見える少女に話し掛けていた。

「大陸の東岸にある国の領主から、使者が来ました。

御使い様の存在を確認。この大陸を海に沈めたくないならば、女神の守護騎士、エインヘリヤルの派遣を求む、と……」

エインヘリヤル。

それは、世界でただひとり、大陸の守護神、絶対英雄、鬼神フランのみに与えられた称号である。

しかし、今ではフランセットの強大な戦闘力の一部を遺伝として受け継ぎ、幼少の頃からフランセット直々の常軌を逸した訓練を受けた戦闘集団の構成員を指す言葉となっていた。

フランセットが、4人の子を成し。

その子供達が、それぞれ4人前後の子を成したとすると……。

子、孫、ひ孫、 玄孫(やしゃご) 。それぞれが、4人、16人、64人、256人。

……合計、340人。

そしてそのほぼ全員が、存命。

たとえ鬼神フランが寿命を迎えようとも、バルモア王国は安泰であった。

「73年間待ち続けた、女神の 守(も) り役。……あなたの番です、ファルセット!」

「はいっ!!」

「……」

「…………」

「「………………」」

「どうして行かないのですか?」

フランセットの怪訝そうな顔に、え、という表情で答えるファルセット。

「あ、いえ、神剣エクスグラムをお授けくださると……」

「あれは、私のです! あなたは、自分でカオル様からいただきなさい!!」

「そ、そんなぁ……」

フランセット、歳を取っているくせに、 大人気(おとなげ) ない女であった……。

まぁ、さすがに自分の年齢を自覚したのか、『自分が行く!』と言い出さずに玄孫に譲っただけ、まだマシであろうか……。

そして、年老いたとはいえ、自分が本気で、全力で振って折れないのは、エクスグラムと4振りの神剣、エクスフロッティだけである。

しかしその4振りの神剣は、カオルから授かった4人の近衛兵が家宝として代々お家に伝えているため、取り上げることなどできない。

なので、フランセットは万一の時には国のために命を捧げ最後の戦いへと赴くために、決して神剣エクスグラムを手放そうとはしないのであった。

「……さあ、 征(ゆ) くのです、女神の守護騎士、エインヘリヤルの血と名を受け継ぎし者よ!

年老いた我に代わって、女神をお守りするのだ!」

「ははっ!!」

今、ひとりの脳筋が国外へと放たれた。

国内であれば、何百人もいる同類の中のひとりに過ぎない。

……しかし、国外においては、鬼神フランとは比ぶべくもないが、それでも充分に、常軌を逸した戦闘力の持ち主なのであった。

そしてたちが悪いことに、同類達の中で育ったために、本人は自分の能力を『努力して、平均以上の力を身に付けた』とは思っているものの、決してそう突出したものではなく、あくまでも『エインヘリヤルの一員としては、普通』と思っていることであった。

そしてひとりの少女が、街道を駆ける。

シルバー種の白馬に跨がり、燃える心と使命を帯びて……。