作品タイトル不明
315 釣 り 3
勿論、レイコはポーションとブレスレットによる光学迷彩の二段構えで、レイコとも新米ハンターであるキャンとも違う顔になっている。
だから仮面は目元を隠すだけの簡単なものだけど、まぁ、これは『お約束』というやつだ。
なまはげ……レイコは魔法(おそらく超科学的な作用による)が使えるから、私のニトロポーションより細かい調整が利くし、自然な感じにできる。あまり超常現象っぽくない自然な戦い方で、相手を殺さずに無力化するとかいうのが。
私のニトロポーションだと、何か吹っ飛ばして爆殺しそうだし、麻酔薬とかで眠らせるのも、明らかに超常現象っぽくなっちゃう。
アイテムボックスに収納、というのは、論外だ。それこそ、神が介在したと思われるだろう。
……当初の計画通り、私ひとりであれば問題なかったのだけど……。
この町に着いた最初の夜に、当然レイコに連絡して状況を知らせておいた。
私だけで何とかなるとは思ったけれど、物事、『絶対』ということはない。第二案、第三案等の予備の案を用意し、安全策を講じておくのは当然のことだ。
最悪の場合は、恭ちゃんに搭載艇で迎えに来てもらって、『野良巫女エディスは、御使い様に連れられて、天に昇りました』という作戦もある。
この場合、また別の顔と名前で最初からやり直しになるけれど、ノウハウは会得したし、『あのエディスの妹』だとか、同じ組織の後輩だとかいうことにすれば、ある程度の評判を引き継ぐこともできるだろうし……。
……あ、今現在は、恭ちゃんにはこの件は知らせていない。
恭ちゃんには、なるべく『錦の御旗』は持たせない方がいいんだ。
……敵味方、みんなの幸せのために……。
そういうわけで、まぁ、仮面の天使、『なまはげ』参上、だ。
ちゃんと、母音を元ネタと合わせてあるので、安心だ。
敵も味方も、『何じゃ、そりゃ!』と思っているだろうけど、これだけの人数が対峙しているところへ、小柄な女性……体格や声、アイマスクで隠れていない顔の部分等から、明らかに未成年の子供と思われる……がひとり現れたところで、戦局には何の影響もない。
そう思って、敵味方共に、『一瞬、驚いた』以外の反応はない。
……しかしそれは、『なまはげ』が動くまでのことであった。
すたすたと、何の警戒もしていないかのような歩き方で敵の方へと歩いて行く、レイコ。
いくら限りなく戦力外に近く見える小娘であっても、剣を佩いた者に近寄られては、さすがに警戒する敵兵達。
そしてレイコが剣の柄に手を掛け、すらりと抜いた。
それに対応し、反射的に抜剣する数人の敵兵。
……さすがに、小娘ひとりに対して全員が剣を抜くようなことはない。
もしそうすると、味方側も全員が剣を抜くことになり、総力戦が始まってしまうことを警戒したのかもしれない。
そしてレイコと敵の距離が縮まり……。
「止まれ! 止まらぬと斬るぞ! 脅しではない。小娘とて、容赦せぬぞ!!」
レイコに一番近い位置にいる敵が、そう警告した。
このままだとレイコと最初に接触することになるのだから、その者が警告を発するのは当然だけど、レイコはそんなの気にすることもなく、そのまま近付き……。
「ええい、自業自得だ、俺を恨むなよ! 恨むなら、己の馬鹿さ加減を恨め!!」
そう言って、一歩踏み出し、剣を振る敵兵。
他の敵兵達は、少女が無意味に惨殺されるのを見るのはあまり好きではないのか、少し視線を外しているみたいだけど、勿論、完全には私達から視線を逸らしていない。
そして、レイコに迫る、敵の剣。
それを受け止めようとレイコの剣が動くが、素人の技術で間に合うわけもなく、敵兵の剣がまともにレイコの左肩に入った。……いわゆる、『袈裟切り』である。
((((((死んだ!!))))))
皆が、そう思っただろう。
でも……。
がいん!
敵兵の剣はレイコの肩の少し前で止まり、レイコがそこにそっと自分の剣を添えた。
「ふはは、そんなハエが止まるような遅い剣、簡単に受け止められるわ!」
「「「「「「…………」」」」」」
一瞬、周囲は静寂に包まれ……。
「「「「「「何じゃ、そりゃああああぁ〜〜!!」」」」」」
まぁ、そうなるよねぇ……。
レイコの剣での受け、全然間に合っていなかったし……。
でも、味方の一部の人達が、うんうんと頷いているのは、なぜ?
……あ! もしかして、私が口上で『神の国から仮面の天使を呼んだ』って言ったから、レイコのことを本当に天使、御使い様だと思った?
そして御使い様なら、あれくらいできて当然、とか?
あまり 大(おお) 事(ごと) にはしたくない……って、もう手遅れか……。
どうして口上で、『神の国』とか『仮面の天使』とか言っちゃったかなぁ……。
いや、まぁ、元ネタに合わせただけなんだけどね……。
……仕方ない。
レイコ……、いや、謎の『なまはげ仮面』は、 女神側の人間(ゴッデスサイダー) ということにしよう。
そして、ほんのちょっぴりの加護しかない私ではなく、命を懸けて巫女を護ろうとした敬虔なしもべ達を護るために顕現した……、って、私が口上を述べて呼び出したことになってるじゃん!
あああ、受け狙いでやった口上が足を引っ張って、自分の首を絞めているうぅ……。
学習しないから、毎回苦悶することになっちゃうんだよなぁ……。
苦悶式学習法。
……って、うるさいわっ!!
そしてレイコは、さすがにさっきのやり方はマズいと思ったのか、やり方を変えた模様。
防護魔法(バリア) だけでなく、身体強化魔法も掛けたみたいだ。
以前、魔法の練習と言うか、効果確認のための実証作業に付き合わされたことがある。
そして様々な試行錯誤の結果、今の身体強化魔法になったわけだけど……。
筋力強化。反射速度向上。思考速度加速。並列思考。……しかも、 防護魔法(バリア) 付き。
……無敵やん。
どこのチート野郎か!
そして今度は、再度攻撃してきた敵の剣をちゃんと間に合うように受け、反撃を。
どがぐしゃべきぼこばき
地に沈んだ、敵の兵士。
レイコが持っているのは刃引きの剣らしく、……まぁ、鈍器だ。 バールのようなもの(・・・・・・・・・) 、みたいなものである。
なので、腕が斬り落とされたり、致命傷にはなっていないようだ。ボコボコだけど。
ぽかんとした顔で、口を半開きにしてそれを眺める、敵味方。
そしてレイコは、正規兵がまともな戦いにもならず一方的に倒されて動揺している敵の中へと突っ込んでいった。
どがぐしゃべきぼこばき
次々と地に沈む、敵の兵士やハンター、ゴロツキ達。
……圧倒的じゃないか、我が軍は!
そして、今襲い掛かれば敵を殲滅できる絶好のチャンスであるにも拘らず、味方の兵士やハンター達は、誰も動こうとはしていない。
まぁ、いくら攻撃されてもビクともしない御使い様が敵を殲滅してくれているのに、それを邪魔したり、余計な手出しをして死んだり重傷を負ったりしたら、馬鹿馬鹿しいもんねぇ。
御使い様の『聖戦』の邪魔をするのは不敬、とでも考えているのかもしれないし……。
う~ん、みんなにも戦いに参加してもらって、『敵はみんなで倒した』ということにしてもらいたいんだけど……。
でないと、このままじゃあ、『御使い様が敵を殲滅した』ってことになっちゃって、穏便な説明ができなくなる……。
御使い様がほんのちょっぴり御協力くださったけれど、敵の大半は自分達が倒した、っていうのなら、まぁ、色々と誤魔化しようもある。
でも、これじゃあ……。
既に、敵の数は残り少なくなっている。
兵士らしき者達は必死で戦っているけれど、身体強化魔法を掛けたレイコには攻撃が当たらないし、もし当たったとしても何の効果もないことは、先程の兵士が実証してしまった。
そして、敵兵達の動きが悪い。
おそらく、『自分達は女神を敵に回したのではないか』という恐怖が、敵兵達の動きを悪くしているのだろう。
……もしかすると、心が折れているのかも……。
ここは、女神が実在し、そして皆がそのことを知っている世界だ。
そしてこの世界の女神は、短気で、容赦がない。
ハンターとゴロツキ達は、既に戦意を喪失したのか、勝敗が決するまで死なずに、重傷も負わないようにと、積極的にレイコに攻撃することなく、防戦一方みたいだ。
まぁ、もし勝ったとしても、女神の怒りを買えばどうなるかは、みんな知ってるからねぇ……。
逃げようとしないだけ、立派……、というか、さすがにこれだけの味方側の兵士やハンターがいちゃ、逃がしてはもらえないか。
現在、味方はただ突っ立っているだけだけど、一応、敵を逃がさない位置取りをしている。
さすがに逃げようとする者がいたら、阻止するだろう。それも、言葉による説得とかではなく、剣によって。
それなら、正規兵の大半がやられて指揮官が諦め、自分達の敗北が決定するまで何とか生き延びて、『ただ雇われて、受けた仕事をしただけ』と主張した方がマシか……。
いや、勿論そんな言い訳で無罪になるはずがないけれど、死罪を免れる確率は、そう低くはないだろう。運が良ければ、20~30年の強制労働で済む可能性も、ないわけじゃないだろう。
そういうわけで、まぁ、勝利はほぼ確実なんだけど……。
う~ん、この始末、どう付けようか……。