作品タイトル不明
314 釣 り 2
「どうして……」
力なくそう呟くカオルであるが……。
「我ら、敬虔なる女神のしもべ、『灼熱の戦乙女』! 少女の危機は、看過できませぬ!!」
「あ〜……」
しかし、『灼熱の戦乙女』は、道を歩いてきたようには見えなかった。
まるで、突然現れたかのような……。
そして、素早くカオルに合流し、敵との間に立ち塞がった。
「……って、最初からここに潜んでいたのか!」
カオルの叫び声に、にやりと笑うイシュリス。
そう。帰り道で、町から遠い位置で、町側からも孤児院側からも死角になっていて、襲うのに丁度良い場所。
カオルも、襲うならこのあたりだよな、とは思っていた。
素人のカオルでもそう思うのだから、当然、その道のプロ達もそう考えたのだろう。
そして、『灼熱の戦乙女』のみんなは、敵よりもずっと早く、カオルの行動予定を知っていた。
……そう、今日の昼2の鐘の頃にカオルが孤児院へと出発するよりも、ずっと前から……。
ならば、敵が待ち伏せのため人員を配置するよりも先に、ここに潜んでおくことは簡単なことだろう。そして彼女達は、ここの地元民である。このあたりの地形など隅々まで把握しているだろう。
余所者がこのルートで襲撃するならどの場所を選ぶかを予測することなど、児戯にも等しい。
しかし、5人では、この数の敵には対処できない。
それは、イシュリス自身がカオルに告げたことである。
意味のない行動。
無駄な犠牲。
自分の計画の邪魔。
そう思い、カオルが困惑していると……。
「お前達、大勢で女性を取り囲んで、何をしている!」
「「「「「「え……」」」」」」
後ろから聞こえた怒鳴り声に、賊達が振り向くと……。
そこには、孤児院側から街道を走ってくる、30人近いハンター達の姿があった。
「俺は、この町のハンターギルドのギルドマスターだ! 所属ハンター達のうちの精鋭を率いて、大規模な魔物の間引きに出た帰りだ。
うちの女性ハンター達に、何か用でもあるのか?」
「「「「「「…………」」」」」」
指揮官は、困惑していた。
ギルドマスター率いる、精鋭ハンター達。
それは、自分達が率いる底辺ハンターとは違い、兵士ともいい勝負ができる者達である。
……しかも、自分達は使い捨てにしても惜しくはない、下っ端の下級兵である。
そして何よりも、人数差が大きい。
いくら多少の強さの差があろうとも、2対1では勝負にならない。
これが何千何万の戦いであれば、一度に戦闘行為をしているのはそれぞれの集団の前縁部分、 最前線(フロントライン) にいる一部の者達だけである。
しかし、この程度の人数であれば、皆が一斉に戦うことになる。
ならば、人数の多い側は一部の者達がふたりでひとりの敵に当たることになり、……そこでは一瞬で勝負が付く。
そうなれば、手の空いたそのふたりが、それぞれひとりで戦っている仲間の加勢に行き、敵を背後から斬る。
そしてまた手が空いた4人が、他の戦闘中の味方の加勢に行き、……勝負はすぐに決まることとなるだろう。
『灼熱の戦乙女』が先に単独で姿を現したのは、女性5人であれば問題とはならないと考え、敵がカオルとの合流を邪魔しないと考えたからであろう。
焦らずとも、この人数差であれば手出しを諦めるかもしれないし、いざとなれば女性5人など瞬殺できる。……そしてできれば、無用な死人は出したくない。……特に、女性の死人は。
賊の兵士達がそう考えるのは、おかしなことではない。
しかし、いきなり大戦力を見せれば、カオルを人質に取るとか、カオルを殺して逃げようとする可能性がある。それを防ぎ、とりあえず自分達がカオルの護衛につけるようにと考えたのであろう。
カオルから『4人の兵士に、口封じのために殺されそうになった』と聞いていた『灼熱の戦乙女』にとっては、その可能性を潰しておくのは、当然のことであろう。
* *
(マズいな……)
敵の指揮官は少し困っていたが、しかし、そう大きな問題だとは思っていなかった。
彼は、小さな部隊とは言え、軍隊の指揮官である。
なので、それなりの準備と、それなりの作戦を用意していた。軍隊としての……。
ピ~ッ!
指揮官がポケットから取りだした笛を吹くと、あまり大きくはない、しかしよく通りそうな鋭い音が響いた。
そして……。
木々の中から、20人近い男達が現れた。
皆、ハンターっぽい恰好をしているが、短く刈り上げた頭髪、キビキビした動き、全体的な雰囲気等から、誰が見ても、受ける印象は同じであろう。
……兵士。
それ以外の、何ものでもなかった。
戦力数が、再度、逆転した。
完全に、形勢逆転。
そう思い、敵の指揮官がにやりと笑った時……。
「お前達、大勢で女性を取り囲んで、何をしている!」
「……え?」
少し前に聞いたような気がする怒鳴り声に、指揮官は、声がした方へと、ぎぎぎ、という擬音が聞こえてきそうな動きで首を動かした。
……そしてその目に映ったのは、40人前後、一個小隊くらいの兵士達の姿であった。
「私は、ここの領主だ。領軍の精鋭を率いての夜間訓練に出るところだが、うちの領民達に、何か用でもあるのか?」
(……マズい)
敵の指揮官は、困り果てていた。
いくらハンターの恰好をさせているとは言え、戦えば、その動きや剣筋から、兵士であることはすぐにバレる。
しかも、この人数差では勝ち目はなく、最後まで戦ったとしても大半は殺され、そして残りは捕虜となる。
全員が、拷問に耐えられるとは思えない。
そして自分達の正体を吐けば、他領の兵士達が変装して軍事行動を行い、この地の領主が率いる小隊と戦闘行為を行ったという事実が露見する。
……致命傷である。
領同士の争いどころか、国軍が出動してもおかしくない、卑劣な謀略である。
領主の暗殺未遂。
そもそも、戦って勝てる人数差ではないし、無事に脱出できる確率は、ゼロである。
かといって、戦いもせずに降伏するわけにもいかない。
軍服を着ておらず、ハンターの恰好をしている自分達には捕虜として扱ってもらえる権利はない。
間諜や、通商破壊を行う工作員や、暗殺者として扱われるか、ただの盗賊団として扱われるか……。
とにかく、正規の兵士としての待遇は期待できそうになかった。
本当に、そのような目的での行動ではないにも拘らず……。
そして自分達の領主が、素直に非を認めたり、賠償金を払って自分達を引き取ってくれたりするはずがなかった。
捨て駒。
そのための、底辺兵士達による特別編成の部隊なのであるから……。
(どうすべきか……)
領主もまた、考え込んでいた。
この兵力差であれば、敵を殲滅するのは容易い。
しかし、このようなことで大事な兵士達を死なせたり、怪我をさせたりはしたくない。
……ひとりたりとも。
なので、できれば戦うことなく済ませたいが、かといって、この連中を見逃すわけにはいかない。
そんなことをすれば、他領から舐められ、同様のことの再発を招く可能性があるし、領民や領兵達からの信頼を失う。……勿論、ハンターギルドや商工ギルドからの信頼も……。
そして勿論、カオルも……。
(いったいどうなってるのよ、この状況!)
両陣営に次々と援軍が現れ、パワーインフレに。
完全に、カオルの想定外であった。
……いや、そもそも、『灼熱の戦乙女』が現れた時点で、既に想定外であったのだが……。
(このままだと、戦いになっても、領主様の方が圧勝するだろう。
……でも、勿論、全員が無傷、っていうわけにはいかないだろう。
これだけの人数が剣で斬り合えば、何人かが死に、そして大勢の怪我人が出る。
確かに兵士はそれを覚悟して就く職業だけど、それは自分達の町を、領地を、国を、そして大切な人達を守るために選んだ職業だ。決して、余所者の『なんちゃって巫女様』の悪だくみに振り回されて死んだり、兵士として働けなくなるような大怪我をするために就いた職業じゃないだろう。
私のせいで、悪党以外の多くの人達の人生を台無しにする?
……できるかあっ!!)
* *
う〜ん、ニトロポーションで爆発させるとか、毒物を生成するとかであの連中を全滅させることはできるけれど、この人達は上官の命令に従っているだけであって、別に個人として悪人だというわけじゃないんだよねぇ……。
いや、やってることは悪事なんだけど、それは国の軍隊の兵隊さんと同じであって、上からの命令に逆らうことはできないし、自分達が所属する貴族領の利益のためなんだから、仕事としてやっているわけであって……。
私のポーション能力だと手加減が難しいし、毒物でパタリと倒れて、あとで後遺症もなく復活、というんじゃあ、威圧効果というか恐怖心を与えるというか、とにかく、再発防止のための抑止効果としてはちょっと弱いんだよねぇ……。
仕方ない、万一の時のために仕込んでいた、 アレ(・・) を使うか……。
よし、口上開始!
「追加戦力があると、便利ですねぇ……」
そして、にやりと笑う私。
「……そう。便利だから、……勿論、私も使ってるんですよ……」
よし、ここで……。
「聖女エディスがまだ野良巫女だった頃、王都の南に怪しい貴族が 蔓延(はびこ) っていた。
その正体は何か。エディスはその連中を殲滅するため、神の国から仮面の天使を呼んだ……」
突然の私の口上に、意味が分からず、ぽかんとした顔で口をあけて固まるみんな。
そして、姿を消して待機していた、 アレ(・・) が現れた。満面の笑みを浮かべて……。
「なまはげ参上!」
……うん、目元を隠す赤い 仮面(マスク) を付けて、 藁(わら) の衣装を 纏(まと) った、レイコだ。
「悪い子はいねが~。ワインはビネガ~……」
「「「「「「何じゃ、そりゃあああ〜〜!!」」」」」」