作品タイトル不明
313 釣 り 1
「重い……」
昼2の鐘(午後3時) の頃、ガラガラとリヤカーを牽きながら、そう愚痴るカオル。
町外れにある孤児院へ、炊き出しの慰問に訪れるために移動しているのであった。
炊き出しなのに手ぶらで行くわけにはいかないので、それらしく調理器材や食材を運ばなければならないのである。
大きな寸胴や鍋は、恭子の母船で作られた、特殊合金製。しかも金属部分の内部にはたくさんの極小の気泡が作られており、軽くて丈夫で腐食しないという、完璧の品である。
食材は、野菜は目立つように積んであるが、肉は傷むのを防ぐため、まだ今はアイテムボックスの中である。孤児院に到着する寸前に出す予定であった。
リヤカーは、詳しく調べられれば規格外のシロモノだと分かるであろうが、ちらりと見ただけでは大八車モドキにしか見えないので、その材質や構造を調べられない限りは、一目で違和感を覚えられるようなものではない。
なので、商人や技術者ならばともかく、カオルの拉致が目的である襲撃者達が気にするようなことはないはずであった。
「今回の慰問は突然の行動だから、行きに襲われることはないだろう。襲われるなら、人数を集めてちゃんと準備して待ち構えての、帰り道だ……。
いや、別に行きに襲われても私は困らないけれど、せっかく用意した食材が無駄になるのは勿体ないし、昨日イシュリスさんにお願いしてこっそりと孤児院に炊き出しのことを伝えてあるから、子供達をがっかりさせたくはないからねぇ……」
予告なしで突然行くと、既に食事の用意が進められていたりして被る可能性があるため、事前告知は必須である。さすがに、カオルもそこまで非常識ではない。
前日の夕方になってから、『灼熱の戦乙女』のメンバーがこっそりと連絡に行ってくれたので、敵に察知された可能性は、ほぼゼロである。
「しかし、さすがプロ。連絡には3人を派出して、それぞれ別行動をさせてひとりだけが孤児院へ行くという念の入れよう。
まあ、敵の目標は私だけなんだから、護衛が一時的にどこかへ行ったとしても、気にしないよね。
まだ夕方だというのに、町のど真ん中にある宿屋を襲撃するわけにはいかないだろうから……。
そんなの、警備兵やハンター、傭兵達が殺到するよ。礼金目当てのゴロツキ達も参加するかもしれないし……」
そう、ゴロツキ共が金目当てで参加するのは、別に向こう側の陣営だけじゃない、ということである。
* *
「「「「「「おねーちゃん、ありがと〜!!」」」」」」
ぶんぶんと力いっぱい両手を振る子供達の声に送られて、孤児院を後にするカオル。
いつものことである。
孤児院にお金や食べ物をもたらしてくれる者は、神か女神。
子供達は、そう信じているのだから……。
(襲撃は、すぐだよなぁ……。
孤児院は町外れにあるけれど、別に町から遠く離れているというわけじゃない。家並みがポツポツと途絶え始めたあたりが『町外れ』であって、そこから更に少しだけ離れたあたりに建っているんだ。
町から少し離れていると、周囲の土地が菜園とかに使えるし、子供達が苛められることもない。
そして、子供達が日銭稼ぎに町へ行くには、そんなに遠すぎるというわけじゃないから……。
とにかく、せっかく私が町の中心部から離れたというのに、また町の中に戻るのを待ったりはしないよねぇ……)
食材がなくなったため、往路よりはかなり軽くなったリヤカーを牽きながら、そんなことを考えているカオル。
リヤカーに積んであった荷物は、消費してなくなった食材だけでなく、重い物や再度作るのが面倒な物……微細気泡入りチタニウム製調理器具とか……は、既にアイテムボックスに収納してある。
それらを運ぶのにわざわざ余計な苦労をする必要はないし、襲撃された時に壊されたりすると嫌なので……。
炊き出しは夕食であったため、片付けやら纏わり付く子供達の相手やらで少し遅くなり、辺りはもう暗くなっている。
そして、カオルがそろそろかな、と思い始めた時……。
前方に、数人の男達が現れた。
孤児院からは充分離れており、町の方からも木々やら何やらで遮られた、まぁ、『町の側で襲うなら、ここですよ!』という、お勧めポイントのような場所である。
そしてカオルが後ろを振り向くと、そこにも数人の男達の姿があった。
前後を押さえなくとも、逃げた小娘など大人の足であればすぐに追いついて取り押さえられるであろうが、それだけ慎重だということなのであろう。
そして、無言のまま近付き、距離を詰めてくる男達。
(前後合わせて、10人くらいか……。小娘ひとりを捕らえるにしちゃ、随分と慎重だねぇ……。
でも、さすがに17人全員を出したりはしないか。残りは少し先行して待機、 荷物(わたし) を抱えて走って疲れた者達からバトンタッチ、ってとこかな?)
カオルがそんなことを考えているうちにも、前後の男達は近付いてくる。
しかし、まだ何も言われていないため、この男達はたまたま通り掛かっただけの、無関係の通行人である可能性も、ゼロではない。…… 小数点以下(コンマ) 数桁の確率ではあるが。
なのでカオルは、リヤカーを牽いたまま脇へと避けて、道を空けた。
……が、勿論男達はたまたま通り掛かった者達ではなかったため、前後から来た者達が合流して立ち止まり、道から外れて立っているカオルに正対した。
(だよね〜!)
まぁ、予想通りである。なので、驚いた様子もないカオル。
「……巫女、エディスだな?」
男達の内の、リーダー役らしき男にそう尋ねられ……。
「いえ、違いますけど?」
「「「「「「えええええ?」」」」」」
怪しい男達に 誰何(すいか) されて、正直に答えねばならない理由はない。
なのでそう答えたカオルであるが、これはお遊びである。別に、必死で他人の振りをしてこの場を逃れたいと思っているわけではないし、そもそも、向こうもこの程度で『すまん、人違いだった!』とか言って退いてくれるほどの馬鹿ではないだろう。
「嘘を吐くな! 調べは付いている!!」
「分かってるなら、どうして聞いたの? 馬鹿なの?」
「ぐっ! う、うるさい!!」
「自分の馬鹿さ加減を指摘されて、ムキになったり逆上したりするのって、カッコ悪いよ?」
「じゃかましいわっっ!!」
カオルにからかわれて、簡単に平常心を失ったらしきリーダー。
「ちょ、ちょちょちょ! 一応、最初は穏便に同行をお願いするって計画だったじゃないですか!」
「あ……」
部下にそう指摘され、しまった、という顔のリーダー。
普通にそうお願いされたのであれば、カオルも一応は丁寧に応対せざるを得ないし、 下手(したて) に出られては、相手を一方的に悪者にもできない。
しかし、10人近い大人達に詰め寄られ、一方的に怒鳴りつけられたのであれば、『少女が大勢の大人達に絡まれ、因縁を付けられている』という構図が出来上がってしまっている。
充分、助けを求めたり、逃げ出したり、……反撃したりしても許されるであろう状況である。
……どうやら、カオルに嵌められたようであった。
「くっ、こ、この……。
み、巫女様、我らと同行して、御屋形様に会っていただきたい!」
この時点においては、この連中は前回カオルを無理矢理連れ去ろうとした4人組と同一グループだとは断定できない。なので……。
「え? あの、先日私を拉致しようとして、自分達の都合が悪くなったからと私を殺そうとした、あの4人組の御同僚の方々ですか?」
「えっ?」
「なっ?」
「聞いていないぞ?」
「どういうことだ?」
男達の間に混乱が広がり、ざわついた。
「あれれ〜? 自分達の行為がバレないように、嘘の報告をしたのかなぁ……、って、そこにいるじゃないですか、私を殺して、上司に嘘の報告をしようとしていた人達!
あ、上司に本当のことを喋られると困るから、捕らえる時か移動中に、どさくさに紛れて私を殺し、口を塞ぐつもりで……」
「「「「ひっ!!」」」」
リーダーに怖い顔で睨まれて、真っ青になった4人組。
「おい、ソイツらを向こうに連れて行って、見張っておけ!」
そして、4人プラス見張りが少し離れたところへ行き、カオルに応対する敵は半数になった。
一度に10人近くをヤるより、半分ずつ2度にした方が余裕ができていい。
そう考えて、口の端を歪めたカオル。
(じゃあ、そろそろ……)
カオルがそう思った時。
「待て! 貴様達、大勢で少女を襲うとは、言語道断! 成敗してくれる!!」
……『灼熱の戦乙女』が現れた。
(計画が、台無しだよ……)
そして、がっくりと肩を落とす、カオルであった……。