作品タイトル不明
312 迎 撃 15
「ど、どうして……」
「いえ、依頼が無事完了する前に依頼人に死なれては、私達『灼熱の戦乙女』の名折れ! ここは、何としてもお供させていただきます!(どうしても何も、この大陸を海の底に沈められたくなければ、他に選択肢がないでしょうがあぁ〜〜っっ!!)」
困った……。
相手が敵だけならば、何とでもなる。
いくら向こうが『上官からの命令を遂行しているだけの兵士や、雇い主の依頼を遂行しているだけの者達』とはいえ、それが明らかな違法行為だということを承知で、少女を襲い拉致しようとしているわけだから、『この人達は、命令されただけ』とか『この人達にも、家族がいる』とかいうことは、何の意味もない。
そんなことを言っていたら、戦争の時に、攻めてきた敵国の兵士に手出しできなくなってしまう。
さすがに、そんな馬鹿はいないだろう。
それに、いくら相手の家族を悲しませたくないからといっても、だから黙って誘拐されて奴隷になって差し上げなきゃならない理由にはならない。
……これっぽっちも!
なので、襲ってきた連中をほぼ壊滅させて、黒幕を吐かせて、……その後完全に壊滅させるつもりだったのだ。
野良巫女の聖女様に手出ししてはならない、という風聞を広めるのも、悪くはない。
別に、それは女神の加護や奇跡によるものだとは限らないしね。
聖女を護るための、かなり過激な武闘派信者集団の存在。
聖女に子供の命を助けられたことのある有力者が、密かに護衛部隊を張り付けている。
……理由は不明だけど、手出しした者は酷い目に遭い、友好的に振る舞った者には、ほんのちょっぴり、良いことがあるかもしれない。
そんな風聞が広まれば、今後も色々とやりやすくなる。
私の安全面でも、……そして報復活動においても。
もし何か 残念な出来事(・・・・・・) があったとしても、それは私の指揮下にはない謎の組織が勝手にやっていることだから、私は何も知らないし、どうしようもない。なので、私には何の責任もない。
だから、私ひとりで出掛けるつもりだったんだよね、この町の孤児院まで……。
ここの孤児院は、町外れにある。
土地が安いし、畑を作るのに都合が良いし、子供達がのびのびと暮らせるし、あまり一般家庭の暮らしを見ずに済むから。
……というか、町の中心部にででんと建っている孤児院というのは、あまり見ないよねぇ。
そして、そこへ食料を積んだリヤカーを牽いて炊き出しに行けば、帰り道で必ず襲われると思うんだよねぇ。行きの時に当然発見されて、帰りまでには充分に準備をする時間があるから。
しかも、護衛なしでの町外れへの単独行動だもん。
普通なら罠を疑って当たり前だけど、多分、平民の小娘だから危機感のない馬鹿だとか、護衛を雇うお金が尽きたとか、自分達に都合の良いように解釈してくれるだろうから。
少なくとも、自分達を上回る戦力を用意できるとは思いもしないだろうからね。
……事実、その通りなんだし……。
その計画が、『灼熱の戦乙女』のみんなについて来られたら、実行不可能になる。
目撃者さえいなければどうとでもできるのに、『処分できない目撃者』がいたんじゃ、マズいんだよなぁ……。
そして、いくら『灼熱の戦乙女』が護衛してくれたところで、『女神の奇跡』なしじゃあ、とても兵士が交じった17人の敵には敵わない。
もし万一勝てたとしても、それは味方の大半が死ぬか重傷を負っての結果だろう。
まぁ、まず、勝ち目はないけどね。
そして私は、自分のせいで人が死んだり傷付いたりすることは許容できない。
なので……。
「却下!」
「「「「「えええええ〜〜っっ!!」」」」」
『灼熱の戦乙女』のみんなが驚きの声を上げるが、でも、これは譲れない。
「雇い主としての命令です。私が指示する時間、みんなはこの宿で待機。
その指示を破った場合、重要な契約違反として、その場で護衛契約を破棄します!」
「「「「「…………」」」」」
黙り込む、『灼熱の戦乙女』の面々。
でも、これはみんなを死なせず、傷付けないための指示だ。
『灼熱の戦乙女』がお人好しのいい人揃いだということは分かっているけれど、たかが数日間の護衛の仕事に命を懸けるなんて、そんな馬鹿をやるハンターが長生きできるわけがない。
……だから、これは私が子供だと思っているための、判断ミスだろう。
でも、私は子供じゃないし、そんなことでみんなを死なせるわけにはいかない。
そして、長いように感じても実は短い無言の時間が過ぎて……その間、『灼熱の戦乙女』のみんなの間では、 赤外線通信(アイコンタクト) のビームが放たれまくっていたけれど……、遂に、イシュリスさんが『苦渋の選択』、みたいな顔をして、頷いてくれた。
「……分かりました。私達は契約により雇われた身。契約書に書かれている通り、私達の不利にならない、契約内容に沿った依頼人からの指示には従わねばなりません。
忸怩(じくじ) たる思いではありますが……」
うん、そうだよねぇ。それが当たり前だ。
この護衛依頼は、ただの、生活のための日銭稼ぎのお仕事に過ぎないんだ。そんなのに、毎回命を懸けててどうするよ。
給料分の仕事をすればいいんだよ。滅私奉公やサービス残業なんか、クソ喰らえ!
働いた分は、全てキッチリ給料を払ってもらわなきゃ!
タダで働きたきゃ、自分だけそうしろよ! 部下を勝手に巻き込むな!!
……ハァハァハァ……。
……いかん、思い出したくない、前世の 業(カルマ) が……。
とにかく、『灼熱の戦乙女』のみんなが納得してくれたので、やれやれだ
じゃあ、善は急げだ。早速、明日の朝イチにでも食材を買い集めて、午後に出掛けるか……。
そうすれば、夕食を作って子供達に食べさせて、帰る頃には薄暗くなってるだろうし。
薄暗いと、向こうも襲いやすいだろうし、こっちも第三者に『神罰』を見られる心配が少し減る。
うむ、よしよし……。
* *
「非常事態発生!! シェルナ、直ちに領主様のところへ行って事情説明、兵力の派出を要請!
エミス、同じくハンターギルド支部へ行って、ギルドマスターに説明を!
来客中だろうが何だろうが、パーティ名を名乗って、押し入れ!
何、既にうちのパーティ名で『マルス1』を宣言してあるんだ、止められることはないだろう。
チェシアは、孤児院までのルートを調査して、襲撃に都合が良さそうな場所の確認!
ネイリーは、私と一緒にエディス様の護衛を。
……掛かれ!!」
「「「「応ッ!!」」」」
カオルが自室に引っ込んだ後、『灼熱の戦乙女』のメンバー達は、悲壮な決意で相談し、そしてその内の3人が、各々の義務を果たすために、町へと散っていった。
本来は領主のところへはパーティリーダーである自分が行くべきかもしれなかったが、護衛がふたりだけになる以上、最も護衛としての能力が高い自分は残るべきであった。
……そして、仲間のことを信頼している。
(頼んだぞ……)
そして、ぎりり、と歯を食いしばり、窓から、仲間達が消えた方角を見詰めるのであった……。