作品タイトル不明
311 迎 撃 14
「……見つけました。
宿に泊まっています。そしてどうやら、護衛を雇っている模様です。
女ばかりの、5人パーティの中堅ハンター。
腕は悪くはないようですが、所詮は女性ハンター。我ら軍人には到底敵わないでしょうし、こちらが雇っているハンター達も、女には後れを取ることはないかと。
……ゴロツキ連中は、まぁ、賑やかし程度に……。
連中は、我々の正体を誤魔化すための欺瞞要員ですからね。死んでも、何の問題もありませんし」
今回雇った部外者ではなく、元々自分の部下である下士官からの報告を聞き、苦笑する指揮官。
さすがに、いくら女性とはいえ、ゴロツキに負ける中堅ハンターはいないであろう。
「 街中(まちなか) で騒ぎを起こすわけにはいかん。警備兵や領軍が出てきたら、こちらにとっては致命傷だ。
我々はあくまでも、『それぞれ全く無関係の、別個のハンターやゴロツキや旅人達』なのだからな。それに、街だと小娘に味方する者達がすぐに集まってくるだろう。なので……」
「……行動を起こすのは、街の外、ですね?」
「そうだ。小娘の行動範囲と、そのパターンを調べてくれ。
いくら護衛が付いていようが、護衛対象が馬鹿であり勝手な行動をすれば、いくらでも襲撃の機会は得られる。
護衛対象を簡単に攫われて名を落とすことになるハンター達には申し訳ないが、手痛い授業料として、将来のための 糧(かて) としてもらおう」
「は!」
* *
「……というような状況ですね」
「なるほど……」
護衛に雇った女性パーティ、『灼熱の戦乙女』のリーダーであるイシュリスさんからの報告を受けた。
それによると、分散して街に侵入した『明らかに訓練された兵士である、なんちゃってハンター』、『非合法の、ハンターギルドを通さない直接依頼を受けるタイプの、底辺ハンター』、そして『どこにでもいる、ただのゴロツキ』達の合計人数は、暴力行為で捕らえられた者を除き、17人であるらしい。
「底辺ハンターとゴロツキは、違法行為に出るまではまぁ良いのですが、兵士がハンターを名乗るのは、重大な犯罪行為です。現時点においても、ハンターギルドが全力で抗議できますよ。
そして、身分詐称者達の雇い主に対する謝罪と賠償金の要求、本人達への処罰と、ただじゃ済みません。
まぁ、ごく稀にはハンター登録をしている兵士もいないわけではありませんが、あの連中が全員そうだとはとても思えませんからね」
え?
イシュリスさんが、そんなことを言っているけれど……。
「でも、それって、正体が露見した時点で、ハンターを詐称していることより、他領の兵士が大勢、身分を偽って侵入して何やら工作、って時点でアウトなんじゃないの?
それ、下手したら領地同士の戦争が始まったり、王様が国軍を出して成敗、とかいう 大事(おおごと) になったりしない?
それに、雇い主はそんなの絶対認めないんじゃないかなぁ。そんな奴らは知らぬ、おかしな言い掛かりを付けるな、とか言って……」
「……た、確かに……」
私の質問に、なる程、という顔で納得した様子の、イシュリスさん。
「バレない、もしくはバレてももみ消せるとでも思っているのですかねぇ……」
「まぁ、『御使い様』を確保出来れば、多少の無理は通せるとでも考えたのか……」
「あはは……」
エミスさんとチェシアさんがそんなことを言っているが、勿論、それはただの冗談だろう。
私はあくまでも『ごく僅かな祝福を受けているだけの、ただの野良巫女』なのだから。
まあ、本当にハンターなのか偽物なのかは、すぐに分かるわけじゃない。
このあたりの技術力なら、ハンター証なんか簡単に偽造できるだろうし、わざわざ偽造するまでもなく、ハンターから奪うとか、森で死んだハンターから身ぐるみ剥いだ時に奪ったものとかが、闇市で売られているらしいのだ。
そのハンター証を発行した街のギルドとすぐに連絡が取れるわけでなし、本人の魔力を感知して、とかいう謎技術があるわけでもないのだから……。
なので、現段階で偽ハンターだと断定して捕らえるのは不可能だろう。
今はまだ何の犯罪も犯していない、ただの移動途中のハンターに過ぎないのだから……。
「つまり、敵の人数は17名。うち9名が兵士で、残りがハンターとゴロツキ共、というわけです。
すみません、ちょっと、我々だけでは勝てそうにありません。
なのでここは、追加の護衛を雇うか、領主様に兵を出していただくようお願いした方が……」
イシュリスさんがそんなことを言い出したけれど……。
「いや、それじゃあ、向こうが襲ってこないじゃん!」
「え?」
「いや、自分達の方が圧倒的に優勢じゃないと、襲ってこないでしょ?」
「「「「「…………」」」」」
ぽかんとした顔の、『灼熱の戦乙女』のみんな。
「……いや、襲って欲しいんですか?」
「うん。そうしないと、ずっと狙われたままで、護衛を雇いっぱなし、街からも出られないでしょ。
それに、締め上げて黒幕の名を吐かせないと……」
「あ、拷問なら、既にやってますよ?」
「え?」
「え?」
「「えええ?」」
「……いえ、何でもありません!」
イシュリスさんが、何やらよく分からないことを言っていた。
何人かが警備兵に捕らえられたらしいって言っていたけど、酔って少し喧嘩したくらいで、拷問なんかされるわけがないよね。
いくら何でも、そんな重罪じゃあるまいし……。
だから、ちゃんと私を襲ってもらって、拷問をされても仕方ないだけの重罪を犯してもらわなきゃね。
「……で、いつまでも長引かせるのも面倒だし、いつ襲われるかが分からないと、こっちも気が休まらないし、思わぬ不覚を取ることも考えられるからね。
だから……」
「だから?」
イシュリスさんの問いに、胸を張って答えた。
「こっちが考えている通りの時に、こっちが考えている通りの場所で襲ってもらう!」
「「「「「「えええええええ……」」」」」」
『灼熱の戦乙女』のみんなが驚いて声を上げたけれど、戦いの場所と 刻(とき) が自軍の思う通りになるよう誘導するのは、戦いの鉄則だよね。
自分達の都合の良いシチュエーションでの戦い。
「……しかし、いくら襲われる場所とタイミングを誘導できたところで、そして半数近くが底辺ハンターとゴロツキ共だとはいえ、9人もの職業兵士を含む17人を相手にすることは……。
せめて同数の戦力を用意しないと、一度に襲い掛かられた場合、複数の敵に対峙することになった者がすぐにやられ、そして手が空いた敵が1対1で戦っている他の味方に襲い掛かり、あっという間に劣勢になってしまいます。
それに、敵に手空きの者ができると、私達が戦っている間にエディス様が拉致されるかもしれません。
そうなっては、何の意味もないでしょう!」
まあ、その通りなんだけどね。
……そしてイシュリスさんの説明は、私を護る、という観点からのみの話であって、自分達の生死に関することには何も触れていない。
普通、ただの1回の護衛依頼のためにそんな危険を冒すようなハンターはいないよねえ。
別に、親の仇と戦うというわけじゃないんだ。
ただの仕事。
依頼料分以上の危険を冒す必要はない。
私が契約した内容は、『街の中で襲われた時のための護衛』だ。わざと大勢の敵からの襲撃を誘い、それを迎撃するというような、危険度の高い依頼じゃない。
それに、そういう仕事を依頼するなら、ハンターギルドではなく傭兵ギルドだろう。
「……まあ、大丈夫。
それと、それは『灼熱の戦乙女』の皆さんと契約した護衛依頼の内容から逸脱していますから、勿論、皆さんにはお付き合いいただく必要はありません。
あ、連中を締め上げて黒幕の正体を吐かせるまでは、まだ次のが来るかもしれませんから、契約は継続しますけどね」
「「「「「えええええええ!!」」」」」
私の言葉があまりにも予想外だったのか、驚きの声を上げた『灼熱の戦乙女』の面々。
……でも、これは当然のことだろう。
あんな契約内容と依頼金で、勝てるはずのない戦い、『死ね!』という戦いに引き込めるはずがない。
そして、私の戦いを、敵以外の者の目に触れさせるわけにはいかない。
なので……、って、何かみんなが無言でアイコンタクトをしているぞ。
さすが、ベテランハンター。それで意思疎通ができるんだ……。
そして、 赤外線通信(アイコンタクト) で話が付いたのか、みんなが私の方を向いて……。
「「「「「お供させていただきます!!」」」」」
「えええええええっ!!」
どうしてこうなった……。