作品タイトル不明
310 迎 撃 13
「どうなってるんだよ! これじゃ、誘拐や拉致どころか、調査すらできやしねぇよ!!」
雇われた者達を代表して、ハンターのひとりが語気を強めた。
……勿論、ハンターとは言っても、このような違法行為をギルドが仲介するはずがない。
ギルドを介さずに直接依頼を受けた、『自由依頼』によるものである。
なので、この仕事に関してはギルドの支援は一切受けられず……というか、明らかな犯罪行為なので、バレれば除名処分モノである。
……まぁ、それ以前の問題として、犯罪奴隷になるので関係ないかもしれないが……。
そう。街に入った仲間達は、その全てに街側からの見張りが張り付き、情報収集ができたのは、最初の数時間だけであった。
その後は、全く仕事にならなかったのである。
そして、後についてくる連中に我慢ができずに突っ掛かった数組の者達は、なぜかすぐに現れた警備兵達に捕らえられ、連行されていった。
普通、それくらいのことであれば、説教されて、すぐに解放されるはず。
そう思っていたのに、誰ひとりとして戻って来ない。
疑問に思って、警備隊本部の建物の近くへ様子を見に行った者が言うには、……中から、絶叫のような声が漏れ聞こえた、とか。
まるで、 拷問を受けている(・・・・・・・・) かのような声(・・・・・・) が……。
しかし、そんなことはあり得ない。
凶悪犯罪であればいざ知らず、たかが言い争いで相手の肩を軽く突いたくらいで、拷問を受けるはずがない。
喧嘩両成敗。双方がちょっと注意されて、そのまま解散。それが普通である。
幾分地元贔屓が入るとしても、片方はそのままお咎めなし、もう片方が収監されて拷問など、あり得ない。
そもそも、拷問というものは、情報を得るため、自白を強要するためのものである。
初対面の者同士がちょっと 諍(いさか) いを起こしただけだというのに、いったい 何を自白させようと(・・・・・・・・・) いうのか(・・・・) 。
……しかし、警備隊本部の建物から 微(かす) かに漏れ聞こえてくる声は、いくら聞いても、悲鳴にしか聞こえなかったのである。
「おかしいだろうが!
平民の小娘をひとり、捜し出して連れ戻すだけ。あんた、確かそう言ったよな! それが、どうして街ぐるみで敵対行動を取られるんだよ!
あり得ねぇだろうが!
あんた、何か隠してるよな?
依頼において、危険度の虚偽説明や重要事項の未告知は、重大な契約違反だぞ!
依頼金の全額プラス違約金の支払いと、仕事の即時中止。それがこの業界での掟だぞ!!」
「知らん! 依頼内容は、事前説明の通り、旦那様が目を付けた、神殿には所属していない平民の野良巫女をひとり確保することだ。
神殿に邪魔されることもないし、他領から流れてきただけの平民なのでその地の領主とかが気にすることもない、ただの12~13歳くらいの小娘だ!」
「じゃあ、どうしてこうなってるんだよ!」
今回の作戦に参加した領軍兵士と、雇われのハンターやゴロツキ達全体の指揮官である領軍の士官に食って掛かる、ハンター達。ゴロツキ連中も、それに便乗して騒いでいる。
……仕事をせずに依頼金プラス違約金が貰えるなら、それに越したことはないので……。
そして、何とかせねばと、懸命に頭を絞る指揮官。
「……やむを得ん。裏の連中に接触して、情報を入手しよう。情報がなくては、どうにもならんからな……」
雇った連中に報酬を支払うのは、小娘を連れ帰ったあとである。
こんなところに大金を持ってくるわけにはいかないし、下手をすれば雇った連中に持ち逃げされる可能性もある。
なので大金を持っているわけではないが、別に危険な仕事を依頼するわけではない。ならば、手持ちのお金で足りるはずである。一応、念の為に多めに持ってきているので……。
「では、 蛇(じゃ) の道は 蛇(へび) 、裏の連中との繋ぎは、お前に任せよう。
ちゃんと追加報酬が貰えるよう口を利いてやるから、しっかり頼むぞ!」
そう言って指揮官に指名されたゴロツキのひとりが、にやりと嗤って、その依頼を引き受けた。
* *
「……駄目だ。下っ端の奴らに酒を呑ませて金を握らせ、世間話やらどうでもいい話とかをして、……そこまでは 良(い) いんだが、……『野良巫女の娘』という言葉を口にした途端、みんな、顔色を変えて口を 噤(つぐ) みやがる……。
連中は詳しいこたぁ知らねぇみてぇだが、上の方から指示が出てやがるな、ありゃあ……。
それも、タダ酒で良い気分になっている奴らが一瞬で 素面(しらふ) に戻るくれぇの。
……多分、トップからの厳命だな……」
裏の連中との繋ぎを取ろうとした男が、指揮官にそう報告して、肩を竦めた。
「なっ……。どうして、この街に来てまだほんの数日しか経っていない平民の小娘が、そんな、表と裏の両方から街ぐるみで守られるのだ! おかしいだろうが、ええ!!」
「そんなこと、俺に言われても……。こっちが知りたいよ!」
期待していた追加報酬がパーになったため、あまり機嫌の良くないゴロツキ。
そして、話を聞いていたハンターが、横から口を挟んだ。
「……聖女様、だからじゃねぇんですかい?」
それを聞いて、不愉快そうに顔を顰める指揮官。
「……馬鹿な……。それは、領主様があの小娘を担ぎ上げて利用するために考えておられる、ただの『設定』に過ぎん。
そもそも、本当に女神の御寵愛や祝福を賜っていたら、小娘ひとりで貧乏人相手のひとり旅などしているはずがないだろうが!
好待遇で受け入れられるよう神殿に売り込んだり、王宮や上級貴族に専属として雇われたりすれば、一生安楽に暮らせるというのに……」
しかし、その指揮官の言葉は、ハンターによってバッサリと斬り捨てられた。
「いや、そう考えるようなヤツは、そもそも女神の御寵愛を受けたり、祝福を賜ったりはしないでやしょうが……」
「うっ……」
ハンターの正論に、反論することができず、言葉を詰まらせた指揮官。
それは、あまりにも説得力があり過ぎて、否定のしようがない言葉であった。
「……ま、まぁ、『聖女様』というのは、あくまでも設定、架空の話に過ぎないので、そんなことは関係ない! 今はとにかく、小娘を捜し出して確保することが最優先だ!」
そう怒鳴る指揮官に、御機嫌取りのつもりか、ハンターのひとりが囁いた。
「まぁ、別に今までの調査が無駄だったというわけじゃないですからね」
「ん? どういうことだ?」
聞き返した指揮官に、男が説明した。
「いえ、街の者達が必死で隠そうとしているということは、その少女がまだこの街にいるということでしょう。そして、何らかの理由で、街ぐるみで守ろうとしている、ということが判明しました。
これは、これから我々が作戦を練るに当たって、とても重要な情報ですよ。
下手に行動する前にそれが分かったということは、 初手(しょて) としては大成果と言って良いのではないかと……」
それを聞き、あ、という顔をした指揮官。
「……そうか。確かに、そう考えれば、他領の見知らぬ町での極秘行動の第一歩としては、そう悪くはないか。
少人数に分かれてバラバラに街へ入ったから、我々が纏まったひとつの戦力だとは気付かれていないし、小娘にも我らの存在もその目的も知られてはいない。
戦力と情報、その双方において、我々が一方的な優位に立っているというわけか。
……これは、悪くない。悪くないか……」
指揮官は、機嫌が良さそうな顔で、その場にいる者達に指示を出した。
「よし、今日はもういい。あとは自由行動だ。街に出て酒を呑むことも許可する!
……但し、明日の任務に支障が出るほど呑んだり、騒ぎを起こして目立つ事をやった者は、以後、この任務が終わるまで飲酒禁止にするぞ!
おい、飲み 代(しろ) だ、足りない分は、自分達で払えよ!」
そう言って、金貨を1枚、部下の兵士に渡してやった。
「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」」
いくら指揮官とはいえ、こんなハンターやゴロツキを混ぜた小部隊を率いての、身分を偽装しての潜入任務である。
もしこの領地の官憲に正体がバレたら、おそらく抗議を受けた領主様からは、『そのような者達は知らぬ。ゴロツキ共が虚言を弄しているのであろう。皆、打ち首にされよ』とでも回答されるのであろう。
それに信憑性を持たせるために、兵士ばかりではなく、犯罪行為も気にしないハンターやゴロツキ達を雇っての、混成部隊なのである。
もし戦いになった場合、ハンターかゴロツキが数人殺されてその死体が現場に残されれば、完璧であった。
なので、こんな任務を与えられるのは、士官の中でも下っ端、それも使い捨てても惜しくない、平民上がりの初級士官である。
そういう者にとって、金貨1枚は、かなり痛い出費のはずであった。
それでも、その痛い金貨を、自分の部下だけでなく今回限りの雇われハンターやゴロツキ達にも呑ませてやろうと、痩せ我慢をして、ポンと出してやる。
おそらく、良い人物なのであろう。
……上官に、そして領主にさえ恵まれていれば……。
しかし、そのような僥倖に恵まれる者は、滅多にいない。
それは、仕方ない。
仕方ないことなのであった……。
そして、指揮官からの大盤振る舞いを引き出したハンターの男は、みんなにバンバンと肩を叩かれて、称賛の言葉を受け続けていた。