作品タイトル不明
309 迎 撃 12
あの後、何とか子供達にひとり旅の危険性を教えて、護衛の『灼熱の戦乙女』のみんなと共に、さっさと退散。
……でも、戦闘力皆無の女の子である私が何の問題もなく旅をしているという事実の前には、少年達を納得させることはできなかっただろうなぁ……。
領主様は、私からは有益な情報は得られそうにないと思っただろうし、自分の子供達を危険に 誘(いざな) うような甘言を弄する悪魔をこれ以上邸に招きたいとは思わないだろう。
なので、もう意味もなく領主邸に招待されることはないな。
うむ、これで面倒事がひとつ片付いたな。よしよし……。
* *
やはり、あの巫女の少女、エディス様は御使い様であったか……。
話の中にあった、『魔物達に追われて、逃げ回った』という話……。
森の中で、少女の足で複数の魔物から逃げ切れるわけがあるか!
そして、いくら貴族や金持ちの娘であろうと、そう簡単に高価な宝石をひょいひょいと売って回れるものか!!
……そもそも、金や宝石を持った少女のひとり旅で、盗賊や他の旅人、村人とかに襲われずに済むはずがなかろう!
いくら聖職者である巫女は襲われることが少ないとはいえ、物事には、限度というものがある。
そう、盗賊や街のチンピラだけでなく、少しタチの悪い旅人や村人どころか、宝石を売った商人、それを見ていた店の従業員、その他諸々に狙われ、後をつけられ、襲われるに決まっている。
そして身ぐるみ剥がれて奴隷商人に売られるか、実家に身代金の要求が行く。
絶対に、旅を始めて数日後には、そうなるはずだ。
それが、何カ月も無事に活動を続けていられるなど、……ほんのちょっぴりの女神の御加護程度では足りるわけがない。
そこには、強力な 何か(・・) がないと……。
「そんなの、ただの人間であるわけがないであろうが!
いったい、どうすれば……。
ああ! あああああああああ!!」
* *
……来た。
来た来た来たァ!
街に、見慣れない連中が現れた。それも、かなりの人数が……。
ハンター……の振りをした、兵士。
素行の悪いハンター。
ゴロツキ。
そう、『敵』の手の者だ。
……どうして素性が分かるか?
いや、勿論、私には分からない。でも、『灼熱の戦乙女』の皆さんには、分かるらしいのだ。
歩き方、姿勢、目配り、道端の女性を見る目。
それら全てにおいて、それぞれの職業特有の癖があるんだってさ。
兵士は姿勢が良かったり、数人が一緒に歩いていると自然に足が揃っていたりするらしい。
そして服やズボンはバラバラだけど、靴と剣はお揃いだったり……。
靴と剣は、慣れないもので戦うのは不安だろうし、おそらく靴はそれぞれのサイズにピッタリのものを用意するのが難しかったのだろう。
ここは大量生産ができるような世界ではないし、戦闘用の高価な革のブーツとかは、おそらく受注生産だろう。
素行の悪いハンターとゴロツキは、……まぁ、見たまんまだ。別に偽装をしたりはしていない。
兵士は、『他領の兵士が大勢、領内に侵入して活動。目的は、女性を拉致すること』なんてことが露見したら 大事(おおごと) だから偽装が必要だけど、ハンターやゴロツキにはそういう心配はないからねぇ。
いや、勿論、女性の拉致が露見すればハンター資格剥奪、捕縛されて犯罪奴隷、とかになるだろうけど。
大勢が偽装するなら、商隊とその護衛に扮すればいいと思うけれど、それだと馬車や積み荷を用意しなきゃならないし、兵士やハンター、ゴロツキ達に商人の振りができるとも思えない。
それに、商人に扮すると、護身用の小さなものを除き、本格的な武器を持っているのが不自然になるから都合が悪いのだろうな。
ソロや、いくつかのグループに分かれているけれど、互いに情報交換をしているから、全部仲間なのは丸分かりだとか。
雇い主はちゃんと作戦を指示したのだろうけど、ま、底辺ハンターやゴロツキに期待する方が間違ってるよねぇ。
で、私はすぐに宿に引き籠もったのだけど、情報収集に出たチェシアさん……『灼熱の戦乙女』の斥候役。情報収集も担当しているらしい……が、色々と情報を集めてきてくれた。
……というか、やっぱり、チェシアさんの負担が大き過ぎ!
戦闘時以外のリーダーであるイシュリスさん、仕事の配分、調整しようよ!
まぁ、チェシアさんが多才過ぎて、何でも他の者よりずっと上手くこなしてしまうからなんだろうなぁ……。
アレだ、デキる者のところに仕事が集中する、ってヤツ。
だから、職場では下手に能力や保有資格を口にしない方がいいんだよねぇ、それが昇給や出世に繋がるものでない限り……。
そしてチェシアさんによると、連中はハンターギルド支部で私のことを聞き回っているらしい。
商業ギルドの方は、まさか私が宝石を売ることにより商人と繋がりを持ったなどということは思いもしなかったのか、ノーチェックだとか。
あの時、商人であるダルセンさんにも助けられたけれど、連中はダルセンさんの本拠地がこの街だということは知らないだろうから、あの場限りの関係だと考えるのが普通だろう。
なので、連中が商業ギルドで聞き込みをしないのは理解できる。
それに、ハンターやゴロツキ、兵士達には商業ギルドなんか縁がないから、商人から情報を聞き出すやり方も分からないだろうし、そもそも、商人が命とお金と信用の次に大事にする『情報』を、見知らぬ者にそう易々と渡すわけがない。
それに較べれば、ハンターは互いに助け合う仲であり、酒でも奢れば、自分に不利益のない情報は簡単に教えてくれる。ゴロツキも、また 然(しか) り。
そういうわけで、ハンターギルド支部で聞き込みをしているらしいのだけど……。
『ハンター達もギルド職員も、全員が「知りませんねぇ……」、「何のことでしょうか?」と言って、一切の情報をシャットアウトしています』
ってことらしいのだ。
ハンターを雇ってくれる依頼人は、身内として庇ってくれるらしい。
ありがたいねぇ……。
ま、いくら宿に引き籠もっていても、それだけで逃げ切れるわけがない。
ギルド関係者だけでなく、事情を知らない一般商店の従業員や普通の街の人達、子供達、そして孤児院とかに聞き込みをされれば、私がこの街に滞在していることや、宿屋に泊まっていることとかはすぐにバレる。
ならば、敵に発見され、包囲される前に、こちらから先に一発喰らわせる方がいいだろう。
うん、『攻勢防御』ってやつだ。
……そう考えていたのだけど……。
* *
「何だよ、テメーら!」
「……いや、ただこの先に用事があるだけだが、それが何か?」
「…………」
あまり 風体(ふうてい) の良くない、4人連れの余所者のハンター。
そしてその後ろにぴったりと張り付いて移動していた、明らかに格上の、5人連れのハンターパーティ。
地元の者にそう言われては、余所者には否定できない。
それに、依頼任務を果たす前に揉め事を起こすわけには行かないし、……格上の上に自分達より人数が多い地元のパーティに喧嘩を売って、無事に済むとは思えない。
なので、渋々引き下がった、余所者パーティ。
そして、しばらく経って、ようやく地元パーティが交差路で他の方向へと去って行った。
これでようやく調査を再開できる。余所者パーティの者達がそう思っていたら……。
5人の、警備隊所属らしき兵士達につけ回された。
「何だよ! 俺達が何かしたって言うのかよ!」
激昂してそう怒鳴ったところ……。
「いや、ただの巡回だが? 何をそうカッカしているのだ? 何か、警備兵に見られると困ることでもやるつもりなのか?」
「うっ……」
そして、警備兵の次には商家が雇っている私兵らしき連中、その次にはまたハンターと、その男達に張り付く者が途切れることはないのであった……。