作品タイトル不明
308 迎 撃 11
「……で、どうかな、慈善活動の方は……」
領主様御一家との食事が終わり、食後のお茶の時間に、そんな話題を振られた。
食事中には、当たり障りのない楽しい話ばかりで、あまり重い話や仕事絡みの話をするのは不作法、と言われている。
なので、今からが私を招いた本題の話が始まるはず。
妻子が同席している時にそういう話をするのもあまり良いことではないらしいけれど、私とふたりきりでそういう話をするのも躊躇われ、こういう形にしたのだろう。
それなりに私の立場に配慮してくれた結果だろうから、別にそれは不愉快じゃない。逆に、評価してあげるべきだろう。
「あ、はい、孤児院に行ったり、怪我や病気の人達のところを回ったりと、普通にやっています。
炊きだしや、僅かばかりの寄付や寄贈、気休め程度の祈りしかできませんが……。
どうやら、神殿の派出所……出先機関……は、お金を払える人達しか相手にしないようですので……」
「むぅ……」
そして私の言葉に、少し顔を顰める領主様。
これは別に、嫌みとかじゃない。
神殿系列は、貴族とか領主、官憲とかとは別の組織だ。出先機関が命令を聞くのは、王都にある大神殿からの指示だけ。
なので、いくらそのやり方を苦々しく思っていても、領主さんにはどうしようもないのだ。
神殿側に何か言ったところで、『貧乏な者達を助けたいなら、領主様がお金を出してお助けになればよろしいでしょう? 領主様の、可愛い領民達なのですから』とか言われたら、反論のしようがない。
そのくせ、一般の人々からだけでなく、領主様にも寄進を要求するんだよねぇ。
そもそも、寄進というものは『自ら進んで金品を寄付すること』であり、神殿側から要求したり、金額を決めて料金のように受け取るとかいうのは、……そんなの、『寄進』じゃない。
私は、 第一シーズン(アイテムボックス前) でのルエダ聖国の連中のこともあって神殿勢力にはあまりいい印象を持っていない。
いや、そりゃ、神官達の中にも、真面目で民のことを考える、いい人もいる。
……でも、悪い連中の方が圧倒的に多かったんだよねぇ、あの頃は……。
セレスが姿を現さなくなってから、50年以上経っていたんだっけ?
そして、講和会議と私が消えた時にセレスが姿を現したことにより、神官達の間にも一気に信仰心が甦った、とか……。
いや、何だよソレ、って話だよね。
一般民衆はずっと信仰心を抱いていて、信仰心を失っていたのは神官達、って、笑い話にもなりゃしないよ。
そして同じく笑えないのが、あれから70年以上経って、当時生きていた神官達から直接教えを受けた現在の年配者達はまだ篤き信仰心を抱いているけれど、その次の世代、現在の比較的若い層は、またまた腐敗し始めているらしいのだ……。
なので、『上層部はまともで、下の方が腐敗』という、普通考えられるであろうものの逆パターンという、珍しい状況になっているわけだ。
平民が日々直接接する部分が腐っているというのは、平民達にとってはいい迷惑だろうねぇ……。
まぁ、それがあって、神殿に属さない野良の巫女が結構歓迎されるんだよね。
僅かな食料の寄進くらいで、ただ同然でお祈りをしてもらえるから。
だから私も、野良巫女の評判を落とさないように気を付けなくちゃね。
『なんちゃって野良巫女』である私が、本職の皆さんに迷惑を掛けるわけにはいかないからねぇ……。
「いえ、それは御領主様が気にされることでは……。
神殿の連中は大体そうですし、そのために、神殿に見切りを付けて、貧しい者達のために独自に活動する、私達『野良巫女』がいるのですから」
「うむ……」
領主様はあまり納得していないようだけど、それはつまり、神殿側の現状を快く思っていないということであり、……この領主様が神殿側と繋がって金儲けを、とか考える人じゃなくて、平民のことを考えるいい人、ってことだ。
やはり、ハンターのみんなが言っていた通り、この領地は 当たり(・・・) なのだろう。
そして、領主様はお酒、私と奥様、子供達は紅茶や果実水を飲み、お菓子をつまみながら御歓談。
……いや、わざわざ呼んでおいて、普通の世間話だけ?
と思っていたら、話題や質問が、私の個人情報に寄ってきたぞ?
しかも、何だか私の家名とかの、身元調査みたいな質問が……。
それに、お子さん達と仲良くさせようという魂胆が見え見えの誘導が。
お子さん達、下は5~6歳くらいから上は12~13歳くらいまでの、男の子ふたりと、女の子がひとりだよ。
いや、まぁ、私もここの人達からは12~13歳くらいに見えるから、上の子は同年代だと思われているのだろうけど……。
オマケに、私も貴族だと思っているだろうからねぇ。
でも、いくら同年代の貴族だといっても、邸から殆ど出ずに育った坊ちゃん嬢ちゃんと、ひとりで旅する野宿も平気な野良巫女じゃあ、常識のレベルが違いすぎて、会話にならないと思わないのかなぁ……。
とか思っていたら、私の話への、子供達の食い付きがいい。
……些か、良すぎる。
いや、これは領主様の仕込みじゃなくて、本当に興味津々みたいなんだよねえ、子供達……。
まあ、無理もないか。
上の子と同じくらいの年齢で、どうやら自分達と同じ、貴族らしき少女。
それが、ひとり旅とか野宿とか、魔物に追いかけられて逃げ回ったとか(創作)、宝石の買い取りで騙そうとした商人を懲らしめたとか(脚色)の話をされて、食い付かないわけがないか。
……そして始めのうちは子供達と一緒に驚きの顔をして聞いていた領主さんが、段々困ったような顔をし始めた。
うん、私の話が子供達に受けて、私が喋りっ放し。これじゃあ、領主様が私から色々な情報を聞き出すことができないからね。
いや、私の冒険譚を聞くだけでも、色々と情報は得られるだろう。
……偽情報だけどね。
そして更にしばらく経つと、領主様が焦りだした。
そして、何だか必死に、私に合図を送ってくる。
……何だ?
あ!
子供達の眼が、ヤバい!
これ、『父上、私達も冒険の旅に出たいです!』って言い出すヤツだ!
そして勿論、そんなの両親に許されるはずがなく、……兄弟揃って冒険の旅に出るため家出する、ってパターン。
そんなの、初日で死ぬか誘拐されちゃうよ……。
あれ、『やめてくれ!』って合図だったのか……。
マズい、話を盛り過ぎた……。