軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303 迎 撃 6

そういうわけで、商業ギルドで見せた3個のやや小粒の宝石については、簡単に話がついた。

……しかし、それだけで終わらせるのは、ちょっと勿体ないかな。

この商人さん……、いやいや、オーリス商会のダルセンさんは、そこそこの規模の商会主だし、信用できそうな人だ。

そして何より、女神セレスティーヌを信仰する敬虔な信徒らしく、巫女である 私(エディス) を騙したり裏切ったりすることは絶対になさそうなのだ。

なので、私を狙っているあの連中からの防壁としての、恰好の協力者になり得る人材だ。

しかも、私の現状については既に知っているし、私を護るために商売的な損失を覚悟で街に引き返すという行動を示してくれている。

ならば、更に『私との繋がりがあれば、損をしない』ということを示せば、積極的に味方をしてくれるだろう。

それに、私達が王都へ進出する時にも、色々と役に立ってくれるかもしれない。

商人の味方は、多いに越したことはない。

なので……。

「あの~、こういう物は売れるでしょうか?」

そう言って、私がポシェットから取り出し、手の平に載せてダルセンさんに差し出したのは……。

「え? こ、これは……」

稀少なピンクダイヤモンドの中でも特に強く赤味が出て、色味が鮮やかで透明度の高い、自然でクリアな赤色をしたダイヤモンド……、そう、レッドダイヤモンドである。

ダイヤモンド1万個の中にひとつあるかどうかというカラーダイヤモンド。そのカラーダイヤモンド1万個にひとつと言われている、レッドダイヤモンド。

まだ地球でもレッドダイヤモンドができる理由が分かっておらず、……したがって人造で作ることができない、超高額の品だ。

地球には数十個しかないと言われており、一般市場に出回ることなど、まずない。

しかし、ひとつ、心配なことがある。

あれだけ世界中の鉱山で採掘されまくっている地球で、数十個なのだ。それも、9割近くは同じ鉱山で採掘されたという。

碌な調査もされておらず、採掘技術も稚拙なこの世界で、果たしていくつのレッドダイヤモンドが発見されているのか。

また、こんな世界では、遠い国で発見されたものの情報なんか、伝わってこないかも。

その場合、レッドダイヤモンドのことが全く知られておらず、ダイヤモンドだと認めてもらえないという可能性があるんだよねぇ。

ダイヤモンドも、地球では研磨技術が発見されるまではルビーやエメラルドの8分の1以下の価値しかなかったし、プラチナも、融点が高くて当時の技術ではなかなか融かすことができなかったために偽銀、クズ銀とか呼ばれて、ゴミとして捨てられていたらしいし……。

そう。いくら地球では価値が高くても、ここでその価値が認められていなければ、何の意味もない。子供のオモチャであるガラス玉と同じだ。

「こ、こここ、こっ、こっ、こここっ……」

ありゃ、ダルセンさんが、鶏に……。

「こっ、こっ、これはっ、……かっ、 紅玉(カーバンクル) ダイヤ!!」

ありゃ、この辺りでも知られていたか。

そして、ここではそういう名称なのか……。

まぁ、地球では『紅玉』はルビーを指すことが多いけれど、 ザクロ石(ガーネット) や、単に赤い宝石全般を指すこともあるから、こういう呼ばれ方をしても不思議じゃないか……。

というか、『レッドダイヤ』よりカッコいいじゃん、『カーバンクルダイヤ』の方が!

……で、問題は、金銭的価値なんだけど……、まぁ、ダルセンさんのこの様子から考えて、安くはないな、絶対に。価値さえあれば、希少性ではダントツだもん……。

でも、これは『ポーションの容器の、飾りの部分』に嵌まってたやつだ。

だから、創ろうと思えば、いくらでも創れるんだけどね。

……しかし、何だかダルセンさんの様子がおかしすぎるなぁ。

これは、アレ、『私、また何かやっちゃいましたか?』ってやつかな?

でも、自分で出しておいて何だけど、こりゃちょっとマズそうだなぁ。

世の中、『越えちゃいけない 線(ライン) 』というものがある。

そしてどうやら、この『 紅玉(カーバンクル) ダイヤ』は、それを軽々と越えてしまっているみたいだ。

……これは、やめておこう。

そう思って、手の平の上の 紅玉(カーバンクル) ダイヤをポシェットの中へ戻すと……。

「あああああああああっっ!!」

ダルセンさんが、悲痛な悲鳴を上げた。

「これは、やめときます」

「そ、そそそ、そんなあぁ!!」

いや、そんな、絶望と縋るような目が交じった顔をされても……。

……って、泣いてる? 泣いてるのか、ダルセンさん?

まぁ、仕方ないか……。

ゴメン。

「じゃ、じゃあ、こういうのは……」

このままでは、ダルセンさんの愁嘆場が、いつまで経っても終わりそうにない。

なので、ダルセンさんを正気に戻すべく、ポシェットから別の商品を取り出した。

商人なんだ、商談となれば、正気を取り戻すだろう。

そして、その商品をゴトリとテーブルの上へ置いた。

すると……。

「こ、これは……」

ほら、一瞬で商人の顔付きに戻った。

「ガラスの置物です」

「…………」

そう、確かに『ガラスの置物』だけど、勿論、普通のやつじゃない。

昔、バルモア王国のマイヤール工房でお手伝いさんとして働いていた時に、図書館通い(有料。平民の小娘にとっては、かなり高かった)のための資金源にするために売っていた、あの、クリスタルガラス製のやつである。

非結晶体であるガラスのくせに結晶体である 水晶(クリスタル) の名を名乗るという暴挙をしでかしているという、アレだ。ガラス原料に酸化鉛等を加えた、普通のガラスとは比較にならない透明度と輝きを有するやつ。まだ、このあたりでは考案されていないか、普及に至っていないもの。

「…………」

あれ?

ダルセンさんが、黙り込んでいる。

いや、それはまあいい。驚いたり、商人として頭の中で買い値やら利益率やらを高速計算しているなら、黙り込んでいるのも別に不思議じゃない。

でも、その視線が私やガラスの置物ではなく、私の腰のあたりにあるポシェットに向いているのは、如何なものか。

先程、 紅玉(カーバンクル) ダイヤを取り出し、そして再び入れた ように見えた(・・・・・・) 、ポシェット。

そして今、 明らかにそれに入る(・・・・・・・・・) はずのない大きさの(・・・・・・・・・) ガラスの置物が出てきた、ポシェット。

「あ…………」

やらかした。

ここは、あの台詞で誤魔化すしかない!

「あの~、私、また何かやっちゃいましたか?」