作品タイトル不明
301 迎 撃 4
会議室で、いきなり放たれた商人さんの攻撃に狼狽えるギルドマスターに、私から改めて状況を説明した。
会議室にいるメンバーは、私、『灼熱の戦乙女』、商人さん、商業ギルドのギルマスと副ギルマス、鑑定士、そして受付嬢。
受付嬢が、ギルマス達を連れてくる時に簡単な説明をしてくれたみたいだけど、勿論、それはごく一部のことだけだ。受付嬢には宝石の本当の価値は分からないし、私がその代金を何に使うつもりなのかも知らないのだから。
状況だけから見れば、私がクズ宝石を高値で売るためにクレームを付けている、という見方もできるのだから、変な憶測で説明するわけにもいかなかっただろうし、その時間もなかっただろう。
「……そういうわけで、相場の1割の価格で買い叩かれるのは嫌だから、ここで売るのはやめました。当たり前ですよね。
まぁ、商売人は安く買い入れて高く売る、というのが仕事なので、別に文句を言うつもりはありませんよ。ただ、それを商業ギルドがやるというのは、ちょっとねぇ……。
なので、他の町で売る時に、『あの町の商業ギルドは、そういうやり方をしています。皆さん、注意してくださいね』と忠告したりはしますけどね」
「なっ! ……おい、これはいったいどういうことだ、ディール!」
ギルドマスターに睨み付けられ狼狽える、ディールという名前らしい鑑定士。
「い、いや、それは……。私は、そんなつもりでは……」
「確かに、鑑定した後、『金貨9枚と小金貨6枚』と言われました。もしそれが異常な安値だったとすれば、それはディールさんがこの方を騙そうとしたか、宝石をきちんと鑑定する能力がないかの、どちらかです。
……そしてディールさんがその利益をギルドにもたらすお積もりだったのか、それともその代金を自分が払い、宝石を自分のものにするお積もりだったのかは、定かではありませんが……」
おお、受付嬢さん、 鑑定士(身内) を 庇(かば) うのではなく、バッサリと斬り捨てた!
「な、何を……。いや、違う、違います! そのようなことは決して!!」
「なら、どういうことだ? きちんと説明してもらおう。
商業ギルドは、一般の商店ではない。加盟店や客を騙して利益を上げるのではなく、各商店や客の間を取り持つ、公共的な役割を持つ組織なのだぞ。買い取りや販売もするが、それはあくまでも皆の利便性を考えてのサービスであり、大儲けをするためのものではない。
商業ギルドの運営費の中心は、加盟店からの会費だ。それくらい、新人教育の初日に教えられただろうが!
もし故意に常識外れの安値で買い叩こうとしたならば、ギルドの職員規定違反だ。しかも、孤児救済のための浄財を 掠(かす) め取ろうなどと……。
商業ギルドの名と信用を 貶(おとし) め、女神に 仇成(あだな) す行為。軽い処分で済むとは思うなよ……。
……で、どっちなのだ、故意なのか、鑑定ミスなのか?」
「も、勿論、鑑定ミスです! あの宝石3個の価値は、金貨92枚が適正価格で……」
あ~、やっちゃった……。
それは、明らかに罠だって……。見え見えじゃん……。
ほら、ギルドマスターが商人さんの方をチラリと見たよ。
「おや? どうして再鑑定もせずに、そのような正確な査定を?
ディールさんは、その宝石を鑑定して、金貨9枚と小金貨6枚という査定額を出されたのですよね? 再度現物を確認することなく、どうやってその額を出されたのですかな? 鑑定した時に得た情報だけを元にして?」
「うっ……」
ほらぁ、商人さんに突っ込まれたよ。ギルドマスターの視線指示で……。
「ちなみに、私の鑑定では金貨93枚前後ですな。今のディールさんの査定額は、ギルドの買い取り価格は一般商店よりやや下がることを考慮すると、ほぼ正確と言えますな……」
「「…………」」
商人さんの駄目押しの言葉に、黙り込む鑑定士とギルドマスター。
そして……。
「どうなのだ、ディール?」
「はっ、はい! 鑑定ミスです!!」
「そうか……。証拠もないのに、故意に低い価格に査定した、と罪に問うわけには行かんな……。
では、ディール自身の主張を信じるしかないか……」
ギルドマスターの言葉に、ほっとした様子の鑑定士。
あ~、終わったな、この鑑定士……。
「では、ディールは解雇だな」
「えええええっ!」
ほらぁ……。
「ど、どうして……」
ただのミスだと言い張って、それが認められたので罪を免れたと思っていたのに、解雇の宣告。
驚くのも無理はないけれど、今、この部屋でギルドマスターの言葉に驚いているのは、鑑定士だけなんだよね。
「いや、どうしても何も、鑑定が本職ではない商人がひと目で分かる簡単な宝石鑑定をミスる専門の鑑定士なんか、信用が何より大切な商業ギルドで雇っておけるわけがないだろうが……。
個人的な小遣い稼ぎではなく、ギルドの収入を少しでも多くしようとして魔が差したというならば、それなりの処罰で済ませるという方法もあったのだが……。
鑑定士としての能力が著しく劣っていて、その鑑定結果が全く当てにならないというならば、雇っていられるわけがないだろう」
「あ……」
うん、ギルドマスターは、勿論全部分かっていてやっている。
鑑定士が嘘を吐いていることを承知で、『嘘を吐かず、正直に話していればクビにならなかったのにね。ざ~んね~ん!』って言って、苛めているだけだ。
勿論、『ギルドの利益のために』なんて言っても、その時には別の理由で解雇を宣告したはずだ。
コイツが自分のポケットに入れるために誤魔化そうとしたことなんて、みんなが知っている。
どういう答えを返そうが、商業ギルドの誇りを汚し、その信用を地に落とした者にはバッドエンド以外のルートはない、ということだ。
ただ、本人に、これから先ずっと『助かる方法があったのに、選択を誤って台無しにした』という後悔を続けさせるためにやっただけの、小芝居だ。
……性格、悪っ!
でも、まあ、商店ではなくギルドの職員として働いているとはいえ、ここは 商業(・・) ギルドだ。なので、ここでは商人の価値観、商人の倫理感が適用されるのだろう。
そしてまともな商売人にとって、信用はお金より大事なものだ。それを、自分自身だけであればともかく、この商業ギルド支部全体の、いや、全国の商業ギルド全ての信用を落とした者に対して、甘い顔をするギルド職員はいないだろう。……勿論、各支部のギルドマスターも……。
できる限り叩きのめし、他の職員への見せしめにする。
……当然のことだ。
「鑑定士、ディール。ただ今をもって、解雇とする。このまま、真っ直ぐにギルドの建物から退去しろ。もう、職員専用区画に立ち入ることは許さん。
仕事机やロッカーにある私物は、後で自宅へ届けさせる。もう、お前には机もロッカーも触れさせない。
……さぁ、行け!
あ、勿論、お前が 我がギルド支部から(・・・・・・・・・) 何かを借りている(・・・・・・・・) ということが判明した場合には、 すぐに返してもらう(・・・・・・・・・) ことになる(・・・・・) から、その用意をしておくようにな」
「…………」
まぁ、あの手慣れた様子だと、初犯じゃないよね~。
世間知らずの者や、商業ギルドに睨まれるのを恐れる者とかから思い切り買い叩いていたんだろうね、今までに、何度も。
現物はとっくに売り払っているだろうし、そんなのの証拠を職場に残したりはしていないだろうけど、まぁ、絶対にバレないと過信してポカをやらかしていたり、暗号で金額をメモしていたりするかもしれない。確率がゼロでないなら、そりゃ調べるよね、駄目元で……。
そして、鑑定士は肩を落として会議室から出て行った。
おかしなことをしないようにと、副ギルマスが付き添って……。
と、まぁ、これにて一件落着、だ。
「では、私達は、これで……」
「あ、いや、待ってください!」
ありゃ、私に対して、敬語だよ、ギルドマスター。
あ、でも、私は別にギルド関係者というわけじゃないから、お店側の人が客に対して話し掛けるなら、それで別におかしくはないのか……。
「大変失礼致しました! お詫びに、お売りになる宝石を他の者に鑑定させまして、その査定額の3パーセント増しで購入させていただきます」
「え……」
どうしようかな……。
さっきの商人さんの査定額と、あの鑑定士の訂正査定額を聞いているから、ここでそれから大きく外れた額を提示されるとは思えない。
そして、金額が大きいから、3パーセントと言っても馬鹿にならない。
なので、ここは……。
「いえ、結構です」
「え……」
「そして、商人さん。この宝石3つ、金貨90枚でお買いになりませんか?」
「「えええええええっ!!」」
ギルドマスターが提示した、お詫びの割増し価格どころか、一般商店が購入するであろう額、先程商人が鑑定し提示した金額より、更に低い金額での買い取りを打診するなど、商人にとっては理解できない行為だろう。しかし……。
「商人さんには、助けてもらいましたからね。信用できない組織に売るより、商人さんに買っていただいて利益を出してもらった方が、そのお金が世の中のために使われそうな気がしますので……」
そう。お金を渡すなら、悪党にではなく善人に渡した方が人々の役に立つだろう。
それが直接渡すのではなく、『商売における利益』という形であっても……。