作品タイトル不明
299 迎 撃 2
『灼熱の戦乙女』が自分達のことを教えてくれた後、私の状況を説明した。
勿論、 対外用の説明(・・・・・・) を……。
それを正確に説明しておかなければ、護衛者がリスクの見積もりを誤って、判断をミスる確率が跳ね上がるからである。また、依頼の危険度を正確に伝えずに契約するのは、悪質な違反行為である。
そして私が、私財で慈善活動をしている、神殿勢力には所属していない、何の後ろ盾もない 流しの野良巫女(・・・・・・・) であること。
なぜか女神の祝福らしきものがあり、必死に祈ると、二流の医師か薬師に診てもらったくらいの、ショボい治癒効果があること。
そして、その『女神の祝福』という名を利用しようとしているらしき連中に襲われ、この町に所属するハンターと商人に偶然助けられたこと等を説明すると……。
「そのお話なら、私達も耳にしましたわよ。そのハンター達が、聖女様をお救いしたと、得意満面で話していましたからね。
……しかし、『流しの野良巫女』って……」
リーダーのイシュリスさんに呆れられたけれど、自分で巫女とか聖女とか名乗るのは恥ずかしいんだよ!
だから、そんなに卑下した感じではなく、冗談半分でそう名乗っているんだ。語呂もいいし……。
カッコいいじゃん、『野良巫女ロック』とか……。
しかし、この説明を聞いて受注をやめても構わない、と言った私に対して、『灼熱の戦乙女』のメンバー全員がそれを一笑に付した。
襲われる確率が高いからといって護衛依頼を受注しないなら、護衛という職が存在する意味がない、と言って。
そして、理由もなく報酬が良すぎるのは怪しくて不安だけど、そういう理由があるなら、納得して、安心して護衛できるから良かった、と……。
おまけに、聖女様をお護りできるとは何たる栄誉、と言われたが、それはあくまでも冗談半分のようであった。
おそらく、『女神の祝福』とかいうのを信じてはいないのだろう。
私が嘘を吐いている、とかではなく、宗教的な思い込みやプラシーボ効果とかの 類(たぐ) いだとでも思っているのかな……。
その証拠に、ならば無料でお護りいたします、などという言葉はひと言も出ず、依頼中の食費やら、依頼内容の想定を越えた活躍をした場合の報奨金やら、護衛中に倒した魔物の売却権利、倒した賊の装備や巾着袋の中身の権利やら、捕らえて犯罪奴隷にした場合の売却金の分け前やらと、やけに細かく交渉された。
おそらく、女性ばかりだと 侮(あなど) られて、色々と苦労したのであろう……。
そう思い、ほぼ向こうの言い分通りにしてあげた。
私としては、今回は儲けとかは全く考えておらず、守秘義務さえ確実に守ってもらえれば、それで良かったんだ。
『灼熱の戦乙女』は、その点に関しては信用できそうなパーティであった。
そして、あの兵士4人組、今度ちょっかいを出してきたら、見逃してはもらえそうにない。
何しろ、官憲に引き渡せば、このハンター達に大金をもたらすのだ。
……逃がすわけがない。
* * * * * *
そして『灼熱の戦乙女』と契約することが決定し、更に細かい契約内容を詰めた後、受付嬢に報告。正式な文書を交わし、ギルドに依頼料を預託した。
これで、仕事が終われば、私が依頼終了の書類にサインし、『灼熱の戦乙女』はギルドで依頼料を受け取れる。
私が支払いをせず踏み倒すことも、『灼熱の戦乙女』が仕事をせずにお金を持ち逃げすることもできないというわけだ。
そしてギルドは、キッチリと2割の手数料を取る。
……まぁ、当たり前だよねぇ。ギルドも、慈善事業じゃないんだから……。
そして、この2割はただの手数料ではなく、ハンターへの支援や、互助会的な目的にも使われる。
ハンターは、個人としてはお金も身分も権力も後ろ盾もない無力な人間だから、ギルドが色々と支援し助けてくれるなら2割の手数料は惜しくはないのだろう。
……いや、実際には、みんな不満たらたらで文句を言っているらしいけれど……。
そして、その後……。
「じゃあ、このままみんなで商業ギルドへ行きます。それが終われば、宿へ。
契約通り、宿代は私持ちです」
護衛が別の宿じゃ、意味がない。
「「「「「はいっ!」」」」」
うん、いい返事だ。
どうやら、私は いい雇い主(・・・・・) らしい。
まぁ、こういう部分に使うお金はケチらないからね。
世の中、予算を削ってもいいところと、駄目なところがある。
そしてここは、絶対に削っちゃ駄目なところだ。
* *
「すみません、買い取りをお願いしたいのですが……」
……目立っている。
商業ギルドの受付窓口でそう尋ねた私は、すごく目立っていた。
いや、別に私がすごく可愛いから、とかいうわけじゃない。
12~13歳くらいに見える巫女服の少女が、女性ばかりのハンターパーティを引き連れて商業ギルドのカウンターに来れば、そりゃまぁ、目立つだろう。
……それはいい。別に構わない。
だって、今日はもっと目立つために来たのだから。
「あ、はい、どのようなお品でしょうか?」
うん、巫女服の小娘とはいえ、清潔そうな身なりをしていて、5人もの護衛を引き連れているんだ、邪険に扱われるはずがない。貴族や金持ちの娘が巫女になることも、ないわけじゃないからね。
……但し、その場合は野良巫女ではなく、神殿付きになるだろうけど……。
そして私は大勢の護衛を引き連れており、ポシェットを身に着けているだけで、手には何も持っていない。
護衛のハンター達も、ハンターとしての装備品以外は何も持っていない。
ということは、売り物はポシェットに入るサイズで、……おそらくは高価な物。
……なので、受付嬢は小さな声で私にそう尋ねた。
うん、子供が高価なものや大金を持っているということを大声で喋る受付嬢はいないよね。
商業ギルドには、ハンターギルドのように粗暴な連中がたむろしているわけじゃないけれど、 もっとタチが悪い連中(・・・・・・・・・・) がいるのだから。
……頭が回る、金の亡者達がね。
ハンターギルドにいる悪党は、 私が今持っているもの(・・・・・・・・・・) を奪おうとする。
でも、 商業ギルド(ここ) にいる悪党は、私が持っている金目のものの出所を押さえ、その流通ルートを奪おうとする。合法、非合法、いずれかの手段で。
……まあ、その後者を防ぐための護衛なんだけどね。
そういうわけでの受付嬢の配慮なのだろうけど……。
「宝石をいくつか、売ろうと思いまして!」
大声でそう答え、受付嬢のせっかくの配慮を台無しにした。
いや、だって、手っ取り早く私の名を売って、ここの連中に『絶対に守らなければならない、大事な金蔓』だと思ってもらわなきゃならないから……。
私が大きな声で答えるとは思ってもいなかったらしい受付嬢は、予想外のことに、あわあわとして……。
ガツッ!
「ぎゃっ!」
ハンターギルド(どこか) で見たような光景が繰り返された。
どうやら、先輩が後輩を指導するこのやり方は、このあたりでは普通のことらしい。
下っ端は、辛いねぇ……。