作品タイトル不明
298 迎 撃 1
ハンターギルドの面談室では、最初のうちは受付嬢が立ち会ったが、カオルがこのパーティが良さそうだから詳細の打合せに入りたい、と言った時点で、受付嬢は席を外した。
依頼人にも受注者にも、あまり広めたくはない秘密というものがある。
なので、依頼に関する踏み込んだ内容の説明や、ハンター側がそれを遂行する能力があることを依頼者に説明するところには、ギルド職員は立ち会わない。
そして……。
「……では、よろしくお願いいたします」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
仕切り直しの挨拶をして、互いに詳細のすり合わせに入った。
まだ、『好感触』というだけであり、契約が成立したわけではない。これから契約内容の詳細を説明し、条件が折り合わなかった場合は、この話はなかったことになる。
彼女達は真面目で礼儀正しく、誠意のあるパーティであったが、それだけでどんな依頼でも受けられるというわけではない。
……受注申し入れの時は少しルール違反っぽかったが、あれは美味しそうな依頼を絶対に逃がしたくなかったため 焦(あせ) っていたのであろう。
他に受注できるパーティがその場にいなかったのは、幸いであった。
もし他にもいたら、揉め事になった可能性はかなり高かった。
カオルがこのパーティを気に入ったのは、他には受注条件に合致するパーティは少ないだろうと受付嬢に言われたことと、このパーティは全員が女性だったからというのが大きかった。
男性がいなければ、色々と気を使わなくて済むから、楽ちんである。
それに、女性ばかりでやっているということは、この連中は『姫プレイ』に頼るようなことのない、ガチ勢、実力主義の連中だと判断したからである。
カオルは、姫プレイやらパーティ内でのドロドロの男女関係やらに付き合うつもりはなかった。
* *
うん、これは『当たり』かもしれないな。
ハンター達は、見た通り、女性ばかりの5人パーティだ。
女性はどうしても男性に較べると筋力が劣るため、3~4人の最少人数ではなく、やや多めの5人にしたらしい。
誰かが 引退す(抜け) る時や、怪我やその他の一時的な休業の時には臨時のメンバーを入れたり、そして新人を養成する期間には6人パーティになったりするらしい。
現在のメンバー構成は……。
リーダーのイシュリスさん、32歳。剣士で、 歩兵剣(ショートソード) を使う。
何と家族持ちであり、夫と、12歳と15歳の子供がいるそうな……。
夫は、ハンターではなく料理人として働いているから、もしイシュリスさんに何かあっても子供達のことは心配ない、とか……。
いいのか、それで!
……そして、どこでそんな理解ある旦那さんを捕まえたんだよ!
アレか?
俺が作った料理を 美味(うま) そうにバクバク食うお前の姿に惚れた、とかいうヤツかよ!
クソっ!
パーティリーダーではあるけれど、それはパーティの活動方針を決めるとか、普段の時のことであり、戦闘時の指揮は別の人が 執(と) るらしい。
まあ、一番前で戦う前衛職の剣士に、戦闘中の全体指揮は無理だよねぇ……。
剣士のエミスさん、25歳。大型剣であるクレイモアを使うらしい。
クレイモアは、片手で扱えるものもあるけれど、大半は両手で使うらしい。エミスさんは女性なので、常に両手で使うそうな。
軽戦士のシェルナさん、21歳。二刀流で、利き腕である右手にやや軽そうなレイピア、左手に 受け流し(パリーイング) 用の 短剣(ダガー) の一種である、マンゴーシュのような武器を持つらしい。
マンゴーシュのようなやつは、勿論武器としても使用するけれど、相手の攻撃を受け止めたり、受け流したりという、防具として使うことが多いそうだ。
対人戦でも、魔物相手でもOKらしいけれど、 幅広の剣(ブロードソード) とかが相手だと受けるのは難しいし、こちらの武器が破壊される危険があるそうな……。
……剣士と戦士の違いが、今ひとつ分からないんだよなぁ……。
主武器がレイピアなら、剣士じゃないのか? 剣の一種だよね、レイピアって……。
剣だけを使うのが剣士、色々な武器を使うのが戦士だっけ?
ならば、レイピア以外の武器も使うのかな? 器用だなぁ……。
……あ、マンゴーシュみたいなのを使うから、『お前は純粋な剣士ではない!』とかいって、剣士業界からハブられているとか? 世知辛いねぇ……。
槍士のネイリーさん、17歳。他のメンバーに較べ、少し若いなぁ。養成枠かな?
弓士のチェシアさん、28歳。戦闘時の指揮官。弓士兼短剣使いで、斥候役もこなすらしい。
そして、戦闘時の槍士の護衛役……急に接近されて槍では防ぎづらい間合いに入られた時に、短剣で護る……とかも務めるらしい。
確かに、後衛であり遠距離武器も担当するとなれば、戦いの全体を把握して指示を出すには最適の配置かもしれない。
……でも、ひと言、言わせてもらいたい……。
「チェシアさんの負担、大き過ぎ!!」
「「「「…………」」」」
思わず口にしてしまった私の言葉に、チェシアさん以外の4人が 俯(うつむ) き、そしてチェシアさんは、うんうんと頷いている。
……みんな、気付いてはいたのか……。
まぁ、私が口出しするようなことじゃないか。
各 職種(ジョブ) は、バランスが取れていて、いい感じだ。
そして、パーティ全体の強さ的には、私の要望を充分に満たしているらしい。
……つまり、普通の兵士4~5人に勝てるくらいの実力があるということだ。
それについては、『少なくとも、魔物相手の戦いにおいては、充分にそれに相当する実力がある』と、受付嬢が太鼓判を押してくれた。
ただ、実際に対人戦においてそれだけの敵と自分達だけで戦ったことはないらしいのだけど、そりゃ、そんなに誰にでもそういう機会があるわけじゃない。
他のパーティとの合同受注で商隊の護衛を務め、盗賊を殺したことはあるらしいから、その場になって『くっ、私には人は殺せない……』なんてことはないそうだから、安心だ。
「割と年齢層がバラけているんですね……」
「ええ。年齢が近いところに固まっていると、皆が同時期に休職したり引退したりしてしまって、戦力が一挙に低下してしまい、パーティが存続できなくなるでしょう? 年齢が散っていれば、順番に抜けていきますから、その分だけ補充すればパーティが分解したり一度に戦力が低下したりしませんからね」
「あ、なるほど……」
「……で、イシュリスさん、貴族出身か何か……、あ、ごめんなさい!」
ハンターにとって、過去の詮索は 御法度(ごはっと) だったはず。しかも、貴族かどうか聞くなんて、どうかしてた!
もしそうなら、何か事情があるに決まってるじゃん! 馬鹿か、私!!
怒らせちゃったかな……。
「あ、いえ、そういうわけではありませんことよ。
……というか、これ、演技と申しますか、『役作り』なのですよ……」
「えええ!」
「いえ、女ばかりですと、どうしても舐められますわよね? なので、良いところのお嬢様のような振りをして、『同じハンターですから仲間付き合いをして差し上げておりますけど、本当は平民など虫ケラのように思っておりますわ。なので、無礼な真似をすれば、割と簡単に無礼討ちにしますわよ?』とか、『あまり調子にお乗り遊ばしますと、隠れ護衛の者達が闇討ちいたしますわよ?』とかいう雰囲気を 醸し出している(・・・・・・・) というわけですわ。
あ、自分達で『高貴な生まれだ』などとはひと言も口にしてはいませんわよ、勿論……。
私はこういう喋り方が癖だというだけで、出身については何も言っておりませんからね。
勿論、このことは契約における守秘義務の対象として、口外禁止ですわよ。
普通は依頼者にも余計なことは教えないのですが、あなたは約束を破りそうには見えませんし、10日間も一緒にいるのに、ずっと勘違いして緊張しているのはお辛いでしょうから……。
私達は全員、庶民も庶民、ド平民ですわよ、オホホホホ……」
「えええええええ!!」
誠実そうに見えた『灼熱の戦乙女』であるが、結構したたかだった……。