作品タイトル不明
296 町 2
夕方になり、迎えの馬車で領主邸へとやってきた。
家令か執事か、何かそんな感じのお爺さんに案内されて、領主様とご対面。
夕食(ディナー) に招かれたのだろうけど、いきなり食堂ではなく、応接室のようなところへ通された。
勿論、そこで待ち受けているのは、領主様と上級使用人らしい者。
明らかに戦闘員らしからぬ小娘ひとりに、護衛は必要ないよね。
多分、領主様自身も、かなりの年配である使用人も、ある程度の武術の心得はあるだろうし、壁とか床下とか天井裏とか、あるいは食器棚とかに護衛が潜んでいるのかもしれないけどね。
隠し武器とかも用意されているに決まってるし。
「この度は、御招待いただき、ありがとうございます」
「……あ、ああ……」
よし、驚いてる驚いてる!
そりゃ、みすぼらしい恰好をした平民の野良巫女が来ると思っていたら、デザインはシンプルだけどメッチャ 高価(たか) そうな布地を使った、洗練された巫女服を着た御令嬢がやって来たのだから、驚きもするか。
この巫女服、ドレス姿の貴族の御令嬢と並んでも見劣りしないんだよねぇ……。
上品で光沢のあるこの布地、この世界ではどれくらいの価値があるのやら……。
勿論、いつも着ているやつじゃない。
こんなのを着てボランティア活動をする野良巫女がいたら、みんなも対応に困るだろう。
汚したら大変そうだし……。
あ、これは ポーション容器(・・・・・・・) ではなく、恭ちゃんの母艦の自動工場製だ。
デザインは、恭ちゃんとレイコが担当した。
……私には、そっち方面の才能がゼロだからねぇ……。
だから、ポーション容器として出すのは断念したのだ。
科学的なものを出すなら、私があまり詳しく知らないものでも 容器担当(なぞのシステム) がちゃんと作ってくれる。私が望む機能を持つようにして。
でも、服のデザインとかは、 私が考えた通りのもの(・・・・・・・・・・) ができてしまうのだ。形が崩れていようが、柄がおかしかろうが……。
どうも、デザイン性を重視するものは、歪んでいても、それが 私が望んだ芸術性(・・・・・・・・) だと判断されるらしい……。
どんな基準なんだよ、クソッ!!
……なので、私がポーション容器として出せる まともな服(・・・・・) は、無地のシャツとかジーンズとかの、シンプル、かつ私が完全に記憶している馴染み深いものだけだ。ポケットに小さなポーション容器をくっつけてね。
とても、込み入ったデザインのものなんか作れやしないよ。
いや、作ること自体は可能なんだけど、全部、左右非対称だったり、袖の長さが違ったり、全体的にちぐはぐになったりして、道化師が着るようなのになっちゃうんだ。 私がそういうものを(・・・・・・・・・) 望んでいる(・・・・・) と判断されて……。
恭ちゃんの母艦も、未来的なデザインの服のデータはたくさんあったけれど、こういう世界用のものはなかった。
……当たり前か。
なので、恭ちゃんとレイコがデザインしてくれたわけだ。それをコンピュータに指示して、自動工作機械で作製。
素材は、科学的か化学的か、何かそんなので合成されたヤツ。見た目や手触りとかはシルクを 凌駕(りょうが) し、丈夫で汚れが付きにくい。通気性も抜群。不燃性で、防刃効果あり。
アクセサリーも、宗教的に見えるものをいくつか作って、身に着けている。勿論、あまり華美ではなくシンプルで控え目なデザインだけど、売れば凄い高値が付くやつだ。
あ、この特製巫女服や普段着ているやつだけではなく、ごく普通の巫女服、安物の巫女服、ボロボロの巫女服、孤児を拾った時用の子供サイズの巫女服、戦闘用の巫女服、その他諸々、アイテムボックスの中に各種取り揃えてある。状況に合わせて、臨機応変に使えるように。
……準備は万全だ!
今回、私には選択肢がふたつあった。
ひとつは、如何にも『平民の野良巫女が、苦労していますよ』、という感じの、安物の薄汚れた巫女服を纏った姿での訪問。
そしてもうひとつが、この、明らかに平民ではあり得ない、高貴な身分っぽい姿での訪問だ。
これで、この領主は私に対して高圧的な態度に出たり、ゴリ押ししたりはできないはずだ。
私の身分とか、実家とか、 後ろ盾(バック) とかがはっきりしないうちは……。
「あ、失礼した! ようこそお越しくださった、どうぞお掛けください」
うん、私の身分が分からないから、どういう態度や言葉遣いにすればいいか分からなくなって、混乱しているな……。
多分、予定では、真偽不明だけど 巷(ちまた) で聖女だと言われている平民の野良巫女……神殿に属しておらず、公的な身分のない自称のみの巫女。勿論、正式名称ではなく蔑称なので、面と向かって本人をそう呼ぶ者はいない……を上から目線で『何者かに狙われているそうだから、保護してやろう。その代わり、女神のお力とかいうものを見せてみろ』とか言って、もし本物の聖女だった場合には囲い込んで、とかいうつもりだったのだろうな……。
でも、相手が金持ちで、身分のある者……もしかすると、自分より高位の貴族の娘……である可能性が出てきた今、どうするか……。
普通だと、平民相手に貴族があまりへりくだった態度を見せるのは良くないだろう。
でも、自称とはいえ一応は聖職者である巫女……地球とは違い、ここでは巫女も聖職者や神職者扱いされる……相手ならば、貴族が敬語や丁寧な言葉遣いをしても、まぁ、多分問題はないのだろう。
でも……。
「…………」
私に座るよう 促(うなが) した後、黙りこくったままの領主様。
うん、どうやら予定していた『平民の野良巫女に対する言葉』が言えなくなって、困ってるみたいだなぁ……。
よし、ここは友好的に……。
「それで、私をお招きいただいた御用件は……」
「う、うむ。巫女殿の感心な活動と、その身を狙う不届きな者共の存在を耳にしてな。
我が領内で、女神にお仕えする神職者に無礼を働くなど、領主として看過するわけには行かぬ。
なので、しばらくこの領主邸に滞在し、不届き者が諦めるのを待ってはどうか?」
うん、余計な詮索は後回しにして、とりあえず私を普通の平民の巫女として、しかし丁重に扱う、という方針にしたのかな?
いきなり真正面から身の上を聞くのもアレだろうからねぇ。
神職に就いた貴族とかは、普通、元の身分を詮索されるのは嫌がるだろうからなぁ。そういう人は、大抵は複雑な事情があるものだし……。
まぁ、妥当な判断だな。
頭が悪いわけではなく、言動もまとも。移動中に商人さんやハンター達に聞いた話では、平民にも無体な真似をするようなことはなく、貴族として、そして領主としては良い方、 当たり(・・・) の部類、とのことだったし。
なので、御招待にもふたつ返事で応じたわけだ。
これで、あの兵士4人組や、彼らを差し向けた黒幕も、街中で堂々と私に手出しすることはできなくなったかな。
……いや、元々、他領の兵士や商人の私兵が堂々と少女を拉致するのは大問題か。
それに、いくら領主様に歓迎していただいたとはいえ、白昼人前で堂々と、というのはマズくても、こっそりとバレないように拉致、ということに対する抑止力にはならないか。
その後、食堂に移動して、夕食会。
領主様側は、領主夫妻とお子様方……5~6歳くらいから12~13歳くらいまでの、男の子ふたりと、女の子ひとり。
勿論、使用人達はいるけれど、それは数には入らない。
食事をしながらの歓談の中で、『女神のお力を見せていただきたい』とか言われたけれど、それには『女神がお助けくださるのは、人々が真に心から願い、それを女神がお聞き届けくださった場合のみ』とか、『女神を試そうなどと、何たる不敬な!』とか言って、女神への謝罪の祈りをさせて、一蹴。
その後も、色々と話が続いたけれど、私に対する詮索は全て『巫女になる前のことは、今の私とは関係ありません』でブロック。私を護るため、という建前での様々なお誘いや御提案も、『安全な場所ではなく、現地で人々を助けるのが、巫女としての私の使命ですので……』でシャットアウト。
夫人や子供達から振られた話題も、華麗に 躱(かわ) す。
いや、私を12~13歳の子供だと思って話し掛けてくる相手をうまくあしらうのは、そう難しいことじゃない。それも、相手が私に関する情報を何も持っておらず、絶対に私を怒らせないように慎重にならなければならない場合には、特に……。
* *
そして美味しそうな料理を食べ尽くして満腹になった後、もし御家族に何かあった場合にはお力になれるかも、という言葉を残して、さっさと引き揚げた。
よし、第一目標、クリア!
次は、ハンターギルドへ行って護衛を雇い、その後、商業ギルドへ行って、お金の工面と味方を増やすか……。
護衛は、兵士4人組とその雇い主の件が収まるまで、……つまり、私はこの町で待ち受けるつもりなので、ここにいる間だけ雇う予定だ。
自重なしならば護衛の必要はないけれど、少し女神とコネがあるだけの、ごく普通の一般人、という振りをするとか、揉め事が起きてから解決するのではなく未然に防止するとかなら、やはり護衛がいた方がいいからね。
商業ギルドの方は、ちょっと纏まったお金を調達する。護衛代とかで色々と物入りだし、少し名前を売って、この町での迎撃における味方を増やすのだ。
商業ギルドは、ここの領主様と 金蔓(わたし) (女神の御寵愛付き)対、他領の貴族かどこかの商店主という対立で、果たしてどちらに付くか。
……ま、考えるまでもないよね……。
それに、今の私はリトルシルバーの経営者であるカオルではなく、謎の野良巫女、エディスだ。
元々お金にはあまり困っていない設定なので、金目のものを換金して大金を手に入れても、問題ない。それによって商人が味方に付く確率を上げられるなら、万々歳だ。
……おかしなのに目を付けられるかもしれないけれど、それも考えての、護衛の雇用なのだ。
よし、問題、ないない!