軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295 町 1

ハンターギルドでみんなと別れ、単独行動。

で、まず最初にするのは、宿を押さえることだよねぇ。

出遅れて、いい宿が取れずに下級ハンター達と雑魚寝、とかになったら、目も当てられない。

ま、ちゃんとみんなに女性が安心して泊まれる宿屋を教えてもらったから、満室になる前に部屋を押さえられれば、問題はない。

女性の安全、ということに関してハンターの常識を無条件で信じるのは怖かったので、ちゃんと商人さんにも確認して裏を取ってあるから、安心だ。

勿論、さすがに清貧であるはずの聖女や野良巫女がお風呂があるような高級宿に泊まるわけにはいかないので、程々の宿だ。

汗や老廃物はアイテムボックスに収納するから、お風呂はなくても大丈夫。

この方法は、レイコに教わった。

どうして、アイテムボックス使用歴が長い私が思い付かなかったのに、新人のレイコが思い付くんだよっ!

……まあ、日本人だから、いくら身体や衣服がそれで綺麗にできても、入れる時にはお風呂に入るんだけどね……。

町に立ち寄るのは、別にこれが初めてというわけじゃない。

野良巫女としての活動は、小さな村や街道の休憩スペース、町外れの孤児院とかでやって、大きな町とかでは一般人の振りをしているから、巫女として町に入るのは初めてだけどね。

いつもは、町に入る前に普通の服に着替えているけれど、今回は商人さんや護衛のハンター達と一緒で着替える暇がなかったし、 これから先の都合(・・・・・・・・) により、元々着替えるつもりもなかった。

今までは、私が町に立ち寄るのは観光、地元料理を食べる、みんなへのお土産の購入、ちゃんとしたベッドで寝る、その他諸々で、野良巫女としての活動とは無関係だった。

大きな町で活動すると、滞在日数が延びて、神殿関係者とか貴族とか、そして 無料(ただ) で怪我を治させようとするハンターとかが 集(たか) ってくる確率が跳ね上がるからね。

いや、名前を売ろうとはしているのだけど、それはジワジワと王都に評判が届いて、という作戦であって、地方都市で囲われて食い物にされるためじゃない。

なので、小さな村や街道での行きずりの相手とか、町外れの孤児院とかでの短時間の活動のみで、すぐに現場から離脱するというやり方をしているのだ。ヒットアンドアウェイ、ってやつだね。

私はハンターギルドにも神殿関係の施設にも立ち寄らないから、他の場所で関わった人達と偶然出会わない限り、野良巫女としての私の正体がバレる心配は、ほぼ無い。

それに、巫女としての私と出会っていても、巫女服の印象が強くて、私服の私を見ても、巫女としての私とは頭の中で繋がらないだろう。少し俯き加減にでもしていれば、印象も大きく変わるし……。

いや、 顔の偽装(フェイスチェンジ) で完全に別の顔にすれば完璧なんだけど、別にそこまでして正体を隠す必要はない。野良巫女エディスが町に立ち寄っていても何のおかしなこともないし、逆に全く町に立ち寄らないという方が不自然だ。

なので、たまに正体がバレるけれど、おかしなのが寄ってくる前に町を離れる、というのが丁度良い感じだろう。

でも、今はいつもの巫女服のままだし、野良巫女として行動している時のように、背筋をピンと伸ばして、顔を上げて堂々と歩いている。

……今までに野良巫女としての私を見たことがある者なら、一目で分かるだろう。

また、野良巫女エディスとしての私と会ったことがある者がいなくても、この町では見掛けたことのない巫女、そして神殿には近付かないし町では巫女としての活動もしないとなると、既に噂が広まっているらしい『小さな村々や孤児院を巡る、野良巫女エディス』と結び付けるのは簡単だろう。

そして私が今回は巫女服のままで町に入った理由。

……うん、勿論、迎撃するためだ。

ほぼ間違いなく第二次攻撃隊を送り込んでくると思われる、あの兵士達を雇っている親玉からの攻撃を……。

そのためには、色々と準備が必要だからね。

* *

「……御招待、ですか?」

「はい。是非とも、と、領主様が強くお望みです」

うん、来たねぇ。

この町と、周辺のいくつかの村を治めている領主さんからの遣いの人。

あの商人さんや護衛の人達が私のことを触れて回っているだろうし、私のことは『神出鬼没の、謎の野良巫女』として、そこそこ名が売れてきているらしい。

そして、普段は孤児院や貧しい村々で炊き出しとかの慈善活動をしているけれど、時たま、怪我人や病人に 女神の御慈悲(・・・・・・) としてささやかな治癒の力を行使する、という噂も……。

だから、来るとは思っていたよ、ここの地元貴族か大店の商会主からの御招待が。

治癒の力は、私の力ではなく皆の願いを女神様に取り次ぐだけ、ということにしてあるし、その効果も、腕の良い医者や薬師と大して変わらない、というレベルにしてある。

……ムキになって私を手に入れたがるほどの価値はない、という程度に……。

でも、いくら同じ程度の治療が他の手段でもできるとはいえ、『女神のお力』、『女神の奇跡』という有り難みというか、ネームバリュー的な効果は、大きいよねぇ……。

あそこの御令嬢は、女神の祝福を受けて御病気が治ったそうな、とかいう話になると、医師や薬師により治療された場合の、『病気に 罹(かか) って、なんとか治った令嬢』ではなく、『女神の祝福を賜った、女神に護られ、愛されし御令嬢』になるわけだ。

……そりゃ、医師や薬師ではなく、女神様に治して貰いたいよねぇ。

それに、女神にお願いできるのが、怪我や病気の治癒だけではないかも、とかいう下心とかも……。

あの商人さんや護衛の人達には、別に口止めとかはしていない。

なので、皆さんは私のために良かれと思い、私がこの町に来ていることをあちこちで喋ったのだろう。

私の過去の活動についてとか、どこかの貴族か金持ちの手の者に拉致されかかったこと、そして自分達がそれを防ぎ、護ったこととかを……。

それは私の身を護る一助となるし、自分達が女神の使徒を護ったという宣伝になるから、その話を広めることには何の問題もない、と考えて。

事実、その通りだしね。

それと、ここの地元の貴族が絡めば、あの拉致を企んだ一味から私を護れるだろうと考えてくれたのかもしれないな。

ここの貴族にとっては、私と知り合いになることはメリットがあるだろうし、逆に自分の領地で私が襲われ拉致されたなどということになれば、ちょっとマズいことになるだろうから……。

フリーの慈善活動家は、名が売れると色々とやりやすくなるからね。寄付が集まりやすくなるし、初めての場所でも大歓迎で受け入れられて、手伝いを申し出てくれる人も多くなる。

そして、私のように、 上の方(・・・) にコネを作って、とか考えている者にとっては、とてもありがたいことだ。

そういう人達は、普通ならもっと露骨に宣伝して売名行為に走るのだろうけど、私達はそういうのはあまりやり過ぎないようにしている。

私達は、 上の方の(・・・・) 、 一部の有力者(・・・・・・) にコネができればいいんだ。

有象無象に集られたいわけじゃない。

今現在名前を売っているのは、その 上の方(・・・) への繋がりを作るためだ。

まぁ、繋がりができた後も、一般民衆を味方に付ける程度の活動は続けるけれど、それはあくまでも片手間でのサービスだ。

いや、この世界で生きる人達のために力になりたいとは思ってるよ。

でもそれは、自分の周りにいる人達から始めて、徐々に周囲に広げていきたいんだよね。

奇跡の力を無制限にバラ撒いて、っていうんじゃ駄目だ。

そんな、個人の異能に頼った一過性のものなんか、人々のためにはならない。

そんなのに頼っていて、もしそれが急に失われたら、どうするんだよ……。

とにかく、領主様の御招待を受けることにした。

日時は今日の夕方。

……夕食の御招待、ってことだ。

流浪の野良巫女ってことで、碌なものを 食(く) っていないだろうと、胃袋を掴みにきたのかな?