作品タイトル不明
294 貴族からの接触 3
「「「「「「 旨(うめ) ぇ!!」」」」」」
うむうむ、当然である!
私の料理の腕に加えて、ポーションが入れてあるのだから!
醤油のような味がするポーション、限りなく 出汁(だし) に近いポーション、その他諸々。
それらで味付けした、角ウサギと山菜の鍋。旨くないはずがない!
庶民の料理では、『出汁を取る』という文化があまり浸透していないからね、このあたりじゃ。
お腹が膨れて栄養が摂れればいい、っていうのが主目的で、味なんか二の次、三の次だ。
じっくりと何時間も煮込む?
薪だって、ただじゃないんだ。そんな無駄にする分があるなら、冬の暖房用に廻すに決まってる。
……そして、それらの調味用ポーションには、ちゃんとポーションとしての本来の効果も付与してある。
内臓疾患、成人病、古傷、関節の不調、虫歯、歯周病、結石、その他何でも、そっと治癒。
大怪我が一瞬で治るとか、重病人が瞬時に回復するとか、そういう派手に目立つやつではなく、本人の自覚しかない不調が、何となく解消された程度だ。それくらいなら、女神の奇跡とかではなく、女神の 気紛(きまぐ) れ、くらいで済むだろう。
色々と迷惑を掛けた……今も、継続して掛け続けている……から、少しはお返しをしないとね。
それに、 聖女様(わたし) に親切にすると良いことがある、という噂が流れるのは、私の身の安全に役立つだろう。
先程、食事の前に『皆様に、女神様の祝福がありますように……』とお祈りしておいたから、体調が良くなったのはお祈りのおかげだと思ってくれれば、万々歳だ。
この中では、女性……というか、少女……は私ひとりなので、夕食のお礼も兼ねてか、馬車の荷を少し降ろして、みんながマントやら何やらを提供して、荷馬車内に私の寝床を作ってくれた。
いや~、紳士だねぇ、 漢(おとこ) だねぇ!
あ、食事の時に聞いたところ、5人組のハンターの拠点は、今向かっている街らしい。依頼された仕事を終えての、帰還中だったらしい。
そして商隊も、同じ街に店を持つ商人さんが仕立てたものとかで、6人の護衛の人達も、街のハンターギルドに所属している人達だとか……。
そりゃ、5人連れのハンター達と顔見知りなわけだ。
商隊が私達に付き合って引き返してくれたの、私だけじゃなくて、護衛についてくれた5人のハンターを守るという意味合いもあったのかな。
まぁ、だからといって、私からの感謝の気持ちが減るわけじゃないけどね。
今回の商隊は、遠くへ行くわけではなく、近場の町や村を廻って売ったり買ったりする、行商のようなものだったらしい。
だから、『だいたい、いつもは月の半ば頃に来る』とかいう程度のアバウトなスケジュールであり、何日か遅れたくらい、何の問題もないらしい。
たまには、簡単には直せないような馬車の破損で何日も遅れたり、酷い時には途中で打ち切って引き返すこともあるとか……。
まあ、そんなもんだよねぇ、こういう世界の 商隊(キャラバン) というのは……。
とにかく、今日はここまで。
みんなが提供してくれた布類のおかげで、固い板の上でも何とか寝られそうだ。
いや、安眠できるポーションとかも作れるよ?
でも、さすがにそういうのに頼っちゃ駄目だよねぇ……。
* *
朝は、携帯保存食を少し齧り、水で喉に流し込んで、すぐに出発。
さすがに、みんなが目を覚ましたら美味しそうな料理とスープが、とかいうのは、あまりにも不自然なので自粛。
どこから出したんだよ、その食材、ってことになっちゃうからね。
無駄な時間を使わないよう、お湯を沸かす手間すら省略。
ま、昼過ぎには町に到着するのだから、それから腹一杯食べればいいのだろう。ハンター5人組は、仕事を終えての帰りだそうで、懐は暖かいはず。
商人さんと護衛の皆さんは……、ごめん、無駄足で、稼ぎにはなっていないよね。
あ、貧乏くじを引いたのは商人さんだけで、護衛と御者の皆さんは日当制、日割り計算だから、問題ないか。
やはり、商人さんには何らかの形で補填しなきゃなぁ……。明らかに、 いい人(・・・) だし。
それに、私が早起きしてごそごそしていたら、みんなを起こしちゃうのが確実だったからなぁ。
……そんなのに気付かずに寝ているとか、護衛失格だし、ハンターとして長生きできないよね。
まあ、ちゃんと交代で不寝番が立っているし、みんなも革の防具を着けたまま、武器を抱えて仮眠しているだけで、不審な物音とかがしたら飛び起きるんだろうけどね。
それもあっての、草むらでばらけての仮眠なんだろうな、多分……。
* *
そういうわけで、魔物にも、盗賊にも、そして盗賊の振りをした怪しい覆面の4人組とかにも襲われることなく、無事、昼過ぎに町に到着。
道中、不思議そうな顔をして肩を回したり膝を曲げ伸ばしたりして何やら確認している人がいたけれど、みんな、私の方をちらりと見ただけで、何も言わなかった。
……うん、分かってくれてるねぇ……。
町は、そこそこの大きさ。
城壁で周囲を囲んだ城郭都市とかいうわけではなく、ごく普通の、出入り自由の地方都市だ。
護衛依頼の事後処理があるから、私と5人組のハンターは、そのままギルド支部へ。
……と思ったら、まず商人さんの店へ行って馬車を置き、その後商人さんと商隊の護衛の6人もギルド支部へついてくるとか……。
証人は多い方がいいし、私と契約した5人以外の者が証言した方が、あの兵士達についての説明に関する信憑性が増す、とか……。
言われてみれば、もしあの連中の雇い主である貴族か金持ちが難癖を付けてきた時、ギルドの庇護の手が商隊護衛の方のハンター達にも及ぶためには、全員ワンセットで説明しておいた方がいいか……。
商人さんの方は、商業ギルドが護ってくれるらしい。
恭ちゃんが店を開いた町は小さいから、商業ギルドと職人ギルドがひとつになった『商工ギルド』だったけれど、この町ではそれぞれ独立した別ギルドだとか……。
あの兵士4人組は、あの後は姿を見せていない。
おそらく、こっそり後をつけていたか、雇い主に報告に行ったのだろう。
発見したけれど、護衛のハンターが11人と、更に商人や御者もいたため手出しできなかった、という報告は、おそらくそんなに叱られるようなことじゃないだろうからね。
でも、ということは……。
……来るんだろうなぁ、多分……。
こりゃ、皆さんに迷惑を掛けないためには、しばらくこの町に滞在した方がいいのかなぁ……。
* *
「おおっ、では、この町に滞在されると!」
ギルドで護衛依頼の事後処理をして事情を説明すると、ギルドマスターが飛んできた。
そしてこれからの予定を聞かれたので『ずっと野宿だったので、身体が参ってる。しばらくここに滞在して、身体を休めながらのんびりと活動する』と言ったところ、大歓迎された。
どうやらこの町には、野良巫女……というか、『聖女エディス』の名が充分に広まっているらしい。
……何だかなぁ……。
そして、孤児院の場所と、神殿の支社というか出張所というか分社というか、とにかく『小さな神殿』がある場所を教えられた。
……そこへ行って働けってか、オイ!
まぁ、いいけどね……。
とりあえず孤児院には行かないと、落ち着かないし。世間の目というものもあるしね。
それに、ただ私が炊き出しや食材の寄贈をするだけの一過性のものではなく、地元の貴族や金持ちが継続的に支援してくれる道筋を作ることの試験的なことをやってみたい。
ただ一回だけお腹いっぱい食べられたというだけじゃ、何の救いにもならないからね。
救済するなら、ずっと……、少なくとも、独り立ちして孤児院を出るまでは、餓えと寒さから守らなきゃ、意味がない。
……この町には、『エディス』を守ろうとしてくれるハンターがいる。
そして、同じく商人さんも。
ならば、少し寄り道をしてもいいか。
時間はある。たっぷりと……。
それに、あの兵士達、もしくはその雇い主が。あるいは、別口の似たような連中が 集(たか) ってくる頃だ。
迎撃するなら、何もない平原でたったひとりで迎え撃つよりも、陣地で友軍と共に迎え撃つ方が効果的だ……。