軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

288 クルト商会 9

「今、何人だっけ?」

「7人。大番頭を除いたヒラの番頭と、手代ばかりね。丁稚は除外してるよ」

恭ちゃんの返事を聞くまでもなく、それは作戦会議で決められたことだ。

丁稚は一番序列が下の従業員であり、店の重要な仕事を任されることがないため、裏のことは何も知らないはずだ。だから、今回の作戦の対象外。

「店にいる中堅以上の従業員は、かなり減っただろうね。アガサ・クリスティの……」

私の 振り(・・) に、恭ちゃんがお約束の台詞を合わせてきた。

「「 そして(・・・) 、 だいぶいなくなった(・・・・・・・・・) 」」

拉致されたクルト商会の従業員達は、 薬(ポーション) で眠らせて某所に運んだ後、変装した姿で訊問し、その後再び 薬(ポーション) で眠らせてある。

眠らせておけば、騒がれることも逃げられることもなく、そして食事やトイレの世話をする必要もないから、楽ちんだ。

身体には悪影響がないよう、ちゃんとポーションでフォローしてある。

犯罪行為には関係がなかった真面目な者には、ポーションで持病を緩和してあげるという特別サービス付き。……まぁ、迷惑賃代わりだ。

従業員の、拉致と訊問。

これは、『連中がやろうとしていたこと』だ。

だから、私達が同じことをしても、文句は言えないだろう。

奴らが、訊問した後に拉致被害者達をそのまま解放するつもりだったのか、それとも口封じのためにそのまま 行方不明(・・・・) になってもらうつもりだったのかは分からない。

……ま、多分口封じコースだろうけどね。

拉致監禁しておいて、身ぐるみ剥ぐだとか身代金の要求とかじゃなくて『ある商品の仕入れルートを聞き出した』なんて、あまりにもバレバレだ。

それに、そんな事件の直後に、 とある商家(・・・・・) が秘密にしていた仕入れルートに突然割り込んできたりすれば……。

……うん、口封じコース、確定だな。

クルト商会の商会主は、今自分達がやられていることは、自分達がやろうとしたことをそのまま何倍にもしてやり返されているのだということに気付いているのかどうか……。

ま、たとえ気付いていたとしても、警備隊に向かって『これは、私達がやろうとしたことをやり返されているのです! だから、犯人はおそらく……』なんて言えるはずがないか。

そもそも、連中はこっちの従業員が襲われたのは自分達の仕業だということはバレていないと思っているだろう。

王都では、ターヴォラス商会王都支店が扱う商品の仕入れルートに興味を持っている商家は多いだろうし、そもそも今回は拉致に失敗しているから、襲撃が情報を手に入れるためのものだとは分かるはずがないと考えるだろう。

……そう、ただのチンピラやゴロツキによるオヤジ狩りだと思われている、と考えるのが普通だろう。

まぁ、『オヤジ狩り』とか言っても、強盗致傷という凶悪犯罪であり、逮捕されたら人生が終わるわけだけど……。この世界でも、地球でもね。

万引きとかも、立派な窃盗罪だ。逃げる時に他のお客さんや店員を突き飛ばしたりすると、事後強盗罪になるし、それで怪我をさせたり、転んで打ち所が悪かったりすると、強盗致死傷罪だ。

そうなると、犯罪者には甘い日本ですら無期懲役や、死刑もあり得る。

軽い気持ちでの万引きのつもりが、逃げる時に店員に触れたら強盗致死傷罪(事後強盗罪)。

犯罪者が想像しているより、遥かに重い罪なんだよねぇ、地球だと……。

それが、まさか事件より前から自分達の商会が目を付けられていて、真っ先に容疑者扱いされるなんて、まぁ、普通は思わないか。

というか、そもそも海産物を大量に扱い始めたのは、クルト商会を狙い撃ちにするためだ。そこで襲撃を受けたなら、真っ先に疑うに決まってる。

でも連中は、恭ちゃんの店でのことは『地方の小さな町でのこと』、『クルト商会の支店ではなく、クルト商会とは何の関係もない、セイトス商店という小さな店がやったこと』として終わったと考えているのだろうなぁ……。

だからそれを、ターヴォラス商会王都支店やホークス商会が海産物を売り始めたことと繋げて考えたりはしていないだろう。

そして、いくら証拠がなく、実行犯との繋がりも調べようがないだろうと思っていても、……まぁ、魔法と超科学力の前には、どうしようもないよねぇ……。

そういうわけで、規模は相手がやったのの数倍にしているけれど、後でちゃんと帰してあげるのだから、酷さではかなり緩めなのだ。甘々対応だなぁ……。

商会長の命令には逆らえないのは分かるけれど、だからといって甘い顔をするのは良くないんだけどなぁ。そんなの考慮していたら、盗賊を捕まえても『お 頭(かしら) の命令には逆らえなかった』と言われれば許すのか、って話だし。

まあ、臨機応変に対処するしかないか……。

* *

「どうなっておる! いったい、どうなっておるのだ……」

勿論、警備隊への届けは出した。もう、何度も……。

そして、警備隊の上の方とか、懇意にしている法衣貴族とか、あちこちに対処をお願いして廻った。

……しかし、状況は一向に変わらない。

「とにかく、従業員全員に、夜間ひとりで出歩かないよう厳命しろ! 番頭達も、店に泊まり込ませろ!」

一見、従業員のためを思っての言葉のようではあるが、その実、せっかく使えるように教育した中堅の従業員を失ったり、店の営業に支障が出たりするのを嫌がっただけである。そして……。

(泊まり込ませれば、朝早くから夜遅くまで働かせることができるしな……)

商人としては立派、そして人間としてはかなりアレであった……。

「とりあえず、続きは明日だ。儂はもう帰る。ここ数日、あまり眠れておらんからな……。

後のことは任せる。頼んだぞ!」

「はい、お任せください!」

商会主は、この店に住んでいるわけではなかった。

店の奥に住居を構えると、閉店後の遅い時間や休養日に押し掛ける貴族の使いや何やらの相手をしなければならないため、それを嫌がり、少し離れたところに妻子と一緒に住んでいるのである。

勿論、家の離れには護衛が詰めている。

それに、店に住んでいなければ、もし万一店が押し込み盗賊に襲われても、従業員の命と金銭的な被害はあっても、自分と家族は無事である。

そして本来であれば商会主一家が住むはずである店内の居住区を与えられ、自分の家族と共にそこに住むことになった大番頭は、その破格の待遇にいたく感激し、商会主への忠誠の念を新たにしたのであった……。

* *

(くそっ! なぜ、うちの従業員が次々と……。

うちの店が怨みを買うようなことなど、……多過ぎて、見当もつかんわいっ!

いや、しかし、それでもこんなあからさまな実力行使に出る者など……。バレれば全てを失うという危険を冒してまで、こんなに執拗に……。

そもそも、やるのであれば最初の2~3人までで充分であろう! 皆、拷問に耐えられるような者達ではないし、喋られて困るようなことは教えていない。少々 阿漕(あこぎ) なやり口はともかく、本当にマズいことは、全て儂と大番頭が直接裏の連中との繋ぎ役に連絡しておるからな……)

そんなことを考えながら、愛する妻と可愛い子供達が待つ我が家へと向かうクルト商会の商会主であるが……。

「う……」

突然身体が痺れ、硬直。

「あ……、う……っ……」

声を出すこともできず、そのまま意識を失った。