軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

287 クルト商会 8

「……じゃあ、そんな感じかな?」

「「了解!」」

うん、だいたいのことは決まった。

まずは、さっさとクルト商会を叩く。

……そもそも、身バレ危機の原因もコイツのせいだ。その分も追加でいく。

そして、その間に警備隊とその上の方で何か反応があるかどうかを確認して、それに応じて対処。

そっちは、動きが分からないと対処のしようがないから、今すぐにどうこう、というのは無理だ。

なので、後回し。各個撃破作戦である。

但し、思いがけず向こうの動きが早かった場合は、こちらもすぐに対応する。

できれば、警備隊内部で『そんな馬鹿な。寝惚けていたんじゃないのか?』、『ただの、最初の診察時の誤診だろう』ということで終わればいいんだけどね。

もしくは、報告を受けた上の方の担当者がそう思って笑い飛ばしてくれれば……。

せめて、下級貴族か何かの時点で、自分が甘い汁を吸おうと考えて情報を差し止めてくれれば、向こうからの接触があった時点で『情報が広まっている範囲』をサックリ、という方法が取れるのだけど……。

……いや、皆殺しとかいうわけじゃないよ。ちょっとシメるだけだ。

ま、今はただ、幸運を祈っておこう。

* *

「確認したよ~。証拠、バッチリ!」

計画変更会議の2日後、恭ちゃんがそう言いながら現れた。

お店は『新製品仕入れのため、しばらく休みます』ということにしているらしい。

そう 頻繁(ひんぱん) には使えないけれど、この世界では他国や他の領地に行くには何日、何十日もかかるから、たまに長期間のお休みを取ることは、そうおかしなことじゃない。

わざわざ店持ちで忙しい恭ちゃんに調査を頼んだのは、私は『いくら変装できるとはいえ、安全のため、日中に王都をうろつくのは少し控えなさい』ってレイコに言われたから。

そのレイコ自身は、仕入れのためお出掛け中。

遠距離だと小型艇が使える恭ちゃんの方が速いけれど、そんなに遠くないところを複数廻るなら、魔法(おそらく、科学的手段による)が使えるレイコの方が速いんだよね。

恭ちゃんだと、離着陸は夜間だとか、町から少し離れたところでないと駄目だとか、色々あるし、恭ちゃんは今まで仕入れのための地方廻りはしていないから、そのあたりのこともあるし。

「お疲れ~!」

レイコの光学迷彩魔法とか、恭ちゃんが母艦の艦内工場で作らせたスパイグッズとかを使えば、証拠固めなんか簡単なお仕事だ。

それも、他者を納得させる必要はなく、私達だけが納得できればそれで充分だという場合には。

そう。今回は、別に官憲に突き出すための証拠が欲しかったわけじゃない。

こんな方法で手に入れた証拠で訴え出ても、『どうやってそんなものを手に入れたのだ?』と突っ込まれたら困る。

だから、ただ私達が誤射、誤爆をしないように、黒幕を確定できればそれで良かったんだ。

いくら怪しくても、実は真犯人は別にいた、なんてことは、よくあることだ。

……今回はそんなことはなく、本命そのままの鉄板レースだったけどね。

「拠点も確保したよ!」

「了解! ご苦労さん」

恭ちゃんは、作戦会議の決定に従って、王都に物件を確保してきてくれた。

王都で色々と暗躍するのに、やはり宿屋ではやりづらい。

私達3人が王都、恭ちゃんのお店、リトルシルバー、取引先の町、その他諸々を行ったり来たりするし、深夜に戻る時もあるし、宿の薄い壁じゃあ、作戦会議もできないからね。

なので、手頃な家を借りたのだ。

別にお店にするわけじゃないから、中心街からは少し離れた、夜間の出入りとかがあまり目立たない街外れ。

恭ちゃんが王都にお店を出す時には、もっと立地条件のいいところを確保する。今回押さえたところは、店を出した後も秘密基地としてそのまま維持する予定だ。

まあ、それはまだまだ先の話だ。

今は、まず……。

「じゃ、クルト商会を叩こうか!」

うん、恭ちゃんのお店にちょっかいを出しただけなら、少し懲らしめるだけでよかったんだ。

でも、チンピラやゴロツキを使ってターヴォラス商会王都支店の従業員を襲わせた時点で、連中は『汚い手を使う商人』から、『凶悪犯罪の黒幕』にレベルアップした。

僅かな数の商品の窃盗や裏切り行為とかは、充分反省させ、後悔させれば、まあそれでいい。

……でも、凶悪犯罪、てめーは駄目だ!!

しかも、おそらく、というか、ほぼ確実に、 またやる(・・・・) というのが確定しているし。

向こうがいくら汚い手を使おうが、『商人らしいやり方』で来る限り、こっちも同じように『商人らしい、汚い手』でやり返すつもりだったんだ。

でも、向こうが『商人縛り』というルールから逸脱して『暴力』という手段を使うなら、こっちも逸脱しても構わない、ってわけだ。

そして使う手段は『暴力』ではなく、『魔力』と『科学力』なのである。うむうむ。

* *

「あ、恭子、戻ってたんだ……」

仕入れ廻りの旅に出ていたレイコが、戻ってきた。

まあ、『旅』と言っても、レイコの場合は各地を廻ってもほんの数日だけどね。

今日はみんなでのんびりして、……明日から行動開始かな。

* *

「ラバートはどうした?」

「はて……。休みは取っていないはずですから、お得意先廻りをしているか、倉庫で在庫確認をしているか、もしくは寝過ごして遅れているか……」

クルト商会の商会主にそう答えた大番頭であるが、番頭のひとりであるラバートはしっかり者である上、妻帯者である。寝坊して仕事に遅れるような者ではないし、そもそも、そういう者であれば番頭にはなれていない。

「そうか。後で私のところへ来るよう伝えておいてくれ」

別に叱責するつもりではなく、少し用があるだけである。

番頭にはある程度の自由裁量権を与えているので、いちいち報告せず自由に動いても問題はない。

……そして、翌日。

「おい、ラバートはどうしたのだ?」

まだ、自分のところへ顔を出さない。

ということは、昨日からずっと店にはいないということである。

「そ、それが……」

今日になっても姿が見えないため、さすがに怪訝に思った大番頭が手代に命じて自宅へ様子を見に行かせたところ、妻が言うには『2日前から、お店に泊まり込んでいるのでは……』と、驚いていたらしいのである。

繁忙期には店に泊まり込むことも珍しくはないため、別に疑問にも思わなかったとか……。

ということは、2日前の夕方に帰宅のため店を出てから、行方が分からないということに……。

「なっ! すぐに警備隊に届けろ! 手空きの丁稚や手代を聞き込みや捜索に向かわせろ、路地裏やイルマ沼も捜させろ、それと、 裏(・) の方にも情報収集に行け!」

路地裏とイルマ沼は、犯罪者が死体を捨てる定番の場所である。

「はいっ!」

いくら番頭とはいえ、大番頭ではなく複数いる番頭のひとりに過ぎないというのに、血相を変えてそう叫ぶ商会主に、従業員達は感動していた。この商会主は、従業員のことを心配し、万一の時には色々と尽力してくださる方なのだ、と思って……。

その実、せっかくここまで育てた人材を失っては大損だという損得勘定での行動であったが、結果的には同じ行動となったわけなので、問題はなかった。

* *

「今朝から、ハイディルの姿が見えません……」

「何!」

結局、行方不明になった番頭ラバートは見つからず、不機嫌な顔をしていた商会主に、今度は手代のひとりがいないという報告が……。

手代は住み込みであるため、昨日の夕食から今日の朝食までの間にいなくなったということになる。

そしてそれから連日、報告が続いた。

「ロルトスが来ていません。昨夜から家にも帰っていないと……」

「サロウィンが、外回りに出たまま戻ってきません!」

「イルテスが……」

「いったい、どうなっておる! どこかの商家の仕業か、裏の組織の脅しか何かか!

警備隊は何をしておる! ええい、伯爵様のところへお願いに行くぞ、馬車の用意をしろ! 急げ!!」

商会主はまだ、自分が何を敵に回してしまったのかに気付いてはいなかった……。