作品タイトル不明
277 トレーダー商店 6
結局、誰に見つかることもなくトレーダー商店に到着。
その2階、恭ちゃんの部屋で、作戦会議。
変装は、全員解除済み。でないと、何か話しづらいからね。
2階には、私とレイコが泊まるための部屋も用意してあるらしい。だからいつでも、予告なしで来てもいいからね、とか……。
まあ、退屈で寂しいのだろうなぁ。
この件が片付けば、またみんなで一緒に暮らせるように手配しよう。
……ということで、早速、作戦会議。
飲み物とお菓子は、アイテムボックスから出してテーブルの上に並べてある。
「で、信用できるの? その自白ってやつ……。自分で企んだのに元雇い主に罪を擦り付けようとしているとか、本当の依頼者が別にいるとかいう可能性は……」
そして、早速本題に入るレイコ。
「あ、それは大丈夫だよ」
しかしレイコの懸念を、そう言って一蹴する恭ちゃん。
「ギルドマスターからの又聞きだけど、拷も……取り調べを依頼した老人が言うには、『若い 拷問吏(やつら) は、鞭や割竹で力任せに叩けばいいと思っておるが、歳を取って体力がなくなってくれば、そんなやり方じゃあこっちの身体が保たん。拷問というのは、身体を痛めつけるのではなく、心を痛めつけることが大事なんじゃ。折るのは、骨ではなく、心じゃよ』ってことらしいよ。
なので、相手の心が折れたかどうか、言っていることが嘘かどうかなんて、ベテランの拷問吏には簡単に分かるんだって」
最初に『拷問』と言いかけて『取り調べ』と言い直したくせに、その後は普通に『拷問』を連呼する恭ちゃん。
……まぁ、恭ちゃんだからなぁ……。
「じゃあ、相手はその商店とその親玉、ということで決定していいのかな?」
「うん。あ、勿論、裏は取ってあるよ」
レイコの確認の言葉に、そう説明する恭ちゃん。
多分、盗聴器か何かで確実な証拠を押さえたのだろう。
勿論、警備隊や領主に提出することはできないヤツだろうけど……。
やっぱり、完全にクロだということが確定していないと、手を出すわけにはいかないよねぇ。
「で、どんな『因果応報』がいいと思う?」
「「う~ん……」」
みんなで、頭を絞る。
……勿論、『因果応報』というのは神や仏、因縁により起こることだけど、この場合は、それらに私達が 少しばかり力添えする(・・・・・・・・・・) という意味である。
「明確な罪科としては、女性の部屋への侵入と家捜し、窃盗。
従業員への脅しは、多分罪にはならないと思う。雇われ店長と孤児の店員だから、こういう世界じゃパワハラとすら認められないよ。ごく普通のことだとして……。
……これじゃあ、大した処罰にはならないよね。百叩きが精々かな……。そして、親玉にはノーダメージ。
それは、我ら『KKR』の仕事としては不十分。とても納得できるようなものじゃない。
しかも、これは頼まれた仕事ではなく、私達が直接売られた喧嘩よね。ならば……」
「「売られた喧嘩は買う。オークションで値を吊り上げて!」」
恭ちゃんの言葉に、レイコが続いた。……そして、私も。
「「「それが我ら、『KKR』!!」」」
「「「あああああああああ!!」」」
痛い。
あまりの暗黒歴史っぷりに、頭を抱えて 蹲(うずくま) る、私達3人。
そういうのが許されるのは、中学生か、せいぜい高校1年までである。
それを、大学生の時にやっていた……。
いや、人助けをしていたのだから、別に悪くはない。むしろ善行……一部、過剰防衛もあったが……であり、女子学生達には 有(あ) り 難(がた) がられていた。
しかし、今、客観的に当時の自分達の言動を振り返ってみると……。
「「「あああああああああ!!」」」
「……で、『因果応報』の方法なんだけど……」
「「急に真顔になるな!!」」
レイコのヤロウ……。
* *
「ギルドマスター、います?」
「は、はい、しばらくお待ちを!」
商工ギルドに顔を出した 恭子(サラエット) が尋ねると、職員のひとりが慌てて2階へと向かった。
そして、すぐに戻ってくると……。
「どうぞ、こちらへ」
在室している限り、ギルドマスターに『訪ねてきた恭子と会わない』という選択肢はなかった。
「よ、よく来てくださいました……」
少し挙動不審なギルドマスター。
しかし、恭子にはそんなことはどうでもよかった。
「元店長はどうなりましたか?」
「は……はい、ギルドの紹介で若い女性ばかりの店に斡旋されたというのに、そのギルドからの信頼と雇い主からの信用を裏切り犯罪行為を行ったということは、刑事事件としては重罪ではないですが、商人として、そしてギルドに対しては許されざる大罪です。
よって、商工ギルドからの除名処分が決まりました」
「え……」
甘い。
あまりにも甘い処分である上、刑事罰の方はどうなったのか。警備隊に突き出す、とかは……。
そう思って恭子が突っ込んだところ……。
「いえ、これは、暴力や大金の横領とかを伴わない犯罪としては、結構厳しい罰なんです……。
この街は規模がそれほど大きくないので、商業ギルドと職人ギルドをひとつに纏めて商工ギルドになっていますから、うちで除名処分になると、国内の商業ギルドと職人ギルドの両方から除名になるのです。他の、それぞれのギルドが独立してるところなら、商業ギルドからの除名だけで済んだのですが……。
そして、商業ギルドや職人ギルドを除名された者は、もうその業界では働けません。
いえ、別に、本人がどこで働こうが、ギルドは別に邪魔したりはしませんし、働くこと自体は問題ないのですが、……仕事や取引等に 除名処分者(そいつ) がたとえ僅かでも関わっていた場合、ギルドは一切の援助、サポート、協力等を行いません。
つまり、事故や事件、犯罪等に巻き込まれても、その者を雇っていた商店には何の援助もしない、ということです。たとえその件に除名処分者が無関係であっても、です。ただ馬車の御者をやっていただけ、とか、取引があった店の軒先で掃き掃除をしていたというだけでも……。
……まあ、 商人のクズ(そういう者) を雇っているのだから、そういう店なんだろう、ということですね。裏切られても自業自得、もしかしてそいつが手引きしたんじゃないの、ってことで。
これで、 除名処分者(そいつ) を雇おうって奴がいると思いますか?」
「…………」
「商売の世界も、結構狭いですからね。この国じゃあ、名前を変えてもすぐバレます。
ですから、商売や職人とは全く関係のないところ、……力仕事とかで働くか、遠国へ行くしかないでしょうね……」
「働き口なら、飲食店とか、農業とか、他にも色々あるのでは……」
「飲食店も、商工ギルドに加盟していますよ。農業も、土地がないとできませんし、雇われるにも、身体を鍛えてもいない素人の中年男性なんか雇う農家はありませんよ。
今まで商売の世界しか知らずに生きてきた、腹の出た中年男性。余程心を入れ替えて真面目に頑張らない限り、他業種で生きて行くのはかなり辛いでしょうね……」
どうやら、商人としてのキャリアしかない者にとっては、かなり厳しい罰のようであった。
「…………警備隊に突き出す、というのはないのですか?」
恭子の指摘に、ギルドマスターは首を横に振った。
「罪状としては、不在であることが分かっている女性の部屋に侵入して物色したことと、商品をいくつか横領したことだけです。大した刑罰にはなりません。
それに対して、我々は拷も……少々厳しい取り調べを行いました。
……それで、まぁ、その……」
恭子は、何となく察した。
おそらく、警備隊に突き出した場合に与えられるであろう刑罰を遥かに超えたことが行われたであろうことを……。
ギルドにも、面子というものがあるのだろう。
身内の不始末は、身内で処罰する。警備隊も、それは理解してくれるはずである。
そして、おそらく黙認されるであろうと思われはするものの、敢えてそれを警備隊に教える必要はないとギルド側が考えているということを。
「黒幕の商店は、どうするの?」
「……犯人の自供だけでは……。いざとなると、王都の方から横槍が入る可能性がありますし……。
ここは、実行犯への処罰で、トレーダー商店に手出しする者はギルドが容赦しない、というアピールをすることで納得していただきたく……」
どうやら、王都の大店には喧嘩を売りたくないようである。
いくら商工ギルドとはいえ、地方の小さな街の、職人ギルドと合併してようやく存続しているような弱小支部に過ぎないのであるから、それも無理はないであろう。
なので、恭子はこくりと頷いた。
そして、ギルドマスターは心からの安堵の表情を浮かべるのであった。
その後、恭子は元店長の 本当の雇い主(・・・・・・) についての情報を、ギルドマスターからありったけ聞き出した。
以後の自己防衛のためと言われれば、負い目のあるギルドマスターに 否(いな) はない。
そして恭子の言葉には、嘘はなかった。
ギルドが黒幕には何も対処しないということに納得したことも。
ギルドマスターから聞き出した情報を、自己防衛のために使うということも。
ただ、それならば自分で対処するということと、恭子の座右の銘が『攻撃は最大の防御なり』であるということを言わなかっただけである。
……そして、笑顔でギルド支部を後にする、恭子であった……。