作品タイトル不明
273 トレーダー商店 2
翌日、ギルドから呼び出しが来た。
うん、新米ハンターが伝言を持ってきたわけだけど……。
「そちらの不始末で、どうして私がわざわざ足を運んでアウェーで話を聞かなきゃならないのですか。
話があるならそちらが来てください、って伝えて頂戴。おかしな真似をしようとしたら、天井から槍が降りそそいだり、椅子から毒針が飛び出たりする かもしれない(・・・・・・) ウチの応接の間で話を聞いて差し上げます、って……」
あ、真っ青になって走り去った。
嫌だなぁ、軽いジョークなのに……。
降りそそぐのは槍じゃなくて電撃だし、針に塗ってあるのは毒じゃなくて痺れ薬だよ。
そして、2時間後に来た。ギルマスと、知らない男性が。
アレかな? もしもの時にギルドのトップと次席が同時にやられるのを防ぐため、次席者は残した、とか?
そして、なぜかギルマスともうひとりの男性は、革の防具を身に着けている。……さすがに、武器は持っていないようだけど。
……いや。いやいやいやいや、冗談を真に受けないでよ……。
それに、金属鎧じゃないと毒針は防げないよ。
電撃には弱いだろうけどね。
「……ちょ、調査結果の報告に来た……」
そう言ったギルマスの声が震えている。
「いや、ビビリ過ぎでしょ! ただの、小娘の冗談でしょうが!」
「「…………」」
ちょっと反応が強すぎるなぁ……。
あ、もしかすると、私は優しくて温厚でも、隠れ護衛(そんなのはいない)や報告を受けた 親元(バック) (そんなのはいない)とかが強い報復手段に、とか考えてるのかな?
うん、それならば心配するのも無理はないか……。
「じゃ、とりあえず、そこに座ってください」
そう言って、商談用の席を指し示したけれど、ギルマス達は動こうとしない。
「「…………」」
「その椅子には、『飛び出す毒針』の仕掛けは付いていませんよ」
「「…………」」
遣いの新米ハンターにはああ言ったけれど、ここには『応接の間』なんてないし。
部屋数が少なくて、そんな滅多に使わないような部屋を用意する余裕なんかないよ。
たっぷり30秒くらい躊躇った後、ようやくふたりは席に着いてくれた。
「いったん店を閉めて。それと、お茶を……」
ふたりの店員達が、ドアに『休憩中』の札を掛けてロック、そして紅茶と茶菓子の用意をするために奥へと引っ込んだ。
勿論、店にいるのは孤児院のふたりだけ。雇われ店長の男は、出勤していない。
……いや、 出勤できない状態(・・・・・・・・) なんだろうけどね、勿論。
「……で、どうでした? 吐きましたか、あの男……」
「うむ。取り調べた結果、奴は私達が保証した通りの男、つまり主人を決して裏切らない、忠実で誠意ある使用人であることが再確認された」
え?
「だって、事実、裏切って……」
「いや、主人を裏切ってはいない」
どういうことよ?
「トレーダー商会に雇われて、商品の仕入れ先や品物の製造場所を調べよ。また、商品の 見本品(サンプル) をいくつか持ち出せ、という、 本来の主人(・・・・・) からの命令を、忠実に守っただけだ。
なので、私達が保証した、『この男は主人を決して裏切らない、誠実で忠実な使用人である』ということは、決して嘘ではない!」
「な、な、な……、何じゃそりゃあああ~~!
そんな言い分が、通るかあああああ~~!!」
「……あ、やっぱり?」
* *
ふざけたギルマスを締め上げて、キッチリ、全部説明させたよ、勿論。
それによると……。
証拠が 公(おおやけ) にできないため、警備隊に引き渡して調べてもらうわけにはいかない。
なので、 取り調べ(・・・・) は商工ギルドの地下室で、秘密裏に行われたらしい。
若い頃に他領で拷問吏をやっていたというお爺さんを呼び出して……。
お爺さんは、臨時収入、そして自分の能力が必要とされ頼られたことに驚喜し、異様に張り切っていたとか……。
私の申し立てだけでそんなことができるのか?
いや、孤児ふたりの証言があるし、私が『確実な証拠がある』と断言しているからね。
そもそも、私が、雇って間のない店長要員を嵌める理由がないよ。
追い出したければ、勝手にクビを宣告すれば済むだけの話だよね。ここじゃあ、被雇用者の権利なんかないから……。
それに、なぜかここでは私は絶大な信用があるみたいなんだ。
この件は、商工ギルドの信用問題だから、向こうも必死なんだろうな、多分……。
そして元店長は、元拷問吏のお爺さんとふたりきりになってから僅か数分後、ぺらぺらと色んなことを 囀(さえず) ってくれたらしいんだ。爪の内側に 銀色のアクセサリー(てつのくし) を何本も刺した状態で……。
拷問に耐えられるように訓練を受けたプロの工作員、ってわけじゃなく、ただの商家の使用人なのだから、まぁ、仕方ないよね。
「……で、主人に忠実、というのは、『潜入を命じた、本来の』主人に忠実、孤児は部下でも同僚でも客でもないという認識。
そして『オーナーは、孤児が言うことと私が言うこと、どちらを信用すると思う?』とか言って、店員のふたりを脅したわけですね?
そんなの、分かり切ったことですよね。私がどちらを信用するか、なんて……。
自分の行いが大勢の後輩の孤児達の人生を左右するというプレッシャーに耐え、店のお金や商品を守るためなら命も惜しまないような馬鹿よりも信用できる者なんか、そうそう居やしないですよねぇ。
……そう思いませんか?」
「「…………」」
あれ? 即答されると思ったんだけどな、肯定の返事で……。
「しかし、ようやくのんびりできて頻繁に帰省できると思っていたのに、それがまた遠のいたわね。
……裏切り者と、『悪意ある敵対者』のせいで。
これは、同じようなことを考える者が出ないよう、懲らしめてやる必要があるわよね……」
……笑顔で。あくまでも笑顔のままでそう言うと、なぜかギルマス達が顔を引き攣らせている。
どうしてかなぁ?
他者を攻撃していいのは、反撃される覚悟のある者だけだよね。
笑いながら思い切り殴りつけたのが、鉄の塊だったならまだしも、毒が塗られた剣山だったということもある。
それを、教えてあげなくちゃ……。
* *
そして、ローディリッヒの取り調べの結果を待っているカオル達のところへ、恭子からの連絡が来た。
『雇った店長要員がスパイで、裏切られた。 ちょっと不愉快なので(・・・・・・・・・・) 、軽く対処するね』
「恭子の、『ちょっと不愉快』が出たわ……」
「恭ちゃんの、『軽く対処するね』が出たね……」
「「ぎゃあああああああ~~!!」」