軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

272 トレーダー商店 1

『了解! あ、そうそう、店長雇ったよ~!』

「え?」

レイアが帰り、通信機で恭ちゃんに問題解決の連絡をしたところ、そんな返事が……。

『いや、さすがに私ひとりでずっとこっちにいるの、ちょっと辛くない?』

「「…………」」

うん、さすがに、それは私達も気にしていた。

『だから、店長要員を雇ったの。これで、私は時々売り物の補充に顔を出せばいいだけになったから、そっちでゆっくりできるようになったよ!』

「「………………」」

ま、まあ、それは良いことだ。

これで、3人それぞれ、『時々の出張』以外はここでのんびりできる。

あ、ローディリッヒ達の件でしばらく出張に行っていないから、私もレイコも、そろそろ行かなくちゃ……。

* *

「じゃ、もうすぐ戻るからね~」

よし、香と礼子への報告も終わったし、明後日あたり、リトルシルバーに戻ろうかな。

雇った店長は、商工ギルドのギルマスと副ギルマス御推薦の、どこかの商家で手代をやっていた人らしい。

手代といえば、日本での係長か課長くらいかな?

丁稚が平社員から主任くらい、手代が係長から課長、番頭が部長以上で、大番頭が専務あたりかな……。

それから考えると、店長が手代というのは力不足のような気がしないでもないけれど、大会社の課長が零細商店の店長をやると思えば、過剰戦力のような気もするよね。

まぁ、そのあたりも考えての人選なのだろうから、そこはギルマス達を信じよう。

以前、他の商家の者は信用できないからと言って断ったけれど、それは誰を雇っても同じことだと気付いたので、ギルマスからの紹介を受け入れたのだ。

そう、信用できるかどうか分からない一般人と、信用できるかどうか分からない商業ギルドの紹介であり保証付きの商売経験者。どちらがマシか、考えてみた結果だよ。

……ある程度のリスクは仕方ない。

勿論、ちゃんと教育したよ。

2階への立ち入りは禁止。

ここで見聞きしたことの他言禁止。秘密の厳守。

孤児院から雇っているふたりは、共に私が直接雇用した者達であり、店長と店員という上下関係はあるものの、『私に雇われた、同僚』であること。

パワハラ、セクハラの禁止。

犯罪、裏切り行為の禁止。

そして店員のふたりには、こっそりと伝えてある。

もし店長からのパワハラやセクハラがあった場合、直ちにそのことを商工ギルドに伝えて孤児院に戻り、私が行くまで店には行かないこと、と。

勿論、ふたりが店をクビになることを恐れて泣き寝入りしないよう、『この命令が、店長の命令より優先される。私の命令に従わず店長のいいなりになった時点で、私を裏切ったものとみなして解雇する』と言っておいたから、多分大丈夫だと思う。

本当は店長も女性にしたかったけれど、ギルマスに、女性の手代なんかいない、って言われたんだよね。

それが本当なのかどうかは分からないけれど、確かに、花屋のおばさんや飯屋のおばさんとかは女性経営者として存在しているし、小さな店の売り子や会計係には女性従業員もいるけれど、大きな商店にいる女性は、商業使用人、つまり『店員』ではなく、家事使用人……掃除婦や調理場の下働き、お茶汲みとかの、いわゆる『下女』という 類(たぐ) いの人達ばかりだった。

なので、ギルマスが紹介してくれた男性を雇うことにしたのだけれど、勿論、安全措置は充分に施したよ。

ふたりの女性従業員と、この店と、……そして秘密を守るために。

* *

「あ~、早かったなぁ……」

充分な慣熟期間を置いてから、もう大丈夫だと思って5日間程リトルシルバーに戻っていた。

そして店に帰ってくると、立ち入り禁止にしている2階に仕掛けておいたもの……ドアを開けると切れる髪の毛とか……を確認し、侵入者がいたことを把握。

そして、画面内に動くものがあった時刻を記録してくれる便利な監視カメラの映像を確認。

その後、店長に異状の有無を確認し、『異状なし』との報告を受けたわけだけど……。

当然のことながら、その日の営業を終えて閉店、3人の被雇用者達が帰った後、孤児院へと向かった。

……ふたりの店員から、話を聞くために。

* *

「紹介していただきました男を、引き取ってくださいな」

孤児院から直行で商工ギルドへ行き、ギルマスとの面会を求めたところ、すぐにギルマスの部屋へと案内された。

そして、部屋に入ると同時に、ギルマスと副ギルマスに向かって笑顔の私が口にしたのが、この言葉だ。

……まだ、座ってもいない。

「え?」

間抜けな声を出したギルマスに、追撃の言葉を。

「いえ、ですから、私の不在時に、絶対立ち入り禁止と申し渡していた私の私室に侵入しての 家捜(やさが) し、商品の横領、そして女性従業員に対する暴言と脅迫行為により、解雇致します。

逆上して暴れられると怖いですし、あんな犯罪者を紹介した、 保証人(・・・) としての責任を取っていただきたく……」

「「…………」」

驚愕に顔を引き攣らせ、口をあけたまま固まっているギルマスと副ギルマス。

「いえ、信用できる店長要員の心当たりがなくて雇用を躊躇っている私に、あなた方が保証して紹介されたんじゃないですか、あの男を。責任取ってもらえるんですよね、勿論……。

解雇と横領物の返還を申し渡して、逆上して襲い掛かられたら大変なので、そちらで引き取ってください。

本当ならば警備隊に引き渡したいところですが、証拠を見せると、うちの秘匿技術や防犯方法を晒すことになりますし、金銭的な被害は僅かですから、軽い処罰で済む確率が高いですからね……。

懲戒解雇とし、アレを差し向けた黒幕、その他諸々を吐かせて教えていただけるなら、引き取っていただくだけで済ませることも可能です。

もしそれがお嫌でしたら、私が自分のやり方で調べ上げ、 それなりのやり方(・・・・・・・・) で始末を付けることになりますが……。

その場合、勿論、ギルドが保証して送り込んだ商人が何をやらかしたかということをこの街、近隣都市、そして王都の商業ギルドにもお知らせすることになりますが……。

他の被害者を出さないためには情報の共有は必要ですから、良き商人、良きギルド加盟店としては、当然の義務ですよね?」

殊更(ことさら) に、笑顔で、丁寧な言葉遣いで説明してあげた。

もう信用してないよ、あくまでも事務的に会話しているだけだよ、ってことがよく分かるようにね。

……何だか顔色が悪いね、ギルマス、副ギルマス、そして案内してくれた受付嬢さん……。

でも、自分達がしでかしたことなんだから、責任逃れは許さないよ。

というか、アレにうちの調査を命じたのがアンタ達だっていう可能性も見落としちゃいないよ?

「ち、違う! 私達が命じたわけじゃない、本当だ!! な、何があったのか、詳しく教えてくれ!

……い、いや、教えてください……」

* *

「……というわけで、初の長期不在……といっても、僅か5日間だけど……の間を任せただけで、立ち入り禁止区画だとか私の私室だとか、隅々まで家捜しして調べ尽くしてくれちゃったワケですよ。

そして更に、商品のちょろまかしと、女性従業員に対する侮辱的な言動と、私に余計なことを言えば『商品を盗んだ』と報告してクビにする、との脅迫行為。

商品の横領は、横流しして儲けるというには量が少なすぎるから、おそらく模倣するための分析用でしょう。つまり、単独犯ではなく、 後ろ(バック) に商家が付いている、ってことですよね?

商家、もしくは 商工ギルドのような(・・・・・・・・・) 組織(・・) が……」

「違う、違いますっ! うちは全く関与していません! すぐに調べて証明して見せますから、は、早まらないでください! 一日、一日でいいですから、時間をください!!

おい、すぐに捕縛チームを編成してアイツを捕らえろ! お前は元拷問吏のベトルを連れて来い、特別報酬を出すから今すぐ来い、と言え!」

おお、 焦(あせ) ってる焦ってる……。

ギルマスに指示されて、副ギルマスと受付嬢は部屋から飛び出していった。

こりゃ、本当にギルドは無関係なのかな?