作品タイトル不明
271 商会バトル 10
「お嬢ちゃん、レイアちゃんかな?」
「うん」
警備兵の指揮官が、レイアに優しく質問した。
「どうしてここにいるのかな?」
「昨日、この人達に『美味しいお菓子を食べさせてあげる』と言われて、ここに連れて来られたの。
でも、約束が違った。そして昨日から今まで、ずっとここにいた」
「捕らえろ! 全員縛り上げて、しょっ 引(ぴ) けええぇ~~!!」
あ~、ま、そうなるわな……。
レイアの言う『約束が違った』というのは、お菓子が この子(レイア) の基準からすると『美味しいお菓子』じゃなかった、という意味なのだろう、多分……。
そして、そろそろ私達も顔を出すか……。
レイアだけだと、うまく説明できないだろうからね。
「レイコ、隠蔽魔法解除!」
「了解!」
そして、ドアから中へ飛び込んで……。
「ああっ、レイア、よくぞ無事で! 昨夜から行方不明だと聞いて、警備隊の皆さんに捜索をお願いしていたのよ!
警備隊の皆さん、レイアを誘拐犯からお助けいただき、ありがとうございます!
もし皆さんにお助けいただけていなければ、おそらく、私達から身代金を取り、その後どこかへ売り飛ばされていたに違いありません。凶悪な少女誘拐・人身売買組織の魔の手からお救いいただき、本当に感謝の言葉もありません!」
「「「「「「「えええええええええ!!」」」」」」」
いつの間にか、どんどん罪状が膨れあがり、凶悪犯になってしまっていることに驚愕の叫びを上げる男達。
「宿に戻らなくても気にしない、って言ったじゃないかあぁ!!」
そんなことを喚くローディリッヒであるが……。
「誘拐犯の黒幕の第一候補に、本当のことを言うはずがないでしょうが。
そして、尾行されることを考えもせずに、真っ直ぐ隠れ家に向かうとか……。馬鹿なのかな?」
「ぐうっ……」
ぐうの音も出ない……、って、出てるか。
まぁ、本当は昨夜のうちにここのことは判明していたんだけどね。
「……本当の悪党は、ソイツら。こっちの3人は、そこまで酷いことはしないと騙されて、1日子供の相手をするだけだということで雇われただけ。
さっきも、私を護ろうとしてくれた……」
えええ、という表情で眼を剥いた3人であるが、レイアの言葉は死ぬ程ありがたいであろう。
何せ、下手をすれば死罪である。それを、百叩きの刑で済むくらいの軽い罪になる可能性を与えられたのだ、そりゃ額を地面に擦りつけるくらい感謝して当然だ。
ま、人間なんかアリンコくらいにしか思っていないレイアがそんなことを言い出したんだ、多分、夜通しのお話で、この連中に愛着でも湧いたのだろう。レイアにとって、アリンコからハムスターくらいには昇格したのかな、この連中……。
いや、もしかすると、人間との交流が深まって、全ての人間がアリンコからハムスターくらいに昇格している可能性もあるか。ミーネのことも、何かすごく意識しているみたいだったからな、レイアの奴……。
もしかすると、いい傾向なのかな、これ。
いきなり機嫌を損ねて大量殺戮……悪気はなく、人間が殺虫剤を撒く程度の感覚で……とかをする確率が少しでも下がるなら、とてもいいことだな、うん。
「うむ、確かに、我々が踏み込んだ時、この男はレイアちゃんを護ろうとしていたな。
その証言、確かに聞いた。報告書にはちゃんとそう記載するから、安心するように!」
警備隊指揮官のその言葉に、ぼろぼろと涙を 溢(こぼ) し頭を下げる3人。
うん、これもかなり心証を良くしただろう。
警備隊の人達も、うんうんと頷いているし……。
一方、ローディリッヒ達は……。
「知らん! 私達は、無人のはずのあばら屋から子供の声が聞こえたから、心配して覗いただけだ! そして、怪しい男達から少女を助けようと、男達に殴りかかろうとしていたところだったのだ!」
「あ~……」
「無理がありすぎる……」
「往生際が悪い……」
「反省の様子なし……」
「先程の、『宿に戻らなくても気にしない、って言ったじゃないかあぁ!!』という発言との整合性が、全く取れていない……」
警備隊の人達全員、かなりの酷評である。
そして……。
「あ~、俺達にいくら弁明しても無駄だぞ。俺達は、犯罪者を捕らえるのが仕事であって、裁いて刑罰を言い渡すのはもっと上の人だ。
だから、俺達は見聞きしたこと、つまり事実と証言を上に報告するだけであって、その真偽を判断する立場じゃねぇ。弁明は、取調官にしてくれや」
尤もな言い分だ。
ローディリッヒもそれを聞いて理解したのか、必死で喚くのをやめた。
「では、あとはお願いします。証言が必要な時には、連絡していただければすぐに行きますので……。
その時には、この連中がレイアを盾にして理不尽な契約を要求したこととかも……、あ、この街と王都の商業ギルドにもそのことを報告しなきゃ。この連中の所属は王都だし、働いている商会の本店は王都にあるのですからね。誘拐の指示も、本店から出されたものかもしれませんし……」
「なっ!」
私の言葉に、愕然として眼を見開くローディリッヒ達。
うん、そんなことになれば、次期商会主の座どころか、商会そのものがなくなってしまうだろう。
何しろ、自分達に有利な契約を強要するために他国の貴族の少女を誘拐して脅迫するような商家だ。他国との間に大問題を引き起こしそうな、そんなヤバい連中を国王が看過するはずがないし、そんな噂が広がった時点で、商会は終わるだろう。
何せ、いつ商会主が捕縛されて店が潰れるか分からないような店だ。そんなところと関係を持ったり、掛け売りをしたりする店はあるまい。代金の回収ができなくなるリスクが大きすぎる。
そして、自分達にまで犯罪行為の疑いの眼が向けられては、堪ったものではないだろう。
……ただ、自分の方が代金後払い、という取引だけは喜んでする可能性はある。
店が潰れれば、そのどさくさに紛れて支払いをバックレる、ということを狙って。
商人なんか、みんな、そういうものだ。
あれ、ローディリッヒ達は、驚きの声を上げたあとは、何も言わないな……。
ま、王都の本店からの指示だと言えば、自分達の罪は少し軽くなるかもしれないけれど、そうなれば店は潰れ、自分の家族も路頭に迷うだろう。それならば、素直に自分達だけが罪を被った方が、と思うのが当たり前か。元々、それが事実なのだし……。
そもそも、実家を巻き込んだところで、大して変わらないだろうし。
子供を傷付けてはいないということから、おそらく極刑は免れるだろう。うまく言い逃れることができれば、かなり軽い刑罰で済む可能性もある。そして父親に連絡がつけば、賄賂とか政治的な工作とかで、何とかなるかもしれない。……そんなことを考えて。
実家の店が無事であれば、もし犯罪奴隷となっても、助けてもらえる。父親に労働期間の雇用権を買ってもらえばいいのだ。そして刑罰期間を終えた後も、助けてもらえる。そう期待するのも無理もない。
……勘当されて完全に縁を切られる、という可能性とかは考えてもいないのだろうな。
その辺りは家族の問題であって、私には関係ないし、知らない家庭の 絆(きずな) の強さなんて分からないから、スルー。
そして、後のことは警備兵の皆さんにお任せして、レイアを連れて帰宅。
行き先は、レイアが泊まっている宿屋ではなく、リトルシルバー。
うん、地下の司令部で、報酬を渡さなきゃなんないからね。
本当に美味しい食べ物、ってやつを……。
そう、『日本の高級スイーツと同じ見た目と味の、健康にちょっぴり良い効果のあるポーション』とかだ。
ポーションは液体のこと? いや、スイーツにも液体成分は入っているから、問題ない。別に、カラカラに乾いた干物というわけじゃないのだから。
それに、料理用語では、ポーションというのは『一部分』とか『一人前』とかいう意味だ。だから、何の問題もない。強くそう念じれば、『神様工房』の審査をパスするのだ。
……既に、レイコ、恭ちゃんと3人で何度も女子会を開き、 実戦証明(コンバット・プルーフ) 済みなので、安心だ。
いや、勿論、それ以前にも飲食物は色々と出していたけどね。
とにかく、これでローディリッヒ関連のことは一段落したから、恭ちゃんが戻ってきても大丈夫だ。
これ以降、ローディリッヒ達は、警備隊、牢、懲役代わりに働く場所以外には姿を現さないし、もしかすると王都へ送還されるかもしれない。いずれにしても、恭ちゃんと顔を合わせることはないだろう。
もし出会ったとしても、とても恭ちゃんと商人サラエットの共通点に気付けるような状態ではないだろうから、まず問題ないと考えてもいいだろう。
よし、レイアに報酬を渡したら、すぐに伝えてあげよう。
* *
「お疲れさまでした! 今回は、手伝ってくれて助かったよ。
はい、どうぞ、心ゆくまで食べてね!」
リトルシルバーに戻り、子供達に事件解決のことを知らせて安心させてやり、そして私の部屋から地下へ入って、司令部でレイアに報酬の料理とスイーツを提供した。
すると、レイアは私の方を見て……。
「ん。でも、その前に、今までの割増分と解決金の金貨を貰っておく」
くそ、忘れてないか……。
セレスもレイアも、何でも作れるくせに、『お金』は造らないのだ。
お金は、その国の信用力を具現化したものだから、食べ物や宝石を作るのとは違い、他者が造ればそれは『偽造品』、偽物だから駄目、ということらしい。
このあたりのは金の含有量で価値が決まるから、国の信用力とはあまり関係ないとは思うんだけどねぇ……。
ま、そういうわけで、私も貨幣は造らないことにしているから、金貨はちゃんと自分で稼いだやつだ。
金貨が駄目なら、宝石や金塊、つまり金のインゴットを作れば、と思っても、小娘がそんなものを換金しようとすれば、警備隊を呼ばれるならばまだマシな方で、下手をすれば、換金どころか監禁、拷問コースだからねぇ……。悪党ホイホイもいいところだ。
「お代わりOKだからね。欲しい物があれば、遠慮なく言ってね」
「ん」
まぁ、レイアが 下等生物(にんげん) 如きに遠慮するとは思っていないけどね……。