作品タイトル不明
270 商会バトル 9
「……そ、その少女は、いつもどれくらいの期間、不在になるのですかな……」
「えぇと、2~3日の時もあれば、一週間から十日くらいの時も、一ヵ月以上になる時もあるかな。
しっかりしてる子だから、別に心配する必要もないし……」
「……え……」
「「「「…………」」」」
ありゃ、お通夜状態?
ま、このままだと私達がレイアの安否を心配してローディリッヒ達の仄めかしに反応する確率はゼロだし、心配し始めるまで待っていては締め切り……王都へ戻らねばならない日数的限界……が来てしまう。
かといって、この状況でレイアの所在について仄めかしたり心配を煽ったりすれば、自分達が捕らえて監禁しています、と自白したも同然だ。さすがに、それだと警備隊に連絡されたら困ったことになるだろう。
……手詰まり。どうしようもない。
でも、これじゃ時間が無駄になるだけで、こっちも困る。なので……。
「とにかく、私達がこんな馬鹿げた条件で契約するような馬鹿だと思われているというのは、心外ですね。うちが取引しているところには、レリナス商会はこういうやり方をする商会だから気を付けるよう通達しておきます。
……事実をお知らせするだけですから、問題ありませんよね? まさか、他の者に知られては困るような恥知らずな条件での契約を要求されたわけではないでしょうから……」
「ぐっ……」
契約書にはサインしていないので、そこに記載されている『この契約の内容については、他言しないものとする』という縛りは関係ない。
いや、普通であれば当然、暗黙の了解というか、慣習というか、契約していなくてもそういうのは喋るものじゃないけれど、私達を『商売の常識を知らない馬鹿』として扱ってくれたのだから、その通り、『常識を知らない馬鹿』として行動してあげるだけだ。
常識や決まり事を守り、相手に敬意を払うのは、向こうもそうしてくれる場合だけだ。
無法者のゴロツキに、こっちだけが相手に配慮して紳士的に振る舞ってあげる必要はないよね。
ローディリッヒが何も言わないのは、こんな地方都市で、他の街に支店があるわけでもない中小の商店に多少おかしな噂が流れたところで問題ないと思っているからであろう。
ここの支店は引き払うのだから、王都に本店を構える大店、レリナス商会にとっては何の影響もない、と考えて……。
ローディリッヒは、ムーノさんの店の支店が王都にあるということを知らないだろうからねぇ。
「……邪魔をした」
おや、諦めて帰るのか……。
まあ、手詰まりだからどうしようもないか。いったん引き上げて、4人で方策を練り直すつもりなのかな。
……でも、そんな時間はないんだよねぇ……。
* *
「あ、首尾はどうでした?」
「…………」
カオルが、リトルシルバーから引き上げたローディリッヒ達の後を 尾行(つけ) ていくと、予想通り、連中が一時的な根城にしている街外れの小さなあばら屋に到着した。
行き先が支店の方向ではないと分かった時点で、目的地がここだということは予想がついていた。
行き先が分かっている尾行など、簡単である。
特に、獲物がいらいらしていて、注意力が散漫になっている場合には……。
そして、あばら屋に入ったローディリッヒ達に誘拐の実行係だったひとりが声を掛け、それを不機嫌そうな顔で無視したローディリッヒ。
(((あ~……)))
そして雇い主の様子から、どうやら計画は不首尾に終わったらしいと察した3人。
しかし、それは自分達の担当範囲外である。
自分達は、揉め事を起こすことなくうまく少女の拉致に成功し、本人に疑問を抱かせることなく、半日間の徹夜での子守りに成功している。ここまで、依頼事項は完璧にこなしているのである。
あとは、雇い主の指示で少女を解放するだけである。
今回の事は、子供好きの優しいおじさん達が、自分の意志でついてきた女の子にお菓子をたくさん食べさせてくれただけであり、事件性など皆無、ということにして……。
普通であれば、絶対に通らない理由である。
しかし、ひとりで宿屋での長期滞在をしている少女であれば、保護者がいるわけでもなく、その行動は本人が判断し決定すべきものであろう。
ならば、本人が望んでここでひと晩を過ごしたいと言えば、それを受け入れることに何の問題もない。
そう強弁できなくはない、という、強引な理由付けであった。
少女を帰した後はすぐにこの街を離れるので、『容疑者不明』ということになるため、それで問題ないと考えたのであろう。
確かに、10歳未満の少女の証言だけでは、モンタージュ写真もテレビも新聞もないこの世界では指名手配もできないであろうし、凶悪犯罪が多い世界で、子供にお菓子を食べさせただけの者に懸賞金をかけたり他の街まで捜査の手を伸ばすことなどあり得ない。
そして少女は、お菓子の味と量には文句を言ったものの、そう機嫌を損ねることなく一晩中男達と話し続けた。
……レイアにとって、相手に迷惑をかけることなく何でも聞きまくり、時間を気にせずいくらでも質問責めにできる、初めての機会であった。そのため、眠る必要のないレイアは一晩中質問を続け、かなり満足したのか、機嫌が良かったのである。
3人の男達は少々ぐったりとしていたが、これも仕事であるため、不満そうな様子はない。
というか、幼い少女のお相手という仕事は、普段の殺伐とした仕事に較べ、かなり楽しかったのかもしれない。
* *
「特に変わったことはなし。夜通し、レイアの質問責め。
あの男達、頑張って真面目に相手していたわよ。結構気のいい連中なのかも……」
「気のいい幼女誘拐犯はいないよ!」
レイコの報告に、それはない、と突っ込む私。
……そう、勿論ここへ着いてすぐ、レイコが私に近付いてきて、私をその隠蔽フィールドの圏内に入れてくれている。
なので、かなり大胆に中を覗いても、普通の音量で喋っても問題ない。
人が住んでいないあばら屋なので、覗き込む隙間には不自由しないし、中の声も丸聞こえだ。
中では、ローディリッヒ達が男達は無視してレイアを問い詰めている。
曰く、お嬢様のくせにどうしてそんなに勝手に行動するのか。
曰く、どうして護衛がいないのか。
曰く、実家の家名は何なのか。
曰く、お前はリトルシルバーの者達とどういう関係なのか。
そして、それらに対するレイアの答えは……。
「知らないわよ、そんなこと……」
確かに、家名なんかないだろうし、私達との関係と言われても、説明が難しいだろう。
護衛がいない理由とか、ひとりで自由に行動する理由とかも説明が難しいし、そもそも、そんなことを説明してやる義理もない。
しかし、子供にそう言われて、黙って引っ込むようなローディリッヒではない。
「こっ、このガキがっ!」
「あ、来た!」
ばぁん!
「動くな! 少女誘拐犯め、少しでも動けば、殺す!!」
「「「「「「「えええええええ~~っっ!!」」」」」」」
生意気な口を利いたレイアを殴ろうとして腕を振り上げたローディリッヒ。
レイアを護ろうとしてその前に割り込んだ雇われ誘拐犯。
ドアを押し開けて踏み込んだ警備兵達。
固まるローディリッヒの取り巻きと、雇われた男達。
うん、勿論、昨夜のうちに警備隊に話を付けておいた。
うちの親戚の貴族の少女が攫われたから、助けてくれ、って。
そして、色めき立つ警備兵のおじさん達を必死で宥めた。『黒幕も一緒に、一網打尽にしたいから、明日まで待ってくれ』って……。
普通であればそんなの通るわけがなく、すぐに動いただろう。
……なにせ、貴族の少女の誘拐だ。下手をすればこの街の評判が地に落ちるだけでなく、領主や治安維持の責任者とかもただじゃ済まない可能性だってある。
しかし、そこが『普段の行いによる、信用』だ。
人質だから身の安全は保証されていること、そして手柄は全て警備隊のものにするし、事件が無事解決すれば国元から送ってきた高級酒を差し入れる、と言うと、渋々ながらも了承してくれたのである。
勿論、勝手に動かれないよう、この場所を教えたのは、ついさっき。
昨夜の時点で私がここのことを知っているというのは、おかしいしね。
ローディリッヒ達がうちから引き上げ、私がそれを尾行するためリトルシルバーを出る時に、砂時計(10分用)をひっくり返した。
そしてこの砂が全部下に落ちたら、昨夜子供達に指示した通りに、渡しておいた手紙を警備隊に届けるように言っておいたのだ。
どうせ子供達は『時間調整』だとか『ゆっくり歩く』だとかの指示は守れず、全力で走るに決まってる。だから、物理的に間違いのない時間調整の手順を踏ませたわけだ。
そして丁度頃合いの時間に、地図付きの手紙を受け取った警備兵が押っ取り刀で駆け付けた、という次第。
……いや、実際には、昨夜予告しておいたのだからちゃんと準備万端だったのだろうけどね。
ま、とにかくそういうわけで、実行犯、黒幕共々、現行犯逮捕というわけだ。
うむうむ。