軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

268 商会バトル 7

……でも、まだだ。

アタリがあったからといって、慌ててすぐに合わせると、 逃が(バラ) す危険がある。

これが、またあの連中が自分達で手を出してきたのであれば、早合わせでもいい。

でも、雇われた連中の場合は、あの連中が知らぬ存ぜぬと言い張った場合、ちょっと面倒なことになる。

何せ、あの連中はこの領地の者ではなく王都民だから身柄は国王陛下のものだし、実家は 有力商家(かねもち) だから、色々とコネや人脈がある。

だから、完全にクロであり言い逃れができない状況、つまり現行犯逮捕が望ましいというわけだ。

それも、私達による『私人逮捕』ではなく、逮捕権がある第三者、つまり警備兵の手による現行犯逮捕が望ましい。

また、取り調べの時に、到底うまく説明できるとは思えないレイアの代わりに私達が証言できるよう、前もって全てを自分達の目で確かめておく必要がある。

それに、遠くから双眼鏡で、とかいうのでは、証言する時に 齟齬(そご) が発生する可能性がある。なので、しっかりと事前確認しておく必要があるのだ。

……まあ、一番の理由は、実行犯達の身に危険が迫った時に、すぐにレイアを制止できるように、ということなんだけどね。

いや、勿論、ちゃんと注意はしてある。

でも、子供というものは、蝶々を捕まえようとして、ついうっかりと握り潰してしまうものだからねぇ。……全く、何の悪気もなく……。

「もう少し接近するよ。ローディリッヒ達がいるのとは反対側から。見つからないよう気を付けて!」

「 了解(ラジャー) !」

そして、そっと接近し、物陰から見ていると……。

「お嬢ちゃん、リトルシルバーの関係者かな?」

レイアを取り囲んでいる3人組のうちのひとり、多分リーダーであろう者が、 猫撫(ねこな) で声でレイアに問い掛けた。

「……うん? そうなるのかな? あそこの者じゃないけど、お金を貰っているから……」

どうやらそれは、男達を充分満足させる回答だったらしい。

「じゃあ、ちょっとおじさん達と一緒に来てくれないかな?」

「うん、いいよ」

「「「…………」」」

まさか本当に了承されるとは思ってもいなかったらしく、驚いたような顔で絶句した男達であるが、少し頭が弱いのかな、とでも思ったのか、慌てて言葉を続けた。

「じゃあ、こっちに……。すごく美味しいお菓子もあるよ」

「……楽しみ」

レイアが素直についていくのは、勿論私からの依頼だということもあるけれど、本当のところは、『面白そうだから』だろう。

美味しいものと面白そうなことを楽しむために、分岐元の指示に反さないぎりぎりのところを攻めてこの世界を 楽しんで(エンジョイして) いる、レイア。

勿論、この件は私からより多くの金貨を巻き上げて飲食と娯楽にお金を注ぎ込めるということと、この件そのものを楽しめるという、一挙両得の美味しい依頼だと思っているのだろう。

いや、更にそれに加えて、私に恩が売れる、ということも……。

ま、こっちも助かるのは確かだ。

少なくとも、子供達を少しでも危険に晒すことなくこういう手段が使えるのは、レイアがいるからこそ、だ。

そうでなきゃ、もっと 暴力(ちょくせつ) 的な手段を選ぶしかなかったかもしれない。

人間、助け合いが肝心。

……レイアは人間じゃないけどね。

ま、小さいことは気にしない!

* *

「連れてきたぜ!」

男達がレイアを案内したのは、街外れの小さなあばら屋。

さすがに、商会の支店に連れていくほどの馬鹿ではなかったようである。

そして、拉致の成功を見届けた後、先にここへ戻っていたらしいローディリッヒ達は、覆面で顔を隠している。

勿論、顔を腫れ上がらせた4人の男がいた、などと後で証言されたら困るからであろう。

まあ、もしも顔に怪我をしていなかったとしても、顔は隠していたであろうが……。

とにかく、レイアに素顔を見せないということは、レイアをちゃんと帰すということであり、すなわち無用な怪我を負わせたりする気はない、ということだ。

……いや、何をされても怪我をすることはないと思うけどね、レイアは……。

レイアを連れてきた3人の方は、この街の者ではないであろうから、別に10歳前後の子供に顔を見られたからといって、特に問題はないであろう。

仕事を終えてこの街を出れば、二度とこの子供と会うことはない。

そもそも、自分達が覆面で顔を隠していては、さすがに子供をここへ連れて来ることはできなかったであろう……。

そして私とレイコは、レイコの『なんちゃって魔法』によって姿を隠し、歪んで隙間ができている木窓から中を窺っているわけだ。

ガラスなんかないから、声もよく聞こえる。

「よくやった!

ようこそ、お嬢ちゃん。明日の夕方まで、ここでゆっくり遊んでいていいからね。

この3人が遊び相手になってくれるから、お馬さんになれとか、貴族のお嬢様と下僕ごっことか、何でも命令していいからね!」

3人の男達が、おいおい、と苦笑いしているが、それも依頼内容に含まれていたのか、別に嫌がる様子はなかった。

おそらく、解放後にレイアに『知らないおじさん達に遊んでもらっていただけ』と証言させるため、こういう待遇なのであろう。

そしてリトルシルバー側には、『あのお嬢さん、無事に見つかればいいですねぇ……』とか言って、レイアの身柄を確保していることを 仄(ほの) めかしながらも、自分達は関係ない、というポーズを取り、しっかり脅迫する、という……。

そして、自分達に都合の良い契約書へのサインを要求するわけだ。

レリナス商会は、一応は、普通の商家だ。別に、犯罪組織だというわけじゃない。

なので、本気で子供を傷付けようなどとは考えていないのだろう。

言うことを聞かずに抵抗されて、ついカッとなってビンタ、くらいはあるかもしれないけれど。

……まぁ、レイアならそういうこともないか。

不満を述べることはあっても、暴れたり騒いだりするような子じゃないから。

……というか、本当に怒ったり不愉快に思ったりすれば、……まぁ、即座に終わるだろうから。

あの連中の人生が。

「……すごく美味しいお菓子は?」

あ、レイアが約束の履行を要求している。

まぁ、今回のレイアの目的の3分の1だからね、それが。

あとは、私からの依頼だということが3分の1、自分の楽しみが3分の1だ。

こういうのに巻き込まれるのは初めてだろうからね。娯楽のつもりなんだろう、多分……。

「はいはい、ちゃんと用意してあるよ」

そう言って、レイアを連れてきた3人組のひとりが、お菓子が入った木椀を持ってきたが……。

「……約束が違う。それは安物のあまり美味しくないやつ。『すごく美味しいお菓子』というのは、最低でもマルク屋の焼き菓子、ネーヴォル堂の練り菓子、エルト商店の果実菓子、ブルグ軽食店の甘味レベルを指す。……これは、鳥の餌」

あ。表情は変わらないけれど、レイアが怒っている。……ヤバいぞ、これは……。

「こっ、この……。これでも、庶民の子供にとっちゃあ、貴重品なんだよっ! それなりの値はするんだよ!

それに、今お前が挙げたやつ、このあたりの街でトップクラスのやつばかりじゃねぇか、味も値段も!

そもそも、そんなお高い上品なやつばかり喰ってちゃ、面白くないだろうが!

こういうのは、チープなやつも楽しんでこそ、世界が広がるってもんなんだよ!

こういうのにも、それなりの旨さ、それなりの味わいってもんがあるんだよ!

お前はいつも高いやつばかり喰ってるだろうから、こういう機会には庶民がたまにしか喰えねぇ菓子を味わって、社会勉強すればいいんだよっ!!」

ありゃ、頭ごなしに怒鳴るかと思ったら、正論で来たよ……。

お菓子の用意を担当したらしき男にそう 捲(まく) し立てられて、レイアが黙り込んでいる。

……ヤバいか? 予定を変更して、介入してレイアを止めるべきか? 大惨事を防ぐために……。

「……一理ある。その主張を理解して納得したので、今日のところは安物で我慢する。

但し、充分な量を要求する……」

「……お、おう……。分かりゃ、いいんだよ……」

どひゃ~!

あのチンピラ、食べ物には妥協しない、あのレイアを納得させやがったよ!

……すごいものを見た……。