作品タイトル不明
267 商会バトル 6
レイアは、しょっちゅう街をうろついている。
美味しいものと楽しいことを探し求めているのだから、宿に閉じ籠もっているわけがない。
陽が落ちて暗くなりかけた時刻にも平気でうろつくし、 人気(ひとけ) のない路地裏とかにも平気で入り込む。時々、街を離れることもある。
ま、心配する必要はないから、私達はあまり気にしていないけどね。
レイアが リトルシルバー(うち) の関係者だということは街のチンピラ達には知れ渡っているし、うちは領主様のお気に入りだということも、うちの関係者に手出しした者達の末路も、みんなが知っている。
それに、孤児のために尽力する者や、その関係者に手出しするチンピラは、あまりいない。
孤児というのは、彼らにとっては『いつか来た道』であり、自分の子供達が『いつか行く道』であるかもしれないのだから。
ま、そもそも、人間に襲われてどうこうされるような生物じゃないからね、レイアは……。
そういうわけで、『夜釣り』は、別に何か変わったことをする必要はない。餌も仕掛けも、いつものままで。
支店の従業員に、レイアがうちにとって大事な人物であるという情報を それとなく(・・・・・) 伝えてやるだけでいい。間接的に……。
それは嘘じゃないし、裏を取るために調査しても、宿の人達も、街の人達もそれを裏付ける話しかしないだろう。
そうすれば、その話がローディリッヒに伝わり、ま、色々と画策することだろう。
孤児……、いや、 元孤児(・・・) 達は危険だと判断して、無力そうで明らかに身分が高そうに見えるレイアなら簡単に確保できると考えて……。
* *
さすがに、ローディリッヒ達はすぐに行動に移すことはなかった。
まあ、顔がボコボコの男4人が一緒に行動していたら目立つし、目撃者にチラリとでも見られればアウトだ。
それに、暴れる子供が振り回した手が顔に当たれば、一発で悶絶モノだろう。
さすがに、次も自分達でやるとは思えない。
支店の撤退は商会主の意向なのでもう決定事項らしいけど(王都から来た番頭さんが、ムーノさんに教えてくれた)、ローディリッヒ達は王都への帰還を引き延ばしているらしい。
まあ、今までのお得意さんへの挨拶やフォロー(別の取引先への紹介とか)をすると言えば、派遣された番頭さんも無下にはできないのだろう。
……実際には、顧客は全てムーノさんのところに移っているから、そんな心配は必要ないんだけどね。
さっさと諦めて王都に引き上げてくれればよかったのに……。
ま、ここの特産物を王都の本店が直接買い入れるルートを確立すれば、手柄になるとでも考えているんだろうな。
そうすれば、『支店を介さず、直接王都の本店が仕入れることができるようにした。なので支店を置く必要がなくなり、経費の大幅削減に成功した!』とか言えちゃうかもしれないよね。
そうすれば、大失点どころか、一転、大手柄だ。
……うまくいけば、だけどね……。
とにかく、そういうわけで数日間は平穏に過ぎ去ったのだけど、あまり長引いても困る。
子供達だけで街に配達に行かせられないし、勿論、遊ぶのもうちの敷地内限定になる。
子供達への制限もだけど、私とレイコも配達に行く子供達に付き添わなきゃならない。
……というか、それなら私かレイコだけが行けばいいじゃん、ってことになるけれど、そういうわけにもいかないのだ。
子供達が、絶対に許容しないからね、そんなこと。
自分達のせいで、私とレイコが子供達の代わりに配達するなんて、絶対に許せないらしい。
自分達の存在意義を脅かされるとでも思ってるのかねぇ……。
とにかく、私達が付き添うことを子供達が負担に思っているらしく、みんなの顔色が良くない。
私達も、時間を取られるのはありがたくないし……。
それに、早く決着が付かないと、レイアに依頼料として渡す『割増し手当』の支払いが延々と続くのだ。
いつもと変わらない行動を取っているだけなのに、『依頼任務中は手当を払い続けてもらう』と言いやがったのだ、1件当たりの請負仕事ではなく。
この件が長引くことを読んでいやがったな。
……失敗した!!
* *
更に数日が経ち……。
「お、来た来た……」
もう、そろそろ暗くなってきた頃。
……そう、良い子はとっくに家に帰っている時間だ。
私は、ここのところずっと、眼鏡を掛けている。
概ね、朝方から、レイアが夕方か夜に宿に戻って、もうその日の外出はないな、と分かるまで。
勿論、掛けているのは普通の眼鏡じゃない。
あの、中隊長さんの宝探しでデビューした、探索眼鏡の『サーチャー』である。
流行り病の原因調査でも活躍し、その後『温センサー』と名を変えて、温泉の探索にも使った。
……近場の新しい温泉は発見できなかったけどね。
それを、探索対象をレイアとあの四人組にセットしてあるのだ。
いや、いくら何でも、レイアひとりに丸投げはしないよ。
……主に、犯人達の生命の安全と、街の人達や建物とかの被害、バレてはいけないことの露見とかを防ぐという理由によって。
連中に雇われた者は、さすがに探知できない。
そりゃ、いくら何でも、『レイアに害意を持っている者』なんて指定の仕方ができるわけがない。
でも、予め『この人間』と指定しておけば、どうやって識別するのかは分からないけれど、探知範囲内であればマーカーが出る。
多分、生体電流の波形や周波数とか、脳波とか、オーラとか、何かそういうもので識別しているのだろう。神のように進化した生命体の技術なんだから、深く考えても仕方ない。
ことに及ぶ時には連中も動くだろうから、連中を示すマーカーが外出中のレイアに接近したら、私達も動くことになっている。……私とレイコが、ね。
レイアが泊まっているのは高級宿だし、宿の人には私からチップを 弾(はず) んで色々とお願いしてあるから、宿の中では心配することはない。
……そして今、宿の外を移動しているレイアを示す青いマーカーに、4つの赤いマーカーが接近している。
「赤色マーカー4つ、高速接近中。 要撃機(インターセプター) 、直ちに発進!!」
「 了解(ラジャー) ! ミーネとイリーは、みんなを指揮して リトルシルバー(ここ) の防衛!」
「「はいっ!」」
私からの『敵、発見』の報告を受けたレイコの指示に、元気に答えるミーネとイリー。
ミーネは9歳、イリーは10歳だけど、孤児院時代はともかく、今はミーネの方が リトルシルバー(ここ) では先輩だ。
それに、ミーネの方が図太く、割り切りが早い。
なので、私達が不在の時の指揮はミーネに任せ、イリーがその補佐に就く。
軍隊でも一般社会でも、上下関係に年齢なんか関係ない。一に階級・役職、二に序列。三に年数、四に能力。
そしてミーネは、この中でただひとり、 新兵(ひよっこ) を連れて敵中突破、ここまで独力で辿り着いた古参兵だ。私達の留守を任せるのに、何の心配もない。
まあ、今一番危険な奴のところに私達が出向くわけだから、ここが襲われる確率はほぼゼロだけどね。
「よし、出撃!」
* *
「あれ? 近付かないなぁ……」
4つの赤いマーカーは、ある程度レイアの青いマーカーに近付いたところで停止していた。
「タイミングを計っているのか、それとも……」
もう辺りはかなり暗くなっているけれど、もうすぐレイアを視認できる。
しかしそれは、 レイアの近くにいる者(・・・・・・・・・・) からもこちらを視認(・・・・・・・・・) できる(・・・) ということだ。
私達が把握していない、何者かからも……。
「あ!」
「どうしたの?」
「あ、いや、その、……何でもない!」
いかん、ボケてた!
今はもう暗くなっていて、人通りは殆どない。
そして私達は既にレイアのすぐ近くにいる。
……ならば、サーチャーにレイアとあの連中だけでなく、 全ての人間(・・・・・) を映し出せばいいじゃん!
もう、この狭い範囲には 関係者(・・・) 以外の者はほぼいないんだから。
昼間の大通りの雑踏とかだと人間のマーカーで埋め尽くされて役に立たないけれど、今、レイアを中心とした半径50メートル圏内の路上に、何人の人間がいるっていうんだよ……。
そして、サーチャーの探索対象を変更すると……。
「居た~!!」
レイアを囲むように、3つの人間の反応が……。