軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

258 思わぬ敵 4

「では、予定通り、私は 早急(さっきゅう) に王都へと向かいます」

うん、ムーノさんには、王都で支店を立ち上げてもらわなきゃならない。

ターヴォラス商会王都支店をね。

本店は、あくまでもこの街だ。

それに、ムーノさんにはレリナス商会に顔を出して正式に退職届けを出してもらわなきゃならない。

あの次男坊が勝手に自分にとって都合のいい報告をした場合、ムーノさん達がレリナス商会に対して不義理をした、というような話になると困るからね。

ちゃんと、次男坊が許容できない命令を出して一方的にクビにした、ということを商会主と他の王都の商店に広めなくちゃならないからね。

ターヴォラス商会は義理に 篤(あつ) く約束を守る商会だという評判を守らなきゃならないから。

そして、支店が軌道に乗れば、あとは支店長とその補佐……ここでムーノさんを支えていた3人のうちのふたり……に任せて、ムーノさんはここへ戻って、本店を取り仕切る。

勿論、レリナス商会に卸していた分のうちの商品は全て、ムーノさんのお店に回す。

そして新支店長の、『領主様の信頼を得ていた元支店長を勝手にヒラの従業員に落とした上でクビにして、その挙げ句、領主様の信用を得られず御不興を買い、全ての取引を打ち切られた愚かで無能な男』という噂がこの街中に広まり、当然ながらその噂はすぐに王都にも届いて広まるだろう。

……うん、 なぜか(・・・) 、 すごい早さで(・・・・・・) ……。

* *

「ただ~」

「おか~」

レイコが帰還。

「異状は?」

「特になし。

あ、レリナス商会が敵対したから、ここの支店を潰すよ。後釜はムーノさんが興した新興商家。

うちが資金援助した。ムーノさんは今、王都支店を立ち上げるべく、王都中心部へ殴り込み中」

「ああ、そう……、って、どこが『特になし』じゃい!」

レイコが突っ込むが、ま、いつものことだ。

「で、レリナス商会の支店の状況は?」

「従業員の7割が退職、その大半はムーノさんのお店に移籍。残ったのは移籍のお声掛けをしなかった『お荷物』と、新興商家は先行きが不安だと思った家族持ちや、上がごっそり抜けたから自分がその後釜になって出世できると考えた馬鹿達。

いくら役職が上がっても、本当に働いていた従業員が7割も抜けて、店がやっていけるとでも思ってるのかねえ……。

まともな連中がこれだけごっそり辞めてカスばかり残った先のない店に、新規に就職しようなんて考える者が、果たしてどれだけいることか……。

おまけに、新しい支店長や上層部は、領主様が全く相手にしていないと来た。

地方都市ってのは、噂が広まるのが早いからねえ。

新支店長が必死になって領主様に面会しようとしているけれど、『領主様は、紹介者もなしで飛び込み営業に来た面識のない商人になどお会いにならぬ』と言われて門前払い。

新支店長がいくら自分は領主様と取引のあるレリナス商会の新支店長だと言い募っても、『領主様が取引していたのはムーノという名の商人であり、その取引は今も続いておる。ローディリッヒなどという商人は知らぬ』と、けんもほろろ」

「あ~……」

「そして、取次ぎをさせようとしてムーノさんを捜したけれど、ムーノさんは当然ながら支店内の居住区はとっくに引き払ってるし、街を捜しても姿がない。

……勿論、ムーノさんの家財道具は新たに用意したムーノさんの店、『ターヴォラス商会』本店の商会主居住区に運んでるし、ムーノさんはとっくに王都へ向かってるんだけどね。

ま、もしムーノさんを捕まえることができたとしても、既にクビにされた昔の勤め先のために働く義理はないしね。それも、自分達を一方的にクビにした元上司のためになんか……。

引き継ぎもしないうちにクビにした方が悪い!」

「あ~」

レイコは、呆れたような顔をしている。

でも、こういうやり方は、レイコが得意としていることじゃん!

私はただ、学生時代にそれを何度も見せられて覚えただけだ。

「とにかく、ムーノさんの店は商店主不在だけど、従業員達にとっては店の場所と名前が変わっただけでやることは今までと同じだから、普通に仕事をしてるよ。

それに対してレリナス商会の方は実戦力の大半が抜けて、残ったのの大半は使えない連中だし。

唯一頼りになる『妻子を抱えて冒険はしたくなかったというだけの、普通の従業員達』も、頼れる上司や使える部下がごっそりいなくなって、しかも取引先をそのまま持って行かれたんじゃあ、大混乱だろうからなぁ……」

うん、問題、ないない!

* *

「お久し振りでございます……」

「うむ、久しいな。

……で、お前はどうして今、ここにいるのだ? 今は、ローディリッヒに支店長としての業務の引き継ぎと、新支店長であるローディリッヒの補佐をしておるはずであろう……」

王都に到着したムーノは、連れであるふたりの部下……『ターヴォラス商会王都支店』の支店長と、副支店長になる者……を連れて、レリナス商会王都本店を訪れていた。

商会長であるドレインに挨拶するためである。

「はい、私共、王都本店から派遣されました4名は、新支店長であるローディリッヒ様にヒラの従業員に降格されました後に、クビを言い渡されました。

ですので、そのことを旦那様に御報告すると共に、御挨拶にと……」

「な、何!」

ドレインは、眼を見開いた。

さすがに、少し驚いたようである。

数年前にムーノ達を地方都市の支店へと送り込んだが、別にムーノ達に思うところがあったわけではない。

一般従業員は現地雇用で構わないが、支店長とその直属の部下となる者は本店から派遣せねばならず、誰かを送らねばならなかったに過ぎない。

そして、次男の味方となる者は本店に置いておきたかったし、長男派の者を地方に遣るのも不満の種になりそうであるし、自分の目が届かない支店で色々と画策されるのも困る。

なので、後継者争いなどには全く興味を持たず、中立であり真面目で信用の置けるムーノは、恰好の支店長要員だったのである。

悪事は嫌いらしいムーノは本店では少し使いづらいが、支店であればそれも問題ない。

ドレインは、正直で真面目なムーノを、決して嫌っていたわけではないのである。

「…………」

ローディリッヒにとって役に立つ、『使えるコマ』であるはずのムーノを、なぜローディリッヒがクビにしたのか、分からない。

だが、支店長としてローディリッヒが行った人事に対して、事情も確認せずに自分がそれを否定し取り消したのでは、ローディリッヒの顔に泥を塗ることになり、それは即ち、ローディリッヒが支店長として無能を晒したということになる。

……それはできない。

そんなことをすれば、ローディリッヒが長男ラサルより有能である、と皆に見せつけることができない。

おそらく、上層部は自分が連れて行った取り巻き達で占めるつもりなのであろう。

そう考え、最善手ではないものの、次男ローディリッヒのやり方を敢えて変えさせることもないであろうと判断した、ドレイン。

「……済まんな。支店のことに関しては、ローディリッヒに全権を委任しておる。

ムーノ達の今までの働きには充分満足しておったが、支店長が行う従業員の人事に関しては、儂がどうこう言う立場にはないのだ……」

さすがに、少し罪悪感があるらしく、歯切れの悪いドレイン。

そして、ムーノはその隙に食らい付いた。

「旦那様、長らくお世話になりました。

そして、お別れに際しまして、ひとつお願いがございます」

「ん? 何だ、申してみよ」

少し警戒したものの、ムーノは決して無茶を言うような者ではない。なので、先を促すドレイン。

「はい、私共はこの後、新しい仕事を探さねばなりません。その時に『大店をクビになるとは、何かしでかしたのではないのか』と思われますと、とても困ります。

そこで、旦那様に『この者達は店の都合で 暇(いとま) を取らせた。決して問題を起こしてのことではない』と一筆書いていただければ、と……」

「む……」

確かに、ムーノ達に非はない。

そして、真面目で誠実な者達である。

そして何より、今回はローディリッヒの方に非がある。

このまま冷たくあしらうと、ローディリッヒの悪評が立つ可能性がある。

それならば、それくらい書いてやっても構うまい。

書付ひとつで感謝が得られるならば、安いものである。

そう考えたドレインは、大きく頷いた。

「良かろう。長年忠義を尽くしてくれたのだ、それくらいのことであれば、任せるがよい」

その言葉に、ムーノ達は頭を下げた。口の 端(は) が歪むのを隠すかのように。

(((計画通り……)))