作品タイトル不明
251 再出撃 6
孤児院を訪れてから数日後。
恭子は、面接の結果、孤児院からの通いとして雇うふたりは12歳と13歳の女の子にした。
欧米系の人種に近いここの少女達は、12~13歳で身長が160センチ近くあり、同年齢の日本人に較べて5センチくらい高い。これは、日本の成人女性とほぼ同じである。
日本人は全般的に童顔であるため、このふたりは恭子には身長的にも容貌的にも高校生か大学生くらいに見えるので、働かせることには何らの良心の 呵責(かしゃく) を覚えることもない。
そもそも、普通の家庭の子供であれば、自宅からの通いで働いている者が多い年齢である。
さすがに、独立してひとり暮らしというには少し早い年齢であるが……。
ふたりとも女の子にしたのは、やはり販売業であることと、女の子同士の方が暇な時の話し相手として色々と話しやすいと思ったからである。
……思春期の男の子は、色々と扱いづらい。
防犯の方は、ふたりには防犯ブザーと防犯スプレー、 護身用ボールペン(タクティカルペン) 等を持たせ、店には大音量の警報ベル、出入り口やカウンターに鉄格子が下りる仕掛け等、色々と用意する予定であった。
* *
「仕事の内容は今説明したとおりだけど、大丈夫そう?」
「「はいっ!」」
孤児院の子供にとって、こんな話は千載一遇のチャンスである。見逃したり駄目にしたりする者はいない。何があろうと食らい付くに決まっている。
自分の将来だけではない。自分の成功が、あるいは失敗が、後輩達や院長先生の未来を左右するのである。たとえ自分の命を犠牲にしてでも、必ず雇い主に『孤児院の子供を雇って良かった』、『次も孤児院の子供を雇おう』と思わせなければならない。
そのためならば、押し込み盗賊に襲われた時にはひとり一殺。必ず賊を倒し、お店の売上金を守り抜かねばならない。孤児院のみんなのために……。
そう考え、悲壮な決意を固めていたふたりであるが……。
「で、もし強盗や盗賊に襲われたら、言われた通りにレジのお金を全部渡してね」
「「え?」」
「犯人は後で必ず捕まえて自分の罪を思い知らせてやるから、別にその場で捕らえる必要はないよ。
お金は取り戻せばいいし、もし取り戻せなくても、また稼げばいいだけのことだからね。
それよりも、 端金(はしたがね) を惜しんで大切な従業員を失う方が、お店にとってはずっと被害が大きいからねぇ」
「「えええええええ?」」
そして引き続き説明される、防犯グッズと防犯システムの使い方。
「「ま、魔法使い……」」
動揺する、店員になったばかりのふたりの子供。
「……そして、もし汚職や店の情報を売ったり、商品の横流しをしたりして私とお店を裏切ったら、孤児院の信用が地に落ちて、後輩達が……」
「「あ、それは大丈夫です!」」
ふたりは、急に落ち着きを取り戻した。
「え?」
そこは、とっくに覚悟完了している。
どうやら自分達にとって当たり前の、常識の範疇の話題になったため、ホッとしたようであった……。
* *
「恭子の方は、順調みたいね」
「うん。裏切る確率が低い店員の確保とお店の 近代化改装(艦の設備の移設) は終わって、あとは売り場に商品を並べるだけ、って言ってたし……」
先程、通信機で恭ちゃんと連絡を取ったばかりだ。
「売り物は、『 リトルシルバー(うち) 』で作ったものと恭ちゃんの母艦で作ったもの、そしてレイコが狩ったやつに、遠くの国で仕入れてきたもの。ま、原価率の異常な低さから、競合店に負ける心配はないよね。
心配があるとすれば……」
「うん、仕入れルートを狙って。あるいは恭子自身を狙って。馬鹿が手出しするかもしれない、ってことね。その場合、私達が守らなきゃならないかも……」
私の心配に、レイコも同意した。
「「手出ししてきた犯人の、身の安全を……」」
ま、今考えても仕方ない。
恭ちゃんには、何かあれば絶対に私達に連絡するよう、何度も言い含めてある。
……絶対に、自分ひとりで対処しようとするな、って……。
「私達の方は、あまり立て続けにやるのはアレだから、ちょっと間をあけて熟成させるか……」
ある程度のことはやったから、あとはそれぞれの噂が広まり絡み合い、尾ひれが付いて熟成されるのを待つのがいいだろう。あまり性急にやり過ぎるのは良くない。
それに、『出張』は、『 リトルシルバー(うち) 』に外圧が掛かった時に外部から援護するための仕掛け、防衛装置だ。そっちにばかりかまけて、ここの活動をおろそかにしたのでは本末転倒だ。
立ち上げは 上手(うま) くいっているから、あとは焦らずゆっくりと進めればいい。
いくら何でも、僅かな期間に3箇所で異質な少女達が、というのでは、さすがに目立ちすぎる。そうなれば、その共通点を疑われるのは明白だ。
なので、後はのんびりじっくり、時々活動する、ってことでいい。
……但し、活動時には少し目立つように、だ。 少し(・・) 、ね。
「とりあえず、孤児回収の件で繋ぎが取れた領主様と、裏の仕事での取り引きがある中規模商家の商会主さん、そして 大店(おおだな) の支店長さん達と懇親会、かなぁ……。
当初の目的である、『簡単に食い物にされることがない、そこそこの自衛能力……私とレイコの個人的な戦闘力という意味ではなく、立場的な……を手に入れること』というのを進めて、『 リトルシルバー(うち) 』が少々やらかしても大丈夫な状態にすれば、少し 強気な(おかしい) 商品も出せるようになるし……」
あ、招く大店は、王都に本店があり、この街に支店がある、ひとつの商家だけだ。
ここは地方都市に過ぎないから、こういう街には大店の支店はだいたいひとつしかないらしい。
たくさんの大店の支店があっても客の奪い合いになるだけなので、お互いに支店を出す街を分けているらしいのだ。だから、大店の支店ひとつ、中規模の商家がいくつか、そしてあとは店1軒だけの小規模~零細商店になる。
『 リトルシルバー(うち) 』の表の商売、つまり子供達が細々と作っている商品の卸先は個人経営の小さな商店とか居酒屋、飯屋とかだけど、懇親会に招くのはそっちじゃなくて、香辛料とかの『裏の商売』関係だからね。
そして、いくら『 リトルシルバー(うち) 』が税金免除にしてもらっているとはいえ、明らかに慈善事業の域を超えた商売をするとなると、やはり領主様には筋を通しておかなきゃなんないだろう。今までの『3軒の中規模商家と、こっそり取り引き』の時はともかく、今以上に手を広げるとなると隠し通すのは無理だし、後でバレると問題になりそうだ。
そして、領主様はそう悪い人じゃなさそうだし。
……貴族としては。
私、レイコ、恭ちゃん、そして5人の子供達。
今のままでも、私達の生活は何とかなる。昔の蓄えを切り崩さなくても、『 リトルシルバー(うち) 』の表の仕事だけで何とか食べてはいける。贅沢はできないけど。
でも、それにレイコのハンターとしての稼ぎや、恭ちゃんのお店の稼ぎを加えれば、 私(エディス) の慈善活動分の経費を引いても、裏の商売抜きでかなりの贅沢ができる。
……お金の出所を疑われるから、この街で派手に使うことはできないけれど。
ならば、高額の買い物や贅沢な遊びは他の街でして、ここではそこそこの生活をすれば?
そうすれば、おかしなのに纏わり付かれることもないだろうし、落ち着いた生活ができるだろう。
ここで、みんなでのんびりとした生活が……。
でも、それじゃ、面白くない。
せっかくセレスがくれた ポーション(チート) 能力と新しい人生なんだから。
そして、少しはこの世界の人々のために役立ちたい。
……主に、孤児達のために。
それに、引き籠もって静かに暮らすのは、老後になってからで充分だ。
レイコと恭ちゃんは、前世での晩年は身体の自由が利かなくなってからかなり長い日々を過ごしたらしいから、そういうのには飽き飽きしているらしいし……。
なので、かなり安全だけどやりたいこともできず退屈でつまらない人生よりも、多少危険が増しても楽しくてやりたいことができる人生の方がいい。人生、一度限り……じゃなかったか、私達は。
でも、まあ、そんな感じだ。
失敗しても、生きてさえいれば逃げ出して遠くの国でやり直せる。いざとなれば、恭ちゃんの船で別の大陸に行くという手もある。
だから、失敗を恐れず、色々と自由にやってみよう。
「じゃ、恭ちゃんがいない間に、懇親会をやっちゃおうか」
「 了解(ラジャー) !」
うん、別に恭ちゃんがいると危険だから、というわけじゃない。
せっかく恭ちゃんが帰っている時には、雑事で時間を無駄にすることなく、みんなで一緒にいたいからね。
……多分、そう。
きっと、そう……。