作品タイトル不明
250 再出撃 5
(やっぱり、店を任せるのだから、信用できて気が合って、能力があっていい人で、やる気があって無職で暇そうにしている人……、って、いないよ! そんな人はいないし、もし能力や性格が条件に合った人がいても、そんな人が無職で暇そうにしていたりしないよっ!)
自宅(おみせ) への帰り道……。
恭子は、昔、カオルに『恭ちゃん、安くて美味しくて居心地良くていつも 空(す) いているお店、知らない?』と聞かれて、『ないよ! そんなお店はないし、いいお店がどうしていつも空いているのよ! そもそも、いつも空いていたらお店が潰れちゃうでしょうが!!』と怒鳴ったことを思い出していた。
あの時は、カオルのことを『何、自分に都合のいいことを考えてるんだか……。お店の立場も考えなさいよ!』とか思っていた恭子であるが、まさか自分も同じようなことを求めるとは、と、自分はカオルとは違って常識人かつ良識派だと思っていた恭子は少しダメージを受けていた。
実はカオルとレイコもそれぞれ、『この3人の中で、自分が一番の常識人だ』と思っていることなど知らずに……。
「とにかく、店員が必要だし、口入れ屋には希望する人材はいない。商業ギルドに仲介を頼むと、他の商店からのスパイとか乗っ取りを企む大店の次男、三男とかが送り込まれてくる確率が高い。
となると……」
声に出してそう言い、ぐっ、と両手の拳を握り締める恭子。
「自分で探すしかない!」
しかし、そうは言っても、他の店から良い人材を引き抜けるはずがない。
なので……。
「よし、孤児院に行こう!」
人材に困ったら、孤児。
カオルから聞いた『第一シーズン』における『女神の眼』とか、旅の途中に長期滞在した街で時々雇っていたという孤児達の話から、恭子が短絡的にそう考えてしまうのは、仕方のないことであった。
……そう、レイコと同じように……。
やはり、この3人は『似た者同士』なのであった。
そして恭子は、そのまま孤児院へと向かった。
「読み書きと計算ができる子をふたり、ください!」
そして、院長先生と、お手伝いのおばさんふたり……ボランティアではなく、雇われらしい……に簡単な要望を伝えたところ……。
「「「喜んでええええぇっっ!!」」」
ふたつ返事で了承されたのであった。
* *
「では、店員がふたり、ということですか?」
「はい、とりあえず、それで考えています。開店後の状況によっては、変更する可能性もありますが……」
恭子の詳細説明に眼を輝かせて確認の質問をする院長先生に、そう答える恭子。
孤児院は、5歳くらいになった子には読み書きと計算、代表的な職業の内容や社会の仕組み、常識等を教え始める。少しでも子供達がより良き人生を歩めるようにと……。
『5歳 くらい(・・・) 』というのは、生年月日が不明である子が多いからである。そういう子の年齢は、院長先生がカンで決める。誕生日は、この孤児院に来た日である。
つまり、恭子が求める人材の最低条件である『読み書きと計算ができる者』という条件は、ここの年長者であれば全員がクリアできるということである。
孤児が、新規開店の商店に基幹要員として雇用される。清掃員や使い走りではなく……。
それも、雇用される店員2名、両方が!
そんなことは今まで聞いたことがなく、そしてこれ以降も耳にすることなどあり得ない。
……もし、今回の雇用が経営者に満足してもらえる結果となり、その事実が広くこの街に、この国に、そして周辺諸国に広まった場合を除いて……。
くわっ!!
院長先生と、お手伝いのおばさん達の眼が大きく見開かれた。
「「「よろしくお願いいたしますっっ!!」」」
* *
「これで、このあたりの子はだいたい集まったかな?」
「ああ。頼まれた通り、この街のグループ全部と、ソロの大半には声を掛けた。来ていないのは、ソロのごく一部と、各グループの年少の奴らとその世話をしている留守番役の数名だけだ」
恭子から『食べ物を配ってやるから、この街の浮浪児全員を河原に集めて欲しい。但し、幼い子とその世話役は来なくていい。その分の食べ物は各リーダーに持って帰らせる。過大申告は厳罰!』との依頼を受けた12~13歳くらいの『河原組』のリーダーである少年は、そう言って胸を張った。
どうやら、この街の浮浪児達全てに顔が利くのは自分だけだ、と自慢しているようである。
ソロというのは、グループを形成せず、一匹狼として暮らしている者のことであるらしい。
ソロは気難しい者が多いらしく、さすがにそれらの者にはこの少年も大した影響力を持たないようである。
河原や廃屋に住み着いている者は、正確には『ホームレスの孤児』であり、特定の寝床を持たない『浮浪児』とは異なるが、カオルが孤児院の子供達と区別するために『浮浪児』と言っているため、レイコと恭子もそれに 倣(なら) っている。
河原組のリーダーが恭子の指示に従ってくれたのは、恭子が『前払い』として河原組のメンバー全員に腹一杯喰わせてやったことと、この街の浮浪児達を招集することに対して銀貨3枚の報酬を与えたからである。……勿論、こちらも前払いである。
銀貨3枚といえば、野菜が安いこの国では大根が30本買える金額である。
そしてそれは、河原に住む子供達が一週間生きていけることを意味していた。
恭子が孤児院の子は店員のふたりしか雇わず、雑用には浮浪児達を使おうとしたのには、勿論理由がある。
孤児院の子供達には、孤児院での生活がある。勉強とか、家庭菜園とか……。
なので、いつ雑用があるか分からないのにお店の周りで待機していたりはできないし、大勢の孤児達を外で働かせるというのは、孤児院としては 体裁(ていさい) が悪い。
年長者ふたりくらいであれば、経営が苦しいからだとか、孤児院を出る日が近いから独立のための資金稼ぎだとか、そして独立後の就職先に先行勤務しているだとか、いくらでも言い分は立つ。
本当は、孤児院としてはこの機にふたりを独立させて、お店に住み込みで働かせてもらえればと考えていたのであるが、残念ながらお店には部屋数に余裕がなく、また恭子が秘密漏洩を心配したため、孤児院からの通いということになっている。
その内、ふたり共同で格安の貸間でも借りて、孤児院を出て本当に独立する日が来ることであろう。
ふたり出れば、またふたりの孤児が孤児院に入れる。今回雇われるふたりも、そうして孤児院に入れたのであるから……。
そして恭子が雑用には浮浪児を使おうとした理由は、もうひとつあった。
それは、孤児院の子供達は、少なくとも飢えて死ぬことはないからであった。
それに対して浮浪児達は、餓えや病気で簡単に死ぬ。
どちらに仕事を振ってやりたいかというと、まあ、人の 好(よ) い恭子であれば聞くまでもない。
ただ、正規の店員として雇うふたりは、読み書き計算、信用度、そして身綺麗にしてもらわねばならない必要性とかから、浮浪児では少し困るという事情があった。
それに、浮浪児が店番をしていたのでは、余計なトラブルが発生することが目に見えている。
「では、約束通りお腹いっぱい食べてください! 満腹した後、甘いお菓子を配りますからね!」
腹ぺこの連中が、食べ物が貰えると聞いて集まったのである。とりあえず食べさせないと、話を聞いてもらえるはずがない。……皆、自分と仲間以外は信じない連中なので……。
また、食べるだけ食べてさっさと帰られても困るので、引き留め策も忘れない恭子であった。
食事は、『リトルシルバー』でカオル、レイコと一緒に大量に作った料理を木箱に入れ、アイテムボックスに入れていたものを、リヤカーで運んできた。
そして、同じくリヤカーに載せて運んできた大鍋を河原の石で組んだ即席のかまどに乗っけて、具材を入れて煮込んだ肉野菜スープ。
一応、料理は鍋や大皿ごと引っ掴んで持ち逃げされないようなものにしてある。
……尤も、持ち逃げしようとしても、料理を抱えてこれだけの人数の孤児達を振り切って逃げ切ることは不可能であろうが……。
そして、あらかたの者が満腹したであろう頃合いを見計らって、恭子が皆に説明を始めた。
足止め用のお菓子の出番は、まだである。
「では、今日集まってくれた皆さんに、お知らせです。
今後、私のお店で不定期に水汲み、雑用、使い走り等の仕事を受けてくれたら、お駄賃や食べ物を渡します!」
そして、恭子が本題に入るのであった……。