軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

249 再出撃 4

「……どうしてあんなに怒られなきゃなんないのよ……」

改装した自分の店、トレーダー商店の2階にある会長室で、椅子の座り心地を確かめながら愚痴を溢す恭子。

予定より少し早めに『リトルシルバー』に戻ってきたカオルに、『これ以上、子供達におかしな方向への英才教育をするんじゃない! 道徳や情操教育は私とレイコがやるから、恭ちゃんは算数、国語、理科、それと経済を教えて!』と強い口調で言われたのである。子供達が、恭子に教わったことを嬉しそうにカオルに告げただけで……。

社会も、駄目だと言われた。『ここでは、王位継承争いに敗れた第二王子側は一族郎党皆殺しにして 根絶(ねだ) やし、向こうについた貴族はお家断絶にして、豪商は財産没収の上、取り潰すべきでしたよね。そうすれば、その後の統治がもっとやりやすかったはずです』とかいう注釈を付けながら教えていたため、カオルが禁止したようであった。

他国の歴史や王族の判断について平民が上から目線で批判したりすれば、それが相手国の関係者とかの耳に入ると大変なことになる。

ここはまだ、平民の人権だとか言論の自由だとかいうものに対する認識があまりない世界なのであるから、口の軽い子供達におかしなことを教えられては堪らない、というカオルの判断は当然のことであったろう。

……そして、子供達に『自分の都合により、罪のない者も含む、一族郎党皆殺し』とかいうやり方を推奨されるのも少し困る。

「まあ、香は言い出したら聞かないから、仕方ないか……」

恭子は、なぜカオルにそう言われたのか、よく分かっていないらしかった。

少し『リトルシルバー』に長居したので、こっちへ戻ってきた時には、鍵を預けて改装工事をお願いしていた工務店の作業は終わっており、あとは商品の搬入と陳列、防犯設備等の後付けシステムの設置、そして店員の手配を残すのみであった。

2階の会長室や 自室(プライベート・ルーム) に入れるベッドや机、チェスト、置物等は、アイテムボックスから出すだけであり、既にあらかた設置済みである。あとは、母艦から持ってきたシャワーやトイレの設置が残っているが……。

さすがに、それらは工務店の者が出入りする用事が終わった後に設置すべきだと思い、後回しにしていたのである。

「明日は、水回りの設置と、商品を並べるか……。アイテムボックスから出すだけの、簡単なお仕事だし……、って、いやいや、それより先に、時間がかかることをやっとかないと駄目じゃん!」

……そう、いくら恭子がアイテムボックスを持っていようが、時間短縮のしようがないこと。

人員募集である。

* *

「すみません、口入れ屋って、商工ギルドに加盟してます?」

翌日、商工ギルドの受付嬢にそう尋ねた恭子……サラエットであるが……。

「し、しばらくお待ちください!」

そう言って、受付嬢はバタバタと2階へ上がっていった。

そしてすぐに戻ってくると……。

「ギルドマスターがお会いになります。どうぞ、こちらへ……」

(おお、新米にはギルドマスターが直々に教えてくれるのか……。いいギルドだなぁ……)

そして 恭子(サラエット) は、良い人達に恵まれたなぁ、と嬉しく思うのであった。

* *

「……で、人を雇いたい、と?」

「はい。ちょっと高価な物や珍しい物も扱うので、信用の置ける人を、と思いまして……。

身分や家柄、実家がどうこう、というのは関係ありません。孤児だろうが奴隷だろうが前科のある元犯罪者だろうが、気にしませんので。……現役の犯罪者でさえなければ。

あ、元犯罪者の場合、罪状は気にしますけど。婦女暴行、強盗殺人、窃盗とかは駄目です。何かを守るためにやむなく、とか、絶対に再犯のおそれがないと確証がある理由がある場合は、大丈夫ですけれども。

それと、雑用や水汲みをお願いする、常雇いではなく時々半端仕事を頼める子供とか……。

やっぱり、孤児院とか橋の下の浮浪児とかですかね、そういうのを募集するのは……」

恭子……サラエットは『奴隷』という言葉を口にしているが、別にこの国に奴隷制度があるわけではない。正しくは、借金の返済ができずに身柄を拘束されて強制的に働かされる者と、犯罪者が刑罰として働かされる者を指しているだけである。

それが、セレスが与えた翻訳能力によって『奴隷』と訳されているのである。

この国は、捕らえられた犯罪者が働きもせず、税金でタダ 飯(めし) を喰らい養ってもらえるなどという甘い国ではなかった。

真面目に働かない者は鉱山とか軍とかに回されるため、皆、きちんと働いてくれる。

なので、奴隷とはいっても虐待は許されず、主人は奴隷に対して最低限普通の貧民並みの衣食住と、病気や怪我の治療を受けさせる義務、暴力や性的なことの強要の禁止等の遵守が求められる。

つまり、奴隷は主人の持ち物ではなく、借金返済や刑期満了までの間、お金を払うことにより貸与されるだけであり、大事な『預かり物』というわけであった。

勿論、違法奴隷はその限りではないが、違法奴隷を屋敷の地下牢や個人所有の鉱山等の特別な場所以外の、人目に付く場所に置く者はいない。バレれば重罪なのであるから……。

つまり、商店の店員として使える奴隷は、借金持ちか犯罪者の内の、信用できる者、ということである。

(いるものか、そんな奴!)

商工ギルドのギルドマスターが心の中でそう愚痴るのも、無理はなかった。

確かに、そういう者は皆無というわけではないだろう。

しかしそれは、競馬場で賭け事が嫌いな者を捜したり、病院の待合室で健康な者を捜すようなものであった。

いないとは言わないが、捜すならもっといい場所があるだろう、ということである。

特に、問題が起こることをどうしても避けたいギルドマスターとしては、何とか別のルートで店員候補を探して欲しいと考えるのは無理もない話であった。

……そして、 暫(しば) しぽかんとした後……。

「……待て。待て待て待て待て待て! 何か、お前……、いやいや、お嬢さん、高価な商品を扱う店に、孤児や奴隷や犯罪者を雇おうというお積もりで? いや。いやいやいやいやいや!!」

ギルドマスターも、サラエットを案内してそのまま待機している受付嬢も、『ないわ~……』というような顔をしている。

「え? でも、普通に募集すると他の商家の息が掛かった者とかが応募してくるかもしれないですから、そんなのを雇うよりはずっと信用できるんじゃないですか? 厚遇すれば、恩義を感じて絶対に裏切らない、とか……」

「う……、そんなどん底の奴が雇ってもらえて普通の扱いを受ければ、それは確かに感謝と忠誠心が……、って、それはまともな心を持った奴の場合であって、基本的にそういう奴らは……。

金庫の中身と金目の物を戴いてトンズラ、というのは、商家あるあるで、毎年何件も発生している定例行事ですよっ!

少しでも危険を抑えるためには、親兄弟がいて、それらの者達がちゃんとした職業に就いていて、万一の場合には賠償責任を負っていただくべく連座誓約書を書かせないと……」

それは、多くのお金や高額商品を扱うお店で店員を雇う時の常識なのかもしれない。

……この世界では。

しかし、サラエット……恭子はこの世界の常識よりも、自分の意志を優先させる。

「身内を人質にして忠誠を強要するより、本当に心からの忠誠心を持つ者を雇った方がいいと思うのですけど……。

それに、裏切られれば、保証人ではなく本人に責任を取らせれば済むことでしょう? 地の果てまでも追い詰めて……」

「…………」

お人好しなのか厳しいのか、よく分からない。

恭子は、連帯責任とか、連座や縁座、隣組とかの類いは嫌いであった。

勿論、日本における保証人というものの必要性は認識していたが、『 連帯(・・) 保証人』という制度は強く忌避していたのである。

責任は、生きていて働ける限りはあくまでも本人に取らせる。

それが、恭子のポリシーであった。

しかし、ギルドマスターとしては、おかしな者を雇われて何かあれば大変であるし、何とか自分の息が掛かった者を送り込んで安心材料としたい。

「口入れ屋も商工ギルドに加盟しておりますが、そちらは一時的に大勢の者を雇うような場合、つまり街道の補修や崖崩れ等の復旧作業員、臨時の商隊護衛、急な傭兵の掻き集め等が主な仕事ですからね。店員やメイドをひとりかふたり、という程度であれば、うちで直接お世話できますよ?」

多少事実に反する説明であるが、悪意によるものではない。顧客のためを思っての心遣いなので、職業的な矜持を傷付けることなくそう説明したギルドマスターであるが……。

「それって、ギルド側が誰かひとりを決め打ちで推薦するってことですか?」

「ええ、そうなりますね。登録者の中で最も適した者を選び、御紹介することになります。

勿論、面接の結果が思わしくなければお断りいただき、次の者を御紹介致しますよ?」

「う~ん……」

恭子は、そのやり方はあまり気が進まなかった。

集団面接やコンテスト方式であれば、他にもっと良い者がいたとか、色々と理由がつけられる。

しかし、ひとりだけを面接して不合格にすれば、『お前には能力がない』、『失格だ』と宣告することになり、それはあまりにも可哀想である。

「うむむむむむむ……」

そして、しばらく考えた後……。

「自分で探してみます」

そう言って、席を立つ恭子。

「え? いや、あの、ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って、サラエット様っっ!!」

慌てて引き留めようとするギルドマスターを後に、さっさと部屋を出る恭子であった。