作品タイトル不明
247 再出撃 2
「いや、本当に、スマンかった……。じゃが、お前も相当アレじゃぞ……」
「ごめんなさい……」
互いに素直に謝る、解体場のオヤジとキャン。
「しかし、孤児達を使って獲物を運ばせるたぁ……」
解体場へ運び込んだのであるから、解体作業員は全員が2台のリヤカーとそれを牽いたり押したりしている孤児達を見ている。そしてオークを狩った方法を聞くのはハンターの禁忌事項に触れるため、ここで話題に出してもいいのは運んだ方法についてだけである。
そしてオヤジが呆れたような顔をしているのは、その方法を考えたということは勿論であるが、それより更に呆れるべきこと、……つまりこの少女が最初から、『オーク、またはそれに匹敵する重さの獲物を狩れると確信していた』ということであった。
決して、たまたまオークに出会って、運良く仕留めることができた、というわけではない。
もし偶然であったなら、最初から 荷車(リヤカー) と大勢の孤児達を連れて行くわけがない。
獲物用の 荷物持ち(ポーター) として連れていくとしても、普通は2~3人までであろう。そして荷車は、街道から外れる場所で待たせるしかない。
ということは、 荷車なしで街道まで(・・・・・・・・・) 運べる場所で(・・・・・・) 、荷車が必要となる獲物が確実に狩れると分かっていた、ということである。
……それも、1頭のオークを分割して乗せるのに必要な、2台分。
2輪の荷車など、江戸時代の大八車どころか、紀元前3000年頃のインダス文明の遺跡からも土器が発掘されているくらいである。なので、カオル謹製の2台の『リヤカー型ポーション容器』も、そう奇異には思われていなかった。
夕暮れ時に少し離れたところから見たくらいであれば、『ちょっと変わった形の荷車』くらいにしか思われないであろう。
近寄ってよく見れば、このあたりに普通にある木製の荷車と違って、車体が金属製であったり、 車輪(タイヤ) が ゴム製(変なもの) であったりすることが分かるのであるが。
それに、それぞれに積まれた半身のオークがあまりにもインパクトが強かったため、視線が積荷に向き、それを載せたリヤカーにはあまり関心が向かなかったものと思われる。
日本のリヤカーは、アルミ製の普通の折り畳み式で100~200kg、頑丈なアルミ製や普通の鉄製で350kg、そして特別頑丈なやつで1トンの荷重に耐えるものもあるが、それは条件が良かった場合……平坦な舗装道路とか……であるため、そんな『限界に挑戦』とかを狙うことなく、数を増やして2台にする、ということで対処したのである。
そもそも、悪路で最大積載量の限界まで荷を積んだリヤカーなど、数人の孤児で動かせるものではない。いくら不要部分を落として血抜きし、内臓の大半を捨てて少し軽くしたとはいえ……。
キャン(レイコ) が孤児を使ったのは、アイテムボックスを公表できないためやむを得なかったというのもあるが、勿論、孤児達にお金を稼がせてやろうという気持ちが強かったためである。
ミーネ達のこともあるが、それ以前に、カオルが本人の言うところの『第一シーズン』……アイテムボックスで固まる前……で 孤児達(女神の眼) に対して行っていたことを知っているため、どうしてもそういう考えに引っ張られるのは仕方なかった。
それに、レイコは元々、弱者には優しかった。
……それが、甘えや自業自得によるものではない場合は。
(それにしても、アイテムボックスが使えないというのは、不便過ぎ!!)
キャンが心の中で愚痴るが、人間、一度味わった便利な生活は、忘れられないものである。
「多くのハンターが、孤児達をポーターとして使ってくれれば……、って、そりゃ無理か!」
自分で言っておきながら、自己完結してしまったオヤジ。
小さな子供達を連れて危険な魔物狩りに行く……、いや、『行ける』ハンターなどいない。
もしいたとしても、周りがそれを止めるであろう。
そもそも、子供では大した荷は運べない。
荷車を牽いて森の中を進むことも不可能。
「そもそも、どうしてお前は……、って、いかんな、これ以上言うのは……」
オヤジも、ここへ説明に来たということは、解体場での責任ある立場の者なのであろう。そういう者が、不用意に特定のハンターを批判するわけにはいかない。それも、こんなに大勢のハンターやギルド職員がいる前で……。
「ま、子供達や駆け出しの若い奴らに安全で稼げる仕事を回してやってくれるなら、うちとしては文句はねぇよ……」
そう言って、裏口へと向かう解体場のオヤジ。
「「「「「「…………」」」」」」
そして、静まり返るハンター達。
問題はなかった。何も。
ただ、この女性新人ハンターが、偶然ではなくひとりで確実にオークを倒せること、そしてごく当たり前のようにそれを丸ごと持ち帰る手段を事前に用意していたこと、……そしてかなりの人数の孤児達に稼ぎを与えてくれたということであった。
「……お金、まだ? 子供達に駄賃を渡さなきゃなんないんだけど……」
「あ! し、ししし、失礼いたしました!」
キャンに催促され、慌ててお金の用意をする受付嬢。
そして、キャンは渡された革袋を受け取り、裏口から出ていった。子供達を待たせている方へ……。
「……とんでもねぇヤツだけど……」
「アイツのおかげで少なくとも数日間は、孤児院の奴らが腹一杯メシを喰えるわけだ……」
ハンターには、孤児だった者が多い。
そして子供を残して死んだハンター仲間も多かった。
「「「「「「…………」」」」」」
ヤバいヤツだが、実力は確かで、悪い奴じゃない。
それが、皆からのキャンへの評価であった。
つまり、キャンが仲間として受け入れられたということである。
* *
「お待たせ~! お駄賃は誰かが纏めて受け取る? それとも別々に?」
「……できれば、別々に。みんな、自分の稼ぎは自分の手で院長先生に渡したいから……」
一番年長らしき少年の説明に頷き、こんなこともあろうかとたくさん用意しておいた銀貨を巾着袋から取り出すキャン。
「ひとり当たり、銀貨1枚の約束だったよね。ハイ、並んで~」
キャンの言葉に、ごくりと生唾を飲み込む子供達。
銀貨1枚。
日本での、1000円に相当する金銭価値である。
大根が10本、小さな芋であれば30個は買えるお金。
それが、ひとり当たりの報酬。
そしてここには、10人以上の子供達がいる……。
僅か数時間で、自分達が稼いだお金。
「「「「「「うおおおおおおおぉ~~!!」」」」」」
歓喜の叫びを上げる子供達。
その声は当然ながらギルドの建物の中まで届き、新人ハンターが孤児達に充分な額の報酬を与えたであろうことを教えた。
そしてその新人ハンターは、子供達に向かってにっこりと微笑んで、告げた。
「……さっさと並ばんかっ!!」
レイコは、決して子供が嫌いだというわけではないが、躾には厳しかった……。