軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

244 新人聖女 2

「……というわけで、食べ物の寄贈を、と思いまして……」

子供から話を聞いて飛んできた院長先生にそう伝えたところ……。

「聖女様っっ!!」

「ハードル低いな、オイ……」

がっくりと肩を落とす、カオルであった……。

* *

「……では、エディス様は、神殿には所属されておられない、と?」

「はい。貧乏な人達からお金を集めている神官達が高価な身なりをしてでっぷり太っているのを見て、『駄目だこりゃ……』と思いまして……」

エディス(カオル) の返答に、苦笑いの院長先生。

ここは神殿が経営しているというわけではないので、別に気を悪くしたりはしていないらしかった。

それに、院長先生くらいの 年齢(とし) であれば、腐敗した神官がいることくらいは当然理解しているだろう。神殿関係者全てがそうだというわけではなく、上の方は結構まともらしいというのは、逆に驚きであった。

普通は、下の方が真面目、上の方が腐敗となりそうなものなのに、逆。上層部に対して感心すればいいのか、下の方をちゃんと指導できていないことを非難すればいいのか……。

しかし、一般民衆が直接顔を合わせるのは、『下の方』であり、庶民が上の方の偉い人達と顔を合わせる機会など滅多にない。なので、神殿の評判はあまり良いわけではないらしかった。

但し、『神殿の、神官達の評判』と『女神セレスティーヌの評判』は全く別物であり、女神に対する信仰心には揺らぎがない、ということらしい。

「そういうわけで、私は女神様の信徒ですが、別に神官達にどうこう言われる筋合いはありませんので……」

神官達が聞けば怒り出しそうな台詞であるが、これはただ『自分が信仰しているのは女神セレスティーヌであり、人間である神官達を信仰しているわけではない』という至極尤もな意思表明であるため、さすがに神官達もこの言い分に対して異端者だとか不信心者、不敬罪とか言って責めることはできまい。

もしそんなことをすれば、神官達の方が『自分達が女神より偉いと主張している』ということになってしまい、それこそ 大事(おおごと) になってしまうであろう。

「とにかくそういうわけで、この辺りの町村を廻って色々と慈善活動をしているのです」

「おおお、ありがたいことです……」

カオルの適当な説明に、感動して眼をうるうるさせる院長先生。

そして……。

「あの、私、治療の方も少し心得がありますので、少し子供達を診てもいいですか?」

「それは願ってもないことです! 神官様にも薬師の 方(かた) にも、なかなか診てはいただけないもので……」

多少は医学の心得がある薬師はともかく、神官による治癒の祈りは、ただの気休めに過ぎない。

しかしそれでも、若干のプラシーボ効果はあるし、神官様に祈っていただけたのだから、という安心感、そして駄目であった場合にも、『神官様にお祈りいただいて駄目だったのだから、それが寿命であり、 運命(さだめ) だったのだろう』と諦めもつき、心の 安寧(あんねい) に少しは貢献するであろう。

そのため、カオルは神官の祈祷についても、否定するようなことはしない。

だが、治せるものであれば、今、治しておいた方がいいに決まっている。

なので、子供達を集め、順に診察していくカオルであるが……。

「昔の怪我はとっくに治っているし、擦り傷程度はツバ付けときゃ治るから、いいか。

病気の方は分からないけど、明らかに様子がおかしい子はいない、と……。

痩せてるのは、まぁ、食事のせいだろうから仕方なし。

うん、念の為、栄養剤(兼、病気回復効果のあるポーション)を飲ませとくか……」

それならば、飲んでも効果が分かるわけではないので、何の問題もない。

そして、創ったポーションを、バッグから出した振りをして子供達に飲ませるカオル。

甘くて美味しい味にしたため、大好評である。

院長先生達も欲しがったため、大人達にも配布。

苦労しているのか、大人達も痩せていて顔色があまり良くないから、丁度良かったと考えるカオルであった。

「では、私はこれで……」

「あ、いや、是非夕食を御一緒に!」

引き揚げようとするカオル……エディスを引き留めようとする院長先生であるが……。

「いえ、女神の手助けを必要とする者は大勢いますし、薬や食材を手に入れるためにはお金を稼がねばなりません。なので、このまま次の町へ向かいますので……」

そう言われては、無理に引き留めることはできない。

院長先生は、ただお礼として夕食を、と思っただけであるが、無理に引き留めて、この少女による恩恵を自分達だけに、と考えているのではないかと誤解されるようなことをゴリ押ししてはいけない、と判断するだけの聡明さを備えていた。

なのでここは、ただお礼を言って見送るべきである、と……。

「ありがとうございました!」

「「「「「「おねーちゃん、ありがと~!!」」」」」」

院長先生と数人の大人達、そして子供達に見送られ、手を振ってから孤児院を立ち去るカオル。

牽いているリヤカーは、後でアイテムボックスに収納する。

(よし、孤児院に施しをする信仰心の 篤(あつ) い女性、という評判が立つための種を蒔けた!

この調子で、『流しの聖女』、『野良聖女』と呼ばれるように、頑張らなくちゃ……)

前回のハンター達の時には、状況上仕方なく、ほんの少し『女神の御加護』という建前で力を使ったが、今回は普通の『神殿には所属していない、ただの 野良(フリー) の慈善活動家』として行動しただけである。

カオルは、別にポーション作製能力を使って女神や御使いの振りをしようなどとは全く考えていない。

そんなことをすれば、バルモア王国の時の二の舞である。貴族、王族、神殿、大商人、そして一般民衆に 集(たか) られ纏い付かれて、どうしようもなくなってしまう。

そしてそれから逃げるためには、力を見せつけて、再び『脅しによる平穏』を求めるしかなくなり、そうなると、婚活を始めた場合、カオル自身の人間的魅力に惚れた者ではなく、カオルが持つ力を求める者達しか寄ってこなくなり、婚活に多大な支障を 来(きた) すことになる。

……カオルにとって、それは致命傷であった……。

いくらその者が『カオル』ではなく『聖女エディス』だとはいえ、そこまで 大事(おおごと) になってしまえば、常に監視の目があり、その正体や身元を調べようとする者が大勢現れて、カオルや レイコ(キャン) 、 恭子(サラエット) 、そして『リトルシルバー』の子供達との繋がりがいつ露見することになるか分からない。

なので、『女神の御加護』はごく僅かなものであり、貴族や王族達が眼の色を変えて飛び付くほどのものではない、ということにしているのであった。

女神が気紛れでほんの少し力をお貸しになるだけ。生死を大きく左右するほどのものではなく、せいぜい消毒薬か止血包帯の代わりになる程度。そういう方針で行くことにしたのである。

勿論、治癒はその場で行うものであり、保存できる謎の薬品、『ポーション』などというものは存在しない。

「ハンターと孤児院。次は、孤児院よりも更に下、河原で暮らしている浮浪児のところと、あとはスラムで炊き出しかなぁ……。

ま、お金は『第一シーズン』でアビリ商会に売ってもらったポーションと各種新商品の取り分、私がアイテムボックスを使って海辺の町や村から運んだ大量の魚介類を売った代金とかで、莫大な量の金貨や宝石類があるし……」

そう、慎重なカオルは、資産の一部を大小様々な宝石に 換(か) えていたのである。いつ遠くへ逃げ出しても、どこの国から来たかが露見しないようにその国の通貨に換金できるように。

なので、いきなり高価な宝石を換金して注目を集めることなく、小粒の宝石でそこそこの現金に換えることが可能なのであった。

見た目で侮られて、かなり買い叩かれることになるであろうが……。

まあ、カオルが聖女としての活動で使った分は、レイコがハンターとして、そして恭子が商人として稼いだ分で補填する予定であるが。

これはカオルの個人的な支出ではなく、共同作戦によるものなので、この件においての予算は『同じ財布から』ということなのであった。

「よぉし、あと3件こなしたら、いったん『リトルシルバー』に戻るか!

じゃあ、キリキリ行くよ!!」