軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243 新人聖女 1

聖女には、ハンターや商人とは大きく異なる点がある。

それは、ハンターはハンターギルドに登録した時から、そして商人は商工ギルドに登録した時から、それぞれハンターや商人を名乗ることができるが、聖女はそういうわけにはいかない、ということである。

神官や巫女は、神殿に所属すればそう名乗れるし、人々からもそう呼ばれる。

しかし、『聖女』は……。

人々から自然とそう呼ばれるようになるか、神殿がその業績を認め正式に認定しない限り、自分から名乗れるようなものではなかった。

いや、たとえ認定されたとしても、聖女を自称する者は、まずいない。

あくまでも『聖女』は、他者がそう呼ぶものであり、自称するものではなかった。

なので……。

「私だけ、ハードル高いじゃん!」

カオルがそう愚痴を溢すのも、無理はなかった。

* *

「どうかされましたか?」

「あ、いや、ちょっと 森林狼(フォレストウルフ) 相手に 下手(ヘタ) 打っちまってな……」

街に向かって街道を歩いていた5人連れの男達は、後方からやってきた少女にそう尋ねられ、頭を掻きながらそう返事した。

5人対1頭ならば褒められたことではないが、相手が数頭の群れであったなら、軽傷者が2~3人で済んだというのは誇っても良い戦果であろう。おそらく、謙遜か、本当ならばそれくらい無傷で倒せるのだ、という見栄張りかの、どちらかなのであろう。

男というものは、いくら行きずりであり無関係な者であっても、可愛い少女に対しては恰好をつけたがるものなのである。

見たところ、本当に大した怪我ではないらしく、ふたりが腕に浅い裂傷、そしてひとりが少し足をやられて歩きづらそうにしている程度であった。

「……少し、足を見せていただいても?」

「あ? ああ、そりゃ別に構わんが……。浅いが、爪で切り裂かれたからパックリいっててな。化膿止めの薬でも持っているなら、カネは払うぞ?」

街まではまだ距離があり、着くのは明日になる。なので、夜のうちに傷が悪化することを心配しているのであろう。当然の考えである。

足を怪我している男は、街道脇の大きめの石の上に腰掛け、怪我をしている左足を差し出した。

傷は、太腿の外側。布で縛ってあるが、浅いと言っても、かなり出血したらしく、血でべったりと濡れている。まだ完全に血が止まっているのかどうかさえ怪しかった。

「ふむ……」

少女は、縛られた部分を確認したあと……。

「ちょっと、皆さんでこの人を押さえつけていただけますか?」

「え?」

何を言われたか分からず、きょとんとした顔の怪我人。

そして、他の4人は……。

「何か、面白そうだな」

「分かった、任せろ!」

なぜか素直に、少女に言われたとおり、足を怪我した男の手足を掴み固定した。

「いや、お前ら、いったい何を……」

男達……足を怪我している者以外……は、少女のことは全く疑っていなかった。

12~13歳くらいの、銀髪の少女。

未成年の少女であるし、身なりは清潔で高価そうな衣服を身に着けており、そして貧乏なハンター相手に詐欺行為を働こうという馬鹿には見えなかったからである。

ハンター相手にそんなことをすれば、すぐにハンターギルドを通してハンター全員に情報が廻る。小銭稼ぎと引き換えにするには、それはあまりにもリスクが大きすぎる。

なので、少女が非常に染みる……大の大人が暴れるくらい……の強烈な薬をぶっかけるのだろうと予想して、にやにやと笑っているわけである。ぶっかけられる本人以外は。

そして、効果は気休め程度であっても、少しでも夜中の発熱を抑えることができるなら、銀貨数枚程度は請求されても惜しくない。さすがに、小金貨を要求されるようなことはないであろう。

少女は傷を縛っていた布を解き、元々魔物の爪によって裂かれていたズボンの破れ目を開いた。そして腰に着けていた水筒の水で傷口を洗い、右手でそっと傷に手を当てて……。

「消毒!」

「ぎゃあああ~!」

びくん、とはねる男の身体は、他の4人によってしっかりと押さえ込まれた。

「止血、麻酔、治癒!」

「ひいいい……、い?」

突然痛みが止まり、きょとんとした顔をする怪我人。

「……終わりました。まず傷口の汚れと血を洗い流し、化膿する原因となるものを消し去り、血を完全に止めて、痛みをなくし、傷口をくっつけました」

消毒の時に痛みを与えたのは、不思議な力の存在をアピールするためである。勿論痛くないようにもできたが、それでは説得力が弱いと考えたわけである。

「「「「「…………」」」」」

まじまじと傷口……であった部分……を覗き込む、5人。そして……。

「 無(ね) え……。傷が無え……」

「あ、それ、外見だけですよ! 止血と、悪いものが傷口から入らないように塞いだんです。

内部まで完全に治ってるわけじゃないですから、数日間はそこに無理な力が加わらないようにしてくださいね。

痛みをあまり感じないようにしただけですから、治ったと勘違いして完全に治る前に無理をすると、またパックリと傷が開きますよ。

3日くらいは、仕事を休んでください。4日目からは、普通に全力で動いていただいても問題ありませんので……」

そして、実際には手の平に纏わせたポーションにより完全に治しているのであるが、そんな速効性があると知られないように、そう言って誤魔化したのであった。

「「「「「…………」」」」」

* *

「え? 無料(タダ) だって?」

「はい。女神様の御加護を人々にお届けするのに、お金を取るような真似ができるはずがないでしょう?」

「「「「「…………」」」」」

色々と言いたいことはあるだろう。神殿は寄付を要求するとか、病人に祈祷をしてもらうには多額の代金が必要だとか……。

しかし、こう言われてみれば、確かにその通りであり、反論のしようがなかった。

何より、こう言われてお金を押し付ければ、それはこの少女に対する侮辱行為になる。

なので、皆、黙って 頭(こうべ) を垂れるしかなかった。

そして翌日の夕方には、街のハンターギルド支部で噂が広まっていた。

『聖女が街にやってきた』と……。

初(しょ) っ 端(ぱな) からハードルクリアであるが、勿論、カオルはそんなことは知らなかった。

* *

「すみません、食べ物を寄贈したいのですけど……」

孤児院に、荷車を牽いた銀髪の少女がやってきた。

そして、庭で遊んでいた子供達にそう言ったところ……。

「えええええっ! 待ってて、院長先生を呼んでくる!

逃げちゃ駄目! みんな、絶対に逃がさないよう見張ってて!!」

「「「「「「分かった!」」」」」」

そして、あっという間に子供達に包囲された。

「犯罪者かっ!」

手っ取り早く名声を得ようと考えて、孤児院への寄贈を行おうとしたところ、この扱いである。

酷い扱いであるが、子供達は、決して逃がしてはならない、と必死なのであろう。

「どんだけ飢えてるんだよ……」