作品タイトル不明
239 新人ハンター 5
「勝負あった! 勝者、新人ちゃん!!」
「キャンディーダです! あ、通称は、『キャン』でお願いします」
観衆の中からおかしな呼び名で勝ち名乗りを上げられたため、急いで名前を申告したレイコ。
ここで、そんなふたつ名が定着してしまっては大変である。
……特に、一人前になった時に。
飼い始めた時に小さかったから『チビ』と名付けた犬が、巨大になってしまった。
将来的にそんなミスマッチとなるような危険は回避せねばならなかった。絶対に!
「分かった。勝者、新人ハンター、キャン!」
ただのハンターなのかギルドの職員なのか知らないが、勝手に審判役を買って出たらしい男性によって無事呼称は訂正され、ひと安心のレイコであった。
レイコが余所から来たハンターではなく新人だと知っているということは、登録の時からずっと見ていた者なのであろう。
「じゃあ、色々と聞きたいことがあるから、ちょっと来てくれ」
いきなり別の男性にそう指示されて、少しムッとした様子のレイコ。
「はぁ? あなたはいったいどなたですか?」
見知らぬ者に、勝手にそんなことを言われる筋合いはない。それも、こちらの意志を確認することもなく一方的に命令するような相手には……。
なので、大勢の目があるためいきなりキツい言葉を浴びせはしないものの、やや拒絶っぽい口調でそう言ったレイコであるが……。
「ここの、ギルドマスターだ」
「ああ……。なら、仕方ないですね……」
あからさまに気が向かない口調ではあったが、渋々了承の返事をするレイコ。
まあ、相手がギルドマスターであれば、無駄に喧嘩を売る必要はない。それに、これから色々と利用させてもらう相手なので、少しは情報交換をしておくのも悪くはない。
なのでレイコはおとなしく建物に戻り、2階のギルドマスターの事務室へとついていった。
* *
「この街に、よく来てくれた。で、滞在予定はどれくらいだ? 腕の立つ者には溜まっている高ランクの依頼を少しでも多く片付けてもらいたいのだが……。
パーティメンバーとは別行動か?」
「え……」
どうやら、ギルドマスターは最初から全部見ていたわけではないらしかった。
おそらく、最初の揉め事で大勢がゾロゾロと訓練場へ行くのに気付いてやってきて、硬貨斬りを目撃。その後自分の部屋へと戻り、再び大勢が訓練場へと移動するのを見て、またやってきたのであろう。
そのため、レイコが新人登録をしているところとかは見ておらず、レイコのことを他の街からやってきたハンターだと思っているらしかった。
2度目の戦いで若者に簡単に肩を打たれたり腹を突かれたりしたのは、鉄板を仕込んだ防具で確実に受けられるという自信、そして攻撃が通らないということを若者に見せつけるためにわざと避けずに打たせたとでも思っているのであろう。
いくら特殊な防具であろうとも、そしていくら刃引きされていようとも、鉄の棒で打たれたり突かれたりしても微動だにしない、鍛え上げられた肉体と精神。
これを見て、レイコが高ランクハンターだと思わない者は、馬鹿か新人登録の場面を見ていた者だけであろう。
「いえ、私はついさっき登録したばかりの新米Fランクですから、高ランクの依頼は、受けたくても受けさせてもらえないと思いますが……。
それと、私は登録したばかりなので当然仲間はおらず、ソロです。なので、御期待には添えませんね。
そして、しばらくはこの街を拠点にして活動しようと思っていますので、移動したくなるまではこの支部を利用させていただく予定です」
「なっ……」
レイコが高ランク、少なくともCランク上位かBランクであろうと思っていたギルドマスターが声を詰まらせるのは仕方ないであろう。
「では、低ランクハンターには御用がないようですので、失礼します」
さっさと椅子から立って部屋を後にするレイコに、後ろから声が掛かることはなかった。
(昇級試験を受けろ、なんて言い出される前にさっさと撤収できてよかった……。
でも、私のこの見た目で、そんな高ランクだと思ったのは、いったいなぜなのか……。
まあ、軍人の家系で幼少の頃から厳しい訓練を受けていたとか、剣術道場の娘で天才少女剣士、とかいうのが存在してもおかしくはないか。この世界では、そういう立場の少女はそれなりの数がいるだろうから……。
というか、これから天才少女ハンターとして売り出すつもりの私が抱くような疑問じゃないか)
そしてレイコは、階段を下りながらそんなことを考えていた。
普通は、成り上がるためには早くランクを上げる必要がある。しかし、レイコが昇級試験を受けたくないと考えるのには、勿論 理由(わけ) がある。
ハンターの基本も知らないというのに、いきなり一人前扱いのランクにされても困る。
そして、CランクやBランクのハンターが少々 手強(てごわ) い獲物を倒しても、別に珍しくもない。
なので、『全くの新米であるFランクハンターの小娘が、高ランクの魔物を狩った』というインパクトで一気に名を売ることを狙い、敢えて登録時にランクアップの申請をしなかったのである。
……そんなことをしなくても、既に一気に名が売れているということには気付いていない。
レイコがそのつもりであれば、バレないように使う補助魔法と特製の短剣……高速振動機能を使えば、相手の剣を切断できる……によって、Cランク、悪くともDランクにはなれたはずである。
実技試験に自前の武器を使わせてもらえれば、の話であるが。
まあ、もし自前の剣が駄目でも、身体強化や体表面に沿わせて張った 防護魔法(バリア) とかの補助魔法だけでも充分だとは思われるが……。
* *
1階に戻り、じっくりと通常依頼のボードを眺めたあと、今度は常時依頼のボードを見るレイコ。
常時依頼は通常依頼とは違い、事前に受注手続きをしていなくても事後申告で済む依頼であり、その大半は採取物の納入とゴブリンやコボルト等の間引きである。
間引きは、余所の場所で狩ったものを出されると困るが、遠くで狩ったものは証明部位の劣化で簡単に判別できるらしい。
それらの依頼と報酬額が貼り出されているのが、常時依頼のボードである。
通常依頼は受注にランク制限があるが、『依頼失敗』という概念がない常時依頼においてはそういう制限がない。怪我や死亡は自己責任である。
そして採取であれば、『リトルシルバー』の子供達の食材や販売用として、また商人としての活動を始める恭子の商品としても回せるため、色々と都合がいい。
それに、通常依頼には『依頼人』というものがいるため、おかしな依頼人に当たって揉めるのは避けたいという点からも、レイコにとって常時依頼は都合が良かった。
さすがにもう、ボードを眺めるレイコに話し掛けたり、ちょっかいを出したりする者はいない。
(よし、これで一応のポジションを獲得できたか。あとは、『たまたま出くわして襲ってきた魔物を、何とか返り討ちに!』とか言って、大物を狩って名を上げれば……)
ほぼ計画通りに、うまくいった。そう考え、にやりと笑うレイコであった……。
* *
計画段階において、配役について『聖女役を恭子、商人役をカオルにした方が良いのではないか』という案が出なかったわけではない。……主に、恭子から。
しかし、多数決によって、その案は却下された。
恭子に聖女役を任せられないのには、 理由(わけ) がある。
勿論、カオルにはポーション作製能力がある、ということがある。
しかしそれは、『事前に各種ポーションをたくさん創り、恭子のアイテムボックスに入れておく』という方法により解決できる。
なのになぜ、恭子には聖女役を任せられないかと言うと……。
……そう、恭子は『正義感が強すぎる』のである。
一見、それは聖女としてふさわしい資質のように思えるかもしれない。
しかし恭子の 正義感(ソレ) は、 悪党は(・・・) どうなっても構わない(・・・・・・・・・・) 、……いや、 悪党はどうにか(・・・・・・・) してしまわなければ(・・・・・・・・・) ならない(・・・・) 、という、少々過激なヤツなのである。
確信犯。
そう、誤用じゃない方の、正しい意味での『確信犯』である。
正義のためならば、悪を滅ぼすために何をやっても構わない。
……いや、 やらなければならない(・・・・・・・・・・) 。
そんな『聖女』、危なくて、とても世に 放(はな) てるわけがない。
勿論、ハンターとしても、論外である。
そして、契約書の内容を破る者は少なく、もし破った者はそれ相応の報いを受けるのが決まりである商人の世界が、恭子の 暴走(いかり) のトリガーを引く可能性が一番低いであろうと判断した。
……それだけのことである。
決して楽観はできないが、ハンター、商人、聖女の3つの中で、恭子にできそうで、安全で、……そして万一の場合の被害が一番少なそうなのが、商人だったというわけである。
ほぼ、消去法によって。
カオルとレイコは、恭子の真面目でお人好しなところが少し心配であったが、仕方ない。
……勿論、心配なのは、恭子を騙そうとした相手方の運命の方であった……。