軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

238 新人ハンター 4

そして、裏庭の訓練場へとやってきた、レイコとリーフ、観衆達。

「武器は、そこの練習用のやつの中から選んでくれ。木製のと、鉄製の刃引きされたやつがあるけど、怪我をさせたくないから木製のを使おう」

リーフがそう言ったが……。

「いえ、刃引きの鉄製で。でないと、後で『あれは木剣だったから』とか言い訳されそうだから」

「なっ……。い、いいだろう、俺が手加減してやれば済むことだ」

さすがに、少女が鉄製のものを望むのに、自分が木製のものを使うよう強く主張するわけにはいかない。なので、刃引きされた鉄製の練習用武器を使用することに同意したリーフ。

「こんなトコかな……」

そしてレイコは手頃な短剣……自分が装備しているのと同じくらいの長さのもの……を手に取ると、自分の短剣を外して棚に置き、練習用の短剣を腰に 佩(は) いた。

リーフの方も同じように、自分の武器に近いものを選んで付け替えている。

どうやら、全長80センチくらいの、ショートソードのようなものを使うらしい。

もっと長い、バスタードソードとかクレイモアとかの方がリーチが長くて威力もあるが、人間が自分の手の延長として自在に操ることができるのは80センチくらいまでであるし、両手で使う時はともかく、片手で使うには長く重い剣は優れた技量を必要とする。

とてもベテランとは言えない若者が使うには、対人戦においても、ましてや素早く数が多い敵と戦うことになる対魔物戦においても、自在に、速く振れる武器を選択するのは当然のことであろう。

両手剣として使うならばもっと長いものでも構わないであろうが、兵士であるならばともかく、ハンターが使うには片手剣が妥当であろう。ハンターが主に戦う場所、戦う相手、戦うシチュエーションを考慮し、そして死にたくなければ。

* *

訓練場の中央付近で対峙するふたり。

「え? 剣を構えないのか?」

腰に差した刃引きの短剣を手にする素振りもない少女に、リーフがそう言ったが……。

「必要ないわ」

リーフは、その返事に、さすがに少しカチンときた。

「どうなっても知らんぞ!」

しかし、そうは言っても、いくら刃引きとはいえ鉄製の剣を少女の顔面や頭部に打ち込むことはできない。そんなことをすれば、跡が残る傷がついたり、大怪我をさせてしまうかもしれない。

なので、打ち込むのは胴か肩の、革の防具でしっかりと護られているところしかない。さすがに、『防具の上からだから無効だ』とは言われないであろう。

少女は、素人丸出しの構えで両腕を前へ差し出しているが、隙だらけである。

なのでリーフは、あまり酷いダメージを与えないようにと、素早く踏み込み、最小限の動きで相手の左肩に向けて鋭い一撃を放った。

ごん!

「え?」

明らかに、革の防具を打ったのとは違うタイミング、違う手応え、……そして違う音。

ぱしっ!

「えええ?」

剣が打ち込まれたタイミングからワンテンポ遅れて、動きが止まった剣の刀身部分を両手の手の平で挟み込んだ少女。剣で打たれた痛みなど、全く感じていないかのように。

そして……。

「秘技、真剣 白刃(しらは) 取り!!」

「「「「「「いや! いやいやいやいやいや!!」」」」」」

観衆たちが絶叫した。

……そう、『秘技』と称するには、それはタイミングがあまりにもズレていた……。

「「「「「「…………」」」」」」

広がる静寂。

そして数秒後、少女は少し困ったような顔をした後、相手の剣から手を離し、数メートル後方へと下がった。

「いざ!」

どうやら、先程のは『無かったコト』になったらしい。

そして、首を左右に振った後、リーフが再び剣を構えた。

どうやら、先程のことを『無かったコト』にすることに同意したようであった。

……主に、自分の精神衛生上の理由によって。

そして、リーフは考えた。

再び同じことをやった場合、同じ結果を招く可能性がある、と。

そして、それは避けたかった。

……絶対に、避けたかった。

なので、攻撃方法を変えた。

「うおおおおおお~~っ!」

突き。

相手より長い腕、相手の得物より長い剣。しかも相手は未だに短剣を抜いてすらいない。

胴体のど真ん中を狙えば、素人相手に外すことはまずないし、防具でしっかりと護られているから、悪くてもアザができる程度で済むだろう。もしもう少し酷い怪我をしたとしても、自業自得。自分が責められることはあるまい。

そう考え、リーフは少し手加減した突きを放った。

どす!

狙い 違(たが) わず少女の腹部に突き立った剣。

勿論、切っ先も刺さらないよう丸めてあるが、一点に集中したその衝撃は、かなりのものである。とても華奢な少女に耐えられるようなものではない。

……普通であれば。

普通ではないレイコはその激しい衝撃に微動だにせず、平然と立っていた。

そして、お腹に押し当てられているその剣先に、すっ、と少女の右手の指が添えられて……。

「秘技、剣先掴み!!」

剣の先端部分が、少女の右手親指と人差し指によって摘ままれた。

完全に、ワンテンポ遅れたタイミングで……。

そして再び上がる、観衆達の絶叫。

「「「「「「何じゃ、そりゃあああああああ~~っっ!!」」」」」」

* *

再度、距離を取ったふたり。

リーフの顔は、引き攣っている。

しかし、まだ折れてはいない。まだ……。

「ふ、ふふふ、思ったより身体を鍛えていたようだな……。そして、革の防具の内側に、鉄板を仕込んでいるか……。

確かに、素人丸出しの外見や身のこなしと合わせれば、対人戦においては格上相手の初見殺しとなるか。考えたものだ……」

どうやら、そういうことで納得したらしい。

いくら鉄板を仕込んでいたとしても、鉄の棒で殴られたに等しい刃引き剣での斬撃や突きに対して微動だにしなかった件は、全く考慮せずに……。

「ならば、防具のない部分を打てば済むことだ。しかし、女性の身体の防具で護られていない部分を、いくら刃引きとはいえ鉄の剣で打つのは忍びない。それに、先程から君は武器を使おうとせず、素手で対応している。

ならば、こちらも……」

そう言って剣を鞘に納め、両腕で構えを取ってレイコに近付くリーフ。

どうやら、 無手(むて) の戦い、徒手格闘術の心得もあるようであった。

……いや、そうではなく、ただ単に『素人の少女相手ならば、体格とスピード、そして腕力の差で簡単に押し勝てる』と考えたのかもしれない。

その考えは、正しかったであろう。

……相手が、レイコでさえなければ……。

ばしっ!

「ぐはぁ!」

「「「「「「え?」」」」」」

無手で近付いたリーフの脇腹に叩き込まれた、レイコの短剣。

そう、レイコは『武器は使わない』などとは、ひと言も言っていなかった。

「「「「「「 酷(ひで) えええええええ~~っっ!!」」」」」」

そして、観衆達の叫び声が訓練場に轟くのであった……。