軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

236 新人ハンター 2

レイコお得意の魔法は、使うわけにはいかない。

この世界には、ドラゴンが使うブレスや飛行魔法以外には、実用に足る魔法というものは殆どない。人間に使えるのは、研究室でロウソク程度の炎が 灯(とも) せる程度である。

なので、下手に実用に足る魔法など見せようものなら、ハンターとしての名声どころの話ではなくなる。

王宮と神殿と学者連中と商人達が押し寄せて、身動きがとれなくなる。

そしてその後は、身柄の奪い合いと、 婚約話の仲介人(トップブリーダー) 達の暗躍が……。

それは、今回の目的からは少し外れる。

さすがに、そこまで行くと、事が大きくなりすぎて制御不能になってしまう。

なので、あくまでも『常識の範囲内の能力で』成り上がるつもりの、レイコであった。

但し、他者に分からなければいいので、防御のための魔法や、バレない程度の攻撃魔法は使用することに何の支障もない。勿論、人目がないところでは、何をやっても構わない。

そうして、『普通のハンター』としてランクを上げていく予定であった。

普通のハンター(・・・・・・・) として……。

「では、始めましょうか。

あ、私はまだ登録証を受け取っていませんので、現在はまだ、ただの一般民衆です。

なので今の状態は、ハンターギルドに用件があってやってきた一般民衆である女性がハンターに因縁をつけられて戦うことになった、という状況ですね。

私が怪我をさせられたり殺されたりしました場合、ハンターに襲われて一般人である女性が殺された、ということで処理をお願いします。

私があなたを殺しました場合は、正当防衛、ということで……。

これだけ多くの証人がおられますので、問題はありませんよね?」

((((((ひ、 酷(ひで) ええええええ~~!!))))))

そんなことを言われては、ちょっかいを掛けてきた男には戦いようがない。

いったい、どうなるのか……。

心配する見物人達であったが、すぐにその心配は無用のものとなった。

「すみませんでしたあぁ!」

男が、素直に頭を下げたのである。

さすがに土下座というわけではないが……この辺りに、土下座という風習があるのかどうかは分からない……、きちんとした謝罪の態度であった。

どうやら、ようやくこの少女が『ちょっかいを出しては駄目な相手』だということに気付いたようである。

一応は、中堅ハンターとしてこの歳まで生き延びられただけあって、最低限の危機察知能力は持っていたようである。

もし戦いになったとしても、レイコは別に困りはしなかった。

身体強化魔法、身体防護魔法等、魔法とは気付かれないようにして勝つ方法はいくつでもあったし、もし怪我をしても、治癒魔法もあればカオルから貰った大量のポーションもある。

マズい事態になれば、逃げ出して、顔を変えて他の街でやり直せば済むことである。

何度でもやり直しが利くということは、とても安心感があった……。

* *

「キャンディーダさん、ギルド証が出来ました!」

受付の女性に呼ばれ、窓口へ行くレイコ。

そして、ペンダントを手渡された。

「Fランクのギルド証です。首に掛けて、ペンダントトップは服の内側に入れておいてください。

自分のランクを 殊更(ことさら) に誇示したい、という場合は、別に服の外側に出しておいていただいても構いませんが、森の中で木の枝に引っ掛けたり、魔物の角や牙に引っ掛けられたりしても自己責任ですので……。

普段は服の内側に入れておいて、街門や国境を通る時、パーティを組む時、依頼を受ける時とかにだけ取りだして見せる、というのがお勧めですね」

絶対に服の外には出さない、と固く誓うレイコ。

「カードじゃないんだ……」

昔読んでいた小説を思い出し、ついポロリとそう溢してしまったレイコ。

「あ、昔はカードだったらしいのですが、馬鹿……いえ、ハンターの皆様がすぐに落としたりなくしたりされるもので、ペンダント型に変わったそうです」

「……」

受付嬢の説明に、何となく納得したレイコ。

確かに、見回したところ、ハンター達はがさつで大雑把そうな者が多かった。

それを見て、念の為に駄目押ししておこうかな、と考えるレイコ。

「あの~、もしハンターに襲われたら、反撃しても構わないんですよね?」

そして、それに対する受付嬢の答えは……。

「それは、個人間の問題ですから、当ギルドとは無関係です。

なので、普通に警備兵を呼び、ひとりの国民として、国の法によって裁かれることとなります。

別に、当ギルドが司法権を持っているわけではありませんから……」

「あ……」

考えてみれば、当たり前のことであった。ただの人材派遣会社というか職業斡旋屋というか、口入れ屋風情に、そんな権限があるわけがない。

「但し、ギルドの建物内で暴れて家具や内装を壊したり、業務を妨害した場合には、賠償金を請求すると共に永久除名処分を含む厳しい処分が下される場合があります。また、建物の損壊やギルド職員の安全を確保するため、警備員や居合わせたハンターの皆さんの御協力を得て、やむなく『正当防衛的な行為』や『予防措置的な行為』を行うことがあります」

……つまり、大手を振ってみんなでタコ殴り、ボコられるというわけである。

「なるほど……」

受付嬢の説明に、納得するレイコ。

「ちなみに、口頭で脅されるだけであればともかく、武器の柄に手を掛けたり、身体に掴み掛かろうとした場合には、全力で反撃しても正当防衛が成立します。

その場合、相手が死のうが、手足を失おうが、一切罪に問われることも賠償金を請求されることもありません。そして相手が犯罪奴隷になるかどうかは、被害者であるキャンディーダさんの証言と御要望によると思います。

被害者が穏便に済ませてやろうとの御慈悲を与えられた場合は、ただの喧嘩として済ませてもらえる場合があります。……あくまでも、『そういう場合もある』というだけですが……」

どうやら、ちゃんと治安は維持されているらしい。

あくまでも、口頭での脅迫に屈することなく反撃できる者には、ということらしいが……。

「じゃあ、とにかく、私に向かって手出ししようとした者に対しては、殺そうが両眼を潰そうが手足を斬り飛ばそうが全く問題ない、と考えていいのね?」

「はい、そう考えていただいて支障ないと思います」

「「「「「「…………」」」」」」

レイコと受付嬢の、真顔での淡々とした遣り取りに、顔を蒼くして冷や汗をかいているハンター達。

どうやら、ここでのレイコ……キャンディーダの安全性は大きく向上したようである。

「もし、ハンターギルドの規約や、ハンターに関する詳細説明をお望みでしたら、担当の者が承りますが……」

「え? それなら、ギルド証ができるまでの間に説明してくれればよかったんじゃあ……」

「その時点では、まだキャンディーダさんはギルド証をお持ちではないため、ギルド員としてのサービスをお受けになる資格がございませんでしたので……」

「お役所仕事かッ!」

そんなことを言うレイコであるが、つい先程、自分はまだギルド証を受け取っていないからただの一般民衆である、と言い張ったことを忘れてしまったのであろうか……。

……しかし、今更そんなことを言っても仕方ない。

「お願いします……」

そして、別室で新米ハンターの心得について、みっちりと説明されるレイコであった……。

* *

30分以上に亘る説明を受け、ようやく解放されたレイコ。

(どれ、どんな依頼があるか、見てみようかな……)

先程は、依頼ボードを見始めてすぐに絡まれたため、今の自分では到底受けられない上位ランク者用の依頼を少し見ただけであった。なので、今度は自分にも受けられる依頼、つまり自分のランクのひとつ上であるEランク以下のところを見始めたのであるが……。

「……君、登録したばかりの新人かい?」

((((((あああああああああ~~っっ!!))))))

居合わせたハンターや、ギルド職員達が心の中で悲鳴を上げた。

今、来たばかりなのか、先程の騒動を知らないらしき者が、再びレイコ……キャンディーダに声を掛けたのであった……。