軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

235 新人ハンター 1

「これでいいですか?」

申請書を書き終えて、受付嬢に差し出すレイコ。

「あ、ハイ。少々お待ちを……」

記入事項は、ごく僅かであった。長い住所名などないし、そもそも出身地とかの記入は任意であった。なので、確認も僅か数秒で終わった。

「では、ギルド証をお作りしますので、しばらくお待ちください」

ギルド証ができるのにどれくらいの時間がかかるのか全く分からないため、飲食コーナーへ行くことなく、依頼ボードを眺めて時間潰しをするレイコ。

もし金属板に刻印でもするならばかなりの時間がかかるであろうし、紙切れに名前と登録番号を記入するだけであれば、ものの数分もかからないであろう。なので、時間が読めないのは仕方ない。

レイコ達は3人共、ハンターギルドとは殆ど関わったことがないため、そのあたりのことに関しては全くの無情報なのである。

部外者にギルドに関することをあまり色々と尋ねれば、余計な興味を惹きかねない。

今、『リトルシルバー』の少女達がハンターギルドに興味津々、と思われるのはマズい。

それに、別に事前に情報収集しなくとも、それくらいのことは新人ハンターとして、リアルタイムで学べばいいだけのことであった。

ハンター。

街での雑用、商隊の護衛、そして魔物や危険な野獣を狩ることを 生業(なりわい) とする者達。

この世界には、魔物はちゃんといる。

最初にカオルがセレスに確認した時に、セレスが『魔物は、いる』と言っていたし、それを狩る『ハンター』という職業があり、ハンターギルドなるものが存在する。

……ファンタジー小説に出てくるような、謎の科学力(魔導具?)による不思議機能付きのギルドカードがあったり、国を跨いだ権力を持つ謎の組織とかではなく、殆ど口入れ屋か手配師のようなものであるが……。

そしてハンターは、社会的地位が低い。その下にはチンピラとホームレスと孤児しかいないと言われるくらい低く、ほぼ最底辺である。

しかし、それでも一攫千金の夢はあるし、王宮騎士を上回る実力を持つ極々一部のハンターは国レベルの有名人である。

それらの者は英雄扱いされ、時には王宮や貴族に召し抱えられることすらある。

そして英雄クラスともなると、下級貴族や町長を凌駕する影響力を持ち、住民に担ぎ上げられて、圧政を強いる悪徳領主を打ち倒すこともあるらしい。

今までレイコとカオルが魔物と縁がなかったのは、基本的に非力であるふたりが、そんなものと出くわす可能性がある行動を絶対に取らなかったからである。

旅をする時も、ちゃんと地元の組織により魔物が 清掃(スイープ) されている主要街道しか使わないし、夜は必ず魔物・野獣避けの 薬品(ポーション) を使っていた。

そういうわけで、レイコとカオルは今まで直接出くわすことがなかったが、魔物は、居るところには居るのである。

食用の角ウサギやオークも。

……そして、危険なオーガ、角熊、竜種等も……。

ふたりも、皿の上に載った料理としてならば、今までに何度も魔物と出会っている。

恭子も、おそらく似たようなものであろう。

そして、色々なことを考えながらレイコが依頼ボードを眺めていると……。

「……おい、お前、新米か? うちに入れてやろう」

(キタ~!!)

((((((あああああああああ~~っっ!!))))))

『お約束』の発生に、心の中で快哉を叫ぶレイコ。

そして、明らかに『 迂闊(うかつ) に手出ししちゃいけない相手』オーラをフルパワーで立ち 上(のぼ) らせている少女に声を掛けた……それも、明らかに『良からぬこと』を考えて……男に、頭を抱えるギルド職員とハンター達。

「……遠慮しとくわ。私、自分より弱い男の面倒を見てあげる趣味はないの」

((((((言い方ァ!!))))))

少女が男の誘いを断るであろうことは、皆が予想していた。

誘った男の 下卑(げび) た態度から、男が少女を道具か玩具として使い、そして少女の実家からカネを巻き上げて、とか考えているのが見え見えだったからである。

……しかし皆、少女が誘いを断るにしても、もう少し穏便な断り方をするであろうと思っていたのである。

まあ、穏便な言い方をしても、男がそれくらいでこんないい 金蔓(かねづる) を諦めるはずはなかったが。

他のハンター達は皆気付いていること。

そう、その『金蔓』の蔓には、特大の 棘(トゲ) が付いているであろうことに気付かないような、馬鹿な男であったので……。

「こ、このアマ……。ど素人の小娘が、調子に乗りやがって……」

男が言ったことは、正しかった。

確かに、レイコはハンターの仕事や戦いに関してはど素人であったし、小娘であったし、……そして調子に乗っていた。

小説でお馴染みの展開。

そしてレイコはハンターに登録する早々に訪れた『名を売るチャンス』に浮き立っていた。

「え、決闘ですか? さあ、やりましょう。すぐやりましょう!」

「「「「「「えええええええ……」」」」」」

ドン引きの職員やハンター達。

そして当事者である男も、言葉の遣り取りを3回分くらいすっ飛ばした、スピーディーなと言うか急展開と言うか、とにかく余りにも早い話の進展に、ついて行けないような様子であった。

「あ、いや、その、何だ、ええと……、おぅ……」

「「「「「「受けたああああァ~~!!」」」」」」

「あ……」

そして、ついうっかりと決闘を受けてしまった、男。

「どうしてこうなった……」

* *

ギルド支部の裏庭にある、訓練場。

そこで訓練をしていた者達はいったん訓練を中止して、ギルドの建物からぞろぞろと出てきた見物人達と一緒に訓練場の端へと集まっていた。

そして、訓練場の中央付近に立つ、30歳過ぎのCランクハンターの男と、15~16歳くらいに見える見目の良い少女。

少女が身に着けた装備は新品で、見た目も身体の動きからも、明らかにど素人である。

普通であれば、少女が一瞬のうちに叩き伏せられ、男に担がれてどこかへ連れ去られる。

……しかし、とても馬鹿には見えない聡明そうな少女が、みすみすそんな結果を招くようなことをするはずがない。

そう考え、 興味津々(きょうみしんしん) で進展を見守る見物人達。

そして……。

「誰か、銅貨を1枚提供していただけませんか?」

少女が、見物人達に向かって何やら頼んできた。

「よし、俺が出そう!」

そして、その頼みを受けて、懐から巾着袋を取りだして銅貨を1枚摘まみ出したひとりのハンター。

「ありがとうございます。では、近くの方、その銅貨が普通の銅貨かどうか、確認してください」

そして、両隣の男達が確認し、何の変哲もない普通の銅貨であることを証明してくれた。

これは、見物人達には銅貨が『仕込み』ではないことを証明するためと思われたが、実は、それが『本当に普通の銅貨であり、小銀貨とかではない』ということをレイコが間接的に確認するためのものであった。もし、違うものであったり、他の銅貨と見分けが付くようなものだと困るので。

「……では、それを山なりに、私の方へと投げてください」

そう言って、静かに腰に佩いた短剣を抜くレイコ。

もう、ここまで来れば、レイコがやろうとしていることは見え見えであった。

しかし、たとえ見え見えであろうと、それは絶対に実現が不可能なことであった。

「……わ、分かった。じゃあ、行くぞ……」

銅貨を提供した男が静かに銅貨を握った右手を後ろに引き、そっと下手投げで銅貨を山なりに放り投げた。そして……。

ひゅん!

ちゃりりん!

訓練場の地面に落ちた欠片をそれぞれ拾い上げたふたりの見物人が、黙ってそれを他の見物人達に向けて突き出した。

「りょ、両断、だと……」

「綺麗な断面、そして正確に真っ二つに……」

「神業だ……」

静まり返る見物人達。

蒼白になっている対戦相手。

「秘技、硬貨斬り!!」

そして、ドヤ顔のレイコ。

どうして、魔法しか能のないレイコにこのようなことが可能なのか。

その理由は、アレである。

投げられた銅貨が近付いてきた時、銅貨に向かって短剣を振る。

そしてアイテムボックスにその銅貨を収納し、同時に同じ場所に『 予(あらかじ) めふたつに切断してアイテムボックスに入れておいた銅貨』を取り出し、出現させる。

そんなに速く抜刀する腕はないので、剣は先に抜いておいて、適当に軽く振るだけ。それくらいであれば、レイコにも可能である。

……簡単なお仕事であった。

そして、レイコのアイテムボックスには、ふたつに切断したり四つに切断したりした銅貨や銀貨が何枚も入っていた。

誰も、今斬ったとは言っていない。

これは、『秘技、硬貨斬り』という名の手品であり、ただのパフォーマンスである。

嘘は吐いていない……。