作品タイトル不明
234 事業展開 8
「じゃあ、キャラは『ハンター、キャンディーダ(通称、キャン)』、『商人、サラエット(トレーダー商店)』、『聖女、エディス』で決定、ってことでいい?」
「「異議なし!」」
うむうむ。
「容姿は、あとでじっくりと相談しよう」
「「異議なし!」」
うん、まずは誰がどのキャラを担当するかも決めなくちゃね。キャラ製作には、担当者の意見を大幅に取り入れることにしよう。
気分は殆ど、コスプレか 役割演技(ロール・プレイング) だ。
……そして、キャラの担当は、考えるまでもなかった。
ハンター:レイコ
商 人 :恭ちゃん
聖 女 :私、カオル
うん、これ以外の組み合わせは、考えられない。
適材適所。
消去法。
商人が弱点だな。
こみ上げる不安感。
レイコも、少し、いや、かなり心配そう。
恭ちゃんだけが、満面の笑み。
……いかん、ますます不安になってきた……。
ハンターの名前は、ありふれた『キャンディーダ』にしたけれど、通称は『キャン』に。
戦いを 生業(なりわい) とする者は、呼び名が長いと不利になるから、長い名の者は略称を使うのが普通なので、それに 倣(なら) った。
商人の屋号は、適当に。
本人の名前を使うと、後に屋号を名字として使うことを許される立場になった時に困るので、それに配慮した。
聖女は、姓も屋号もないから、普通に名前だけ。
「当然のことながら、同じ街に戦力が集中するのはあまりにも不自然だから、分散しよう。
王都は少し距離があるし、王宮やら貴族やらがすぐに関わってきそうだから、パス。このあたりの街に分散しよう。この街からあまり遠くない範囲で適度にばらけて、そして領主に問題がないところを慎重に探して検討するよ。
役割演技(ロール・プレイング) は毎日やるわけじゃないから、近場なら魔法や肉体強化ポーションを使えば移動も問題ないでしょ。
ハンターは定住型じゃなくて放浪型。街に定宿を取ったりせず、その街のハンターギルドを中心として行動するけれど、基本的には『街かギルドに用がある時だけ現れる、謎のハンター』ってことで。
聖女も、その街を基点として村々を巡る巡回型にすれば、街に滞在する日数が少なくても誰も気にもしないだろうし。
商人だけは、早いうちに店を持たせたいから、ここから近い街を活動拠点にして……。
何か、意見はある?」
「異議なし! ……って、私達、さっきからこればっかりじゃん!」
「まぁ、よく考えられているから、カオルの方針で特に問題がないからねぇ。あとは、ダミーキャラの容姿や性格、具体的な活動方針とかを詰めればいいんじゃない?」
恭ちゃんもレイコも特に反対意見はないみたいだから、これでいくか。
ま、もし何かあっても、『その 人物(キャラ) 』が死んだり、遠くの国へと旅立ったということにすればいいだけだ。この国の小さな事業所『リトルシルバー』や私達には何の関係もないことなので、問題ない。
そして、また次の『新たなる、期待の新人』が登場するだけだ。謎の女性が、どこからともなく現れて……。
うん、問題ないない!
そして私達は、子供達の作業と教育のスケジュール立案と併行して、あちこちでの聞き込みや交代での現地調査を行ったりして、周辺の街の調査を開始するのであった……。
* *
かららん
毎度お馴染みのドアベルの音がして、ハンターやギルド職員達の視線が一斉に出入り口へと向けられた。
いつものこと。
そう、毎日何十回、何百回と繰り返される、半ば条件反射となっている皆の習性である。
そして、ギルド支部に入ってきた者を確認し、元の状態に戻る。普通であれば。
……それが、たとえ見知らぬ者であっても。
ハンター登録に来た新人。依頼に来た者。他の街から仕事で、もしくは旅の途中で立ち寄った者。
いずれにしても、自分に何の利害ももたらさない無関係の者と分かれば、あとは興味を失う。
……そう、普通であれば……。
真っ直ぐに受付窓口へと向かったその少女は、この国の者達には15~16歳くらいに見えた。
金髪で、均整の取れた体格。プロポーションからは17~18歳くらいに見えてもおかしくはないが、割とメリハリのある体格ではあるものの、身長が少し低かった。そのため、それよりは少し年齢を低く見積もられるであろう。
そしてその身に纏う、そこそこ値が張りそうな新品らしき革の防具と、短剣。
「ハンター登録をお願いします」
「あ、は、はい!」
新人ハンターの登録など、日常業務である。なので、受付嬢が怪訝に思うことなどない。
ないはずであるが……。
その少女は、普通の新人とは少し異なっていた。
男性は食い詰めればハンターになる者が多いため、様々な年齢の者が新規登録にやってくる。
しかし女性は、田舎で口減らしに売り飛ばされそうになって逃げ出したとか、孤児がようやく登録できる年齢になったとかいうものが多く、15歳の成人を迎えたあとの女性がこのような危険で最下層のヤクザな稼業に飛び込むことは、そう多くはない。
ハンター経験のない成人女性が職を探すのであれば、商家の使用人、店員、 雑役(メイド・オブ・オール) 婦(・ワーク) 、お針子、その他色々な働き口がある。なのに、わざわざ未経験である危険な仕事を選ばなければならない理由はない。
そもそも、結構値が張る装備を新品で揃えられるだけのお金があるならば、少なくとも急いでハンターにならなければならない必要はないはずである。剣も防具も、余程のボロい中古品でない限り、結構高価なのである。
それが、見目も良く、最初からきちんとした装備を身に着けているとなれば、どこかのお嬢様のお遊びである確率が高い。
しかし少女には、その場合には必ず付いているはずのものが、付いていなかった。
そう、護衛役を務める高ランクハンターか、ハンターに扮装した騎士。お目付役。それらのものが、何ひとつ付いていない。
……怪しい。
あまりにも不自然であり、怪しかった。
しかし、ハンターギルドは来る者を 拒(こば) まず。年齢が基準に達していない者と、犯罪者以外は。ひ弱で戦えそうにない者も、街の中での雑用や、素材採取の仕事をするなら問題ない。
それらの低ランク用の仕事も、仕事は仕事。誰かが受けるためのものであり、ギルドにとっての大事な収入源である。
……目の前に立っている少女は、とてもそのような雑用専門のハンターにはなりそうにない、と思いながらも、既に反射的にこなせるようになった行動を取る受付嬢。
カウンターの下から、目で確認することなく慣れた手付きで該当する用紙を1枚取り出して、羽根ペンと共に少女に差し出す。
「登録申請書です。文字は……」
「あ、大丈夫です」
そうだろうな、とは思っていても、一応は手順通りに確認した受付嬢。
この少女が文字を書けないなどと思う者は、ひとりもいないであろう。
そして、申請書に記入している少女を見詰める受付嬢。
普通はじろじろと見るのは無礼であるが、申請書に書き込んでいる少女にはバレることがないので、じっくりと観察している。そしてそれは、この受付嬢だけではなく、他のギルド職員やハンター達も同様であった。
金髪で、整った容貌。均整の取れたプロポーション。やや低い身長。
顔は日に焼けた様子がなく、羽根ペンを握る手は細く綺麗で、水仕事で荒れた様子も、剣の鍛錬でゴツゴツになった様子もない。体幹のバランスも動きも、そして周りへの警戒心も、到底武術の心得がある者のそれではなかった。
……つまり、とてもハンターになるために修業したようには見えない、ど素人であった。
下級貴族か 大店(おおだな) の娘、と言われるのが一番しっくりとくる。
その身体を覆う 革鎧(レザーアーマー) と、腰に佩いた短剣。
短剣といっても、 歩兵剣(ショートソード) のようなものではないが、しかしナイフのように短くもない。全長50センチくらいの、短剣としてはやや長めの部類に入る剣士の予備武器、もしくは槍士や弓士の護身用とか、小柄で非力な者が使うようなものである。
そして腰のベルトには、短剣の他にもいくつかのものが付けられていた。
小さな、銀色の小箱。水筒と思われる筒。皮袋。
ポーションによって髪と肌と眼の色を変え、左の手首に付けられた『 ポーションの容器(ブレスレット) 』によって顔の造りを光学的に変更し、ボイスチェンジャー機能も搭載。
ポーションの効果と重複しているが、万一ブレスレットにアクシデントが生じた場合、髪と肌と眼の色が変わらなければ、片腕で軽く顔を隠すとか後ろ向きになるとかで、ごく短時間であれば誤魔化せるであろうとの考えによる。電気照明がないこの世界は夜間は薄暗く、視認性が悪いということも有利に働くであろう。一瞬誤魔化せれば、さっさと現場から離脱すればいい。
身長を変えなかったのは、頭の高さの見た目が変わると、何かにぶつかった場合とか、視線の向き(俯角、仰角)がズレたりしてボロが出るのを防ぐためである。肩の位置が外見とズレれば、剣を振るにも違和感が出てしまう。
ギルド内にいる人々の注目を集めながら、それには全く気付くことなく申請書に記入しているハンター志望の少女、『キャンディーダ』。
……『中の人』は、勿論、レイコであった。