軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

229 事業展開 3

「すまんすまん……」

あまり本気で謝っているとは思えない顔で、形だけの謝罪をする領主様。

そりゃ、自分が本当に悪いことをしたとは思っていないだろうから、口先だけで小娘に謝るくらい、どうってことないよね。

これが他の貴族に対して、とかなら、色々とあってそうそう簡単に頭を下げたりはできないのだろうけど……。

「だが、自分の不甲斐なさのせいで不幸になろうとしていた子供達が、無事救われたのだ。嬉しさとお詫びの気持ちで、少し贅沢なお菓子で歓待したくなるのは仕方ないであろう!」

う……、確かに、その気持ちは分からないでもない。

それに、領主様は子供達とは初対面というわけではないらしいのだ。

以前、ミーネから聞いた話によると、孤児院への定期的な支援や差し入れの他に、時々慰問みたいな形で領主様自ら孤児院を訪問してくれたり、運営費稼ぎのショボいイベントとかの時にも顔を出して集客に貢献したりしてくれており、一応は『顔見知り』らしい。

だから、おやつで簡単に懐柔されてペラペラと喋ってくれていたわけだな。

うちで出すのに較べるとかなりショボい、『この世界ではそこそこのお菓子』で……。

すごく偉い人、自分達の味方、……そして『食べ物をくれる人』。

駄目だ、子供達が懐柔されるのも無理はない。

……特に、『食べ物をくれる人』ってとこで。

普通、孤児は貴族やら権力者やらにはそうそう懐くもんじゃないからなぁ。

大抵は、遊びや憂さ晴らしで殴られるか、『狩りゲーム』の獲物として使われて半殺し、もしくはそれから『半の文字が取れたヤツ』にされるとかだし……。

あ、いや、それは70年ちょい前、私のこの世界における『 第1(ファースト) シーズン』での話だ。今の時代、そしてこの国、この貴族領でもそうだとは限らないか。

それに、この領主様は平民も大事にしているようではある。

……でも、こういう文明レベルの世界では、それくらいの年月で劇的な変化があるとは思えないしなぁ。一揆やクーデターでも起きて支配者層が逆転でもしない限り……。

いや、そんなことはどうでもいい。

問題は、子供達が何を喋ったか、だ。

そう考えていると、リュシーが領主様に向かって何やら嬉しそうに大きな声で 捲(まく) し立て、イリーとフリアがそれを止めようとして騒ぎ始めた。メイドさん達の注意も、そちらに集中している。

そして……。

「……大丈夫です、重要なことは何も喋っていません。領主様からのお話が『言ってはならないこと』の方向に向いた時には、最年少のリュシーが到底信じられないような馬鹿話をすることによって話の信憑性を完全に破壊して、うやむやにしています。

そしてその時には他の者が肩を竦めたり呆れたような顔をしたりして、リュシーの話が大法螺だと強調しています」

ミーネが、私の耳元で、小さな声でそう囁いた。

あ~、やっぱりなぁ……。

コイツとイリー、フリアが居て、リュシーが情報漏洩をするのを黙って見ているはずがないよなぁ。全部、お菓子を食い終わるまでの時間稼ぎのためか……。

いや、子供達に領主様からの招きを断れるわけがないから、それ以外の選択肢がなかっただけか。

コイツらが、 私達(やといぬし) との約束よりお菓子の方を優先するはずがない。

私達はコイツらをずっと雇ってやるけれど、領主様が腹一杯お菓子を食べさせてくれるのは、おそらく今回だけだ。そしてそれくらいのことは、コイツらにも分かっているだろうからね。

そして、ミーネの耳打ちが済んだと思ったのか、唐突に終わるリュシー達の騒ぎ。

……怖いわ、コイツら……。

「うちの従業員達が、すみません……」

一応、謝罪の言葉を口にしてはいるけれど、勿論、こっちが悪いなんて 欠片(カケラ) も思っていない。そしてそのことは、領主様にも分かっているだろう。

そう、全部、子供達に『断ることのできないお招き』をして、そのことを知らせる使いを出さなかった、お前が悪い!!

「いや、無理に招いた上、知らせも出さなかったこちらが悪い。気にするな!」

「まぁ、そりゃそうですよねぇ……、あ、いえいえ、とんでもございません!」

「「「「…………」」」」

領主様、そしてメイドさん達までもが、唖然とした顔で私の顔を見詰めている。

いや、さすがに今のは、失言も過ぎるだろう。

領主様が本当に平民や子供に甘いと知ってしまったからか、つい気が緩んだ……。

「いやいや、今のは本当に失言でした、申し訳ありません! つい、思っていたことが口に出てしまい……」

「「「「…………」」」」

「あ、いえ、そうじゃなくて、無意識に本音が……」

「「「「…………」」」」

あああああああ、どんどんドツボに 嵌(は) まっていくううぅ!!

……しかし、どうして子供達は焦った様子もなく、私の領主様に対するとんでもなく上から目線の無礼な言葉の連発を、ウンウンと頷きながら平然とした態度で見ているのだろうか……。

* *

「ほ、本当に、申し訳ありませんでした……」

うん、これがもし他の貴族だったり、そしていくらいい人っぽいこの領主様であっても虫の居所が悪くて怒らせたりしていたら、無礼討ちされていても不思議じゃない。それくらい、貴族と平民の格差は大きく、心底ヤバい場面だったんだ。

私は自業自得だから仕方ないけれど、私の馬鹿なミスで子供達を危険に晒すことは許されない。

いくら『爆裂ポーション』で返り討ちにできるとはいえ、子供達に領主殺し一味の汚名を被せるのは申し訳なさすぎる……。

「よいよい。子供の些細な言い間違いに本気で怒る程、狭量ではないわ!」

そう言って不問にしてもらえるのはありがたいけど、本当にそれだけかなぁ。

私やレイコが貴族の娘だと思ってるからじゃないのかなぁ……。

ま、そう誤解されるように振る舞っているわけだから、私やレイコ、恭ちゃん、そして子供達に危害を加えないでいてくれるなら、理由はどうあれ、大歓迎だ。

あ、恭ちゃんのことはまだ教えていないから……、まぁ、どうせそれくらいはすぐ調べるだろうから、わざわざ連れてきて紹介したりはしなくていいか。

ストーカー行為まではやらないだろうけど、部下に命じて定期的に私達の動向を確認させるくらいのことはやっているだろう。

自分の領地の領都で、こんな怪しい連中が色々とやらかしていれば、そりゃ、私だって調査させるよ。馬鹿じゃなければ……。

そして、後日お酒や干物、燻製その他を届ける約束をして……勿論、ここから先は有料……、子供達を連れて引き揚げ。

子供達は、ポケットにお菓子をギュウ詰めにしていたけれど、それくらいは許されるだろう。

「よし、撤収!」

「「「「はいっ!!」」」」

* *

「……リトルシルバー、か……」

カオル達が帰った後、子供達が届けた干物を軽く炙らせ、それをつまみとして、一緒に届けられた酒を飲む領主。

「いくら調べても身元が分からぬ娘たち。平民の為に危険を冒し、カネを惜しまぬ異常な行動。

馬鹿かと思えば、小賢しく立ち回り成果を出す。

どこの国の貴族の跳ねっ返り娘か、大商家の放蕩娘か。

……面白くて、退屈せぬわ……」